魔王 朝練をさせられる
「いつまで寝てるの朝の練習を始めるわよ」
まだ辺りは暗く、しかもワシは間違いなく自分の部屋には鍵を掛けておいたはずなのにそこにはサッシーが元気よく立っている。
「どうやって入ったんだ、今度は外からは無理なはずだぞ」
「秘密に決まってるでしょ、でもこの位はたやすい事よ」
その言葉はどこかで聞いたような気がするぞ、Aクラスは一体何を教えているんだ、それともサッシー特有の能力なのか。
「じゃあ起きた所で始めるわよ」
「待てワシは心の準備が出来とらんぞ」
「そんな物はいらないわよ、朝は新しい事なんか覚えにくいんだから昨日の復習だけよ」
はっきり言おう、昨日の事など覚えとらん。いつも言ってるではないかワシは9時には眠らないと調子が出ないと。
実際の所はワシに掛けられている呪いのおかげで眠っている間に夜9時から朝6時までの記憶は完全にリセットされてしまうらしい、それに気が付いたのはこの学園に入ってしばらくしてからだった。
普通の学生のように夜遅くまで起きていたと思うのだがいつも夜の記憶がない、もちろん酒を飲むとかはしてないからな。
それで思ったのが若返る副作用でこのような効果まで付いているのではないかと言う事だ。
だからせっかく台本を覚えたようだが夜の練習はワシにしてみると一切無駄なのだ。
サッシーの言い方からするとあの台本を覚えさせられていたのだろう、しかし覚えたのならもったいない、全くと言っていいほどワシの頭には入っとらんぞ。
だからこの早朝特訓もワシにしてみると有難迷惑なのだが、こんな体質だとか言っても「サボる口実でしょ」とか言われて特訓の手を休めてくれることはないだろう。
「まずは昨日の復習からね、開校式の魔王の言葉を言ってみてよ」
「だから言ったであろう。覚えとらんと」
「そんな事無いでしょ、眠る前には半分は出来てたじゃない」
「そうなのか、それは惜しい事をしたのう」
「何他人事のようなことを言ってるのよ、あなたの事じゃない」
「すまんがワシは夜は覚えるのに向いとらんみたいじゃ、と言うわけだ夜の特訓はやめようではないか」
「そんな事言って、サボろうと思ってるでしょ、ダメよ今日もやるからね。覚えてないんだったら今から朝ごはんまで特訓ね」
その後の光景は想像できるであろう、そうその通りだ、なかなか覚えれないワシに対して優しく教えてくれるはずもなく、そこに待っていたのは想像を絶するスパルタ特訓であった。
この特訓の苦しさに比べると『魔帝』とのバトルの方が何倍も楽に感じてしまうぞ。
そんな特訓が毎日のように続き、(いい加減に夜に記憶するのはワシには無駄だと気が付いてくれ)、身も心も打ち砕かれ、次はいよいよ本番が明日へと迫った放課後の話である。




