魔王 魔帝とのバトルを開始する
「いくそ」
「では参りますよ」
二人同時にそう叫び部屋の中央で拳が激しくぶつかり、眩い閃光と共に部屋全体が激しく振動しその衝撃によりテーブルやイスが跡形もなく粉々に砕け散ってしまった。
そんな戦闘は予想に反し三日三晩続いている。
あまりの衝撃でこの部屋に入って来た所に有った頑丈な扉もすでに無くなり、綺麗に飾られていた壁にも今にも崩れんばかりにヒビまで入っているが、メイドたちが逃げ込んだ奥の部屋だけはまだ形を残している。
逆位言うとそれだけしかこの部屋の中に障害となる物が無くなっていると言った方がいいだろう。
「貴様いい加減に倒れたらどうだ」
「それは私があなたに言いたい事ですよ」
二人とも上半身に羽織っていた物はすでに跡形もなく消え去り、さらにそこから現れた筋肉質の体に無数に付いた傷がこの戦いの激しさを物語っている。
「もうお前のパンチには魔力は乗っておらんではないか、そのような物ではワシには傷一つ付けることは出来んぞ」
「そんな事はありませんよ、すでに枯れ果てているあなたに合わせているだけですよ」
激しい息遣いからそれがハッタリか本心なのかは分からないが、この勝負に間もなく決着が付きそうなのは二人の様子から簡単に想像はつく。
「私のメイド達がお腹を空かせていますので、そろそろ終わらせて食事の準備をさせていただいてよろしいでしょうか」
「よかろう、ワシもソロソロ腹が減って来た所だ、早く終わらせて飯にしたいぞ」
「利害が一致と言う事でよろしいですね、ここで私から提案があるのですが聞いてもらえますか」
「提案だと、敗北を認める気になったか、よかろう受けてやろう」
「提案と言うのはですね、このまま殴り合っても時間ばかりが過ぎておそらく決着はつかないと思うのですよ」
「そんな事はないだろう間も無くワシの勝利で決着がつくぞ」
「そこでですね・・・」
ワシの話を完全に無視してこの『魔帝』の奴は話を続けてきやがる、よかろう提案だけは聞いてやろう。
「今から私が使える最高の魔法を使います、それで生き残っていればあなたの勝ち、死んでいれば私の勝ち、どうです簡単でしょ」
本当にそれでよいのか、ワシを魔法で倒そうと言うのか、それは無駄な事だと分からんのか、今までの戦いの中でも『魔帝』の奴は最初は魔法でも攻撃をしていたが、それが一切効かなかったので肉弾戦になったのではなかったのか、そのれが最高の魔法だと、いいだろうワシを倒せる魔法があるならやってみるがいい。
「では了承でよろしいですね」
「いいだろう、その条件受けてやろう」
「賛同ありがとうございます、それではあなたがお連れになったお供のお嬢様もこちらの部屋へお連れ下さい、私の物になる予定の方に怪我をさせるわけにはいきませんのでね」
こちらとはもちろん他のメイド達が避難しているあの小部屋の事だ、やはりあのスペースは特殊な魔術か工法で出来ていて、ダメージを受けないように出来ているのだろう。
「その場所は絶対に安全なのだな」
「安心しなさい、私は女性には優しいのですよ」
「その言葉信じよう、ルナ、ソールあの部屋で隠れていろ、すぐに決着を付けてやる」
「分かったにゃ」「魔王様早く迎えに来ての」
二人とも今まで部屋の外で戦いが終わるのを待っていたらしく、ワシの言葉に部屋を走り抜けながら一言ずつ言ってあの小部屋へと走り込んで行った。
「健気な子たちですね、あなたが亡くなった後は私が責任を持って面倒を見てあげますので心置きなく逝って下さい」
「やれるものならやってみろ、逆にお前のメイドを貰ってやろう」
「それは出来ませんよ、それを今から証明して見せましょう」
そう言うと『魔帝』は拳を握った右腕を大きく上に伸ばし、その体制はちょうど天空から何かを掴むような態勢になった。