魔王 最後の夜を迎える
「・・・・・以上」
ワシの最後のセリフが体育館にこだまする。
「やったじゃない、完璧よ」
横に立っていた勇者役のサッシーが言っている、そう言うサッシーも初めてなのに一度としてあれだけのセリフや演技も間違える事無く勇者の演技を完璧にこなしてしまった。
どうだワシの見る目は正しかったであろう。
あんなキャスト一覧にに名前すら出てないような男に頼まんと、最初からサッシーが勇者役をやればよかったのだ。
「じゃあ本番の舞台は広いけど明日は緊張しないようにね」
そう、この演劇に参加した本当の理由が明日の本番に有るのだ、それはこの演技を行う場所が関係している。
その場所こそ魔王の城、つまりワシの城で行われるのだ。
ここに来た時は勇者としてあの城に帰る予定であったが、おかしなシステムのため、城に帰れるのはいつになる事やらと思っておったのだが、何の気まぐれかサッシーの推薦でワシが魔王役をやれるとは千歳一遇のチャンスであった。
つまりあのスパルタに耐えたのも城に帰れるという希望があったからなのだ。
決してサッシーに演劇をやるように無理強いされたとか、脅されたとかではないからな、これはワシの意思で演技をしておるのだからな…本当だからな、疑う出ない。
「じゃあマオ帰るわよ、セリフも覚えてるようだし、今日はご希望通り、早く眠らせてあげるわね」
それは有難い、これで明日は本調子で演技ができるな。
そして部屋では久しぶりに太陽が昇っているうちに帰れるという快挙をなし、何日ぶりだろうソールの美味しい夕食を頂くことが出来た。
それで今日サッシーは自分の部屋に帰ってくれるのであろうか・・・。
それは残念ながら叶わず、食事が終わったかと思うと当り前のように奥の部屋に何事も無かったかのように入って行くではないか、やはりこのまま居座るつもりではないだろうな。
「明日は魔王の城まで行くんだからマオも夜更かししないで早く寝るのよ」
部屋に入る前にサッシーはそんな事を言っているが、当り前だ、ワシが夜更かしするなどあり得ないではないか、今まで夜更かしをさせていたのは一体誰なんだ。
ワシの呟きなど聞く耳を持ってくれず、言いたい事だけ言うと自分の部屋の扉を閉めてしまった(ワシもあの部屋をサッシーの部屋と認識してしまってるではないか)。
まあ良い、この演劇さえ終わってしまえばワシの勝ちだ、城から帰ると早速この部屋からサッシーを追いだしてやろう、これでやっとワシの平和な時間が戻ってくるではないか。
いや違う違う、ここにはもう帰ってくる必要はないではないか、そのまま城で生活すればいいではないか、この学園に入ったのは自分の城に帰れなくなったからだ、ワシの封印さえ解ければもうここには用はないな。
そうか今日がここでの最後の夜となるのか、少しさみしい気もするがしっかりと堪能するとしよう。
と言ってもただ寝るだけなのだが、そんな事をほんの僅かだが考え、布団入り目を瞑ると速攻で深い眠りへと落ちるのであった。




