魔王 付き人(猫)も拷問を受ける
「魔王様にゃ・・・」
その声とともに重い扉が開き、大きな目をぱちくりさせ入ってきたのはソールだ、きっとワシの事を不憫に思った神様が使わせてくれたのだろう(もちろん魔王が神の存在など信じているわけはない)。
「おおソール、何かあちらで動きでもあったか、よしすぐに行ってやろうではないか」
大げさにいつもよりも大きなそぶりをして、これ幸いと腰を上げようとしたのだが、その希望すら軽く摘み取られてしまった。
「あらあなたは魔王の付き人でしたね、ちょうどいいですあなたにも一言だけ言いたいことがあります、こちらに座りなさい」
そう言われてソールもワシの横の(おそらくワシの様子を見て)正座でチョコンと座ってしまった。
何かワシに用でもあったのではないのか、それとも本当にただ来ただけなのか。
「いいですかあなた、付き人と言うのはその主が道を踏みはずしそうになった時にそれを止めるのも役目なのですよ」
「そんな事無いにゃ、魔王様は間違ってないにゃ」
コラ反論するな、そんな事をするとまだ話は長くなるではないか、ピルカの話は黙って聞くが正解なのだぞ。
「あら、そう言えばあなた料理は上手でしたね、今晩の夕食の前菜にはキャットソルベ(猫の氷漬け)でも頂こうかしら」
その眼は絶対に本気だ、謝るなら今のうちだ。でないと今晩のおかずにされ美味しく頂かれてしまうぞ。
「それは出来ないにゃ、調理方法を知らないにゃ」
「大丈夫ですよ作るのはワタクシですから、あなたには材料だけ用意していただければいいのよ」
その言葉でやっと意味が分かったか、ソールは青ざめ「ごめんなさいにゃ」と言うと急に黙ってしまった。
「分かってくれたようね、今日のところは食べるのを止めてあげましょう」
何とか命を長らえたソールが大きく息を吐いた時、運の悪い事にちょうど日が落ちたらしく、猫の姿となってしまい文字通り借りてきた猫のように、その場に猫背ではなくピンと背筋を伸ばして座っている。
「あら、食材になっていただけるなんて優しい付き人ですね」
「まて、ピルカこいつを食う事はワシが許さんぞ、どうしてもと言うならワシは本気でお前を倒さねばならなくなるぞ」
「魔王からそのような言葉を聞くとは思いませんでした、昔より優しくなったようですね」
ワシを何だと思っておるのだ、ワシは昔から自分の身内に手を出すものを許した事はないだろうが。覚えておるか、お前を傷つけたどこぞの国の大将の末路を…。
「分かりました、この猫には手を出さないようにしましょう」
そうか分かってくれたか、よし今度こそここから離れてやろう。
「それで話の続きですが」
あれで終わりではなかったのか、普通だったら丁度区切りもいいし、場面転換のチャンスではないか、ここを逃すとだらだらと続けねばならなくなるぞ、本当にいいのか。
「誰と話してるんですか、見えないお友達でもいるんですか」
それはスルーするのがマナーだぞ、いいから早くお前の話を続けろ、終わるまでワシを放す気などないだろ、早くせんと舞台本番が始まって封印解除どころではなくなるぞ。
「では続けますよ、いいですか連絡をせずに帰らなかった事はもういいです、次は・・・・」
それ以上の話があるのか、反省しておるからもう良いではないか。
「ワタクシ達の娘に手を出したという噂があるのですが本当ですか」
ちょっと待て人聞きの悪い事を言うな、戦ったのは事実だそれにワシの配下に入れたのも事実だ、しかしそれ以上の事はしとらんぞ。
「最初に手を出したのがクルリと言う事も含めて旦那から聞いて知ってます」
ならばいいではないか、それ以上の事はしとらんし毎日学園にも通わせておるぞ。
「あくまで噂なんですが娘の裸を見たという事はないですよね、それに同棲をしてるというようなこともありませんよね」
両方ともハイが正解です。しかし絶対に口の出さんぞ。
「どうしたんです、返事がありませんよ」
口に出したり、反応を示したりすると永遠に氷柱に閉じ込められてしまうような気がするのだが・・・ワシは嘘は苦手だ、ここは黙っておるのが一番得策であろう。
「黙ってないで何とか言って下さい」
もう限だ、すべては事故だったんだ、素直に謝ろう。




