魔王 魔王を演じる
「もう一度訪ねる、勇者よワシのために新たな勇者を育ててはくれぬか」
「何度言われようが断る、なぜ私がお前のような者のために働かねばならんのだ」
「・・・ちょっと待て」
「何よ、やっと練習が始まったばっかりでしょ」
「いやそうなんだがサッシーよ、このセリフだがお前自身のの言葉で返してみんか」
「どう言う事よ、ちゃんと台本通りでいいじゃない」
「今回こそお前との戦いに勝利を収めたいのでな」
「これは演劇よ戦いじゃないじゃない」
「いや、戦いだ肉体のぶつかり合いではなく言葉と言葉のな」
「分かったわ、やってあげるわよ、でも今回も私に勝てるわけないじゃない」
「良かろう、アドリブも有りでよいな」
「いいわよ、じゃあ私も有りで行くからね」
よし、ワシの知る歴史通り進めさせてもらうぞ、この台本には不備が多すぎる、これでワシの知る歴史に修正が出来そうだな。
また元のスタンバイ位置に戻るといよいよサッシーとの演劇バトルスタートだ。
「もう一度訪ねる、勇者よワシのために新たな勇者を育ててはくれぬか」
「何度言ってもだめよ、なぜ私があなたみたいな者のために働かないといけないのよ」
「決まっておろう、お前の目的は何じゃ富や名声を得るのが目的か」
「違うわ、そんな物のためにここまで来たんじゃないの」
「そうであろう、ではお前の目的を言ってみるがいい」
「それは・・それはあなたを倒して世界を取り戻す事に決まってるじゃない」
「そうであろう、しかし残念だがお前の力でワシを倒す事は不可能だ」
「そんなの事・・・ないわよ・・・」
自分の伝説の剣の無残な姿を再び確認すると、己の無力さに改めて気が付いたのかのように勇者はその場に膝から崩れてしまった。
演技まで入れて来るとはこちらももっと本気で攻めないと押されっぱなしだ。
「分かったであろうワシの力の凄まじさとお前の無力さに、しかし将来必ずワシを倒せるような勇者が現れるであろう、その者をお前たちの力で導いてくれと言っておるのだ」
ここは優しく勇者の背中を叩き最後の一押しをしてやろう、この優柔不断な勇者は何時まで経っても答えは出ないのであろう。(その優柔不断さは校長になっても変わってなかったようだがな)
「今の世界でその仕事ができるのはお前だけだ、それに戦士や僧侶、魔法使いどもはすでに了承しておるぞ」
その言葉に勇者は自分の仲間がいるであろう場所を見回し、覚悟を決めたのかやっと立ち上がりその折れた剣を高々と持ち上げ「いいでしょう」そう一言だけ返事をし持っていた剣をワシの方へ投げて渡してきた。
自分の得物である剣を投げるとは服従のサインと見てよいのだな、では自殺できない呪いの他にもう一つ『年を取りにくくなる』呪いを付け加えておこう。
「年を取らないですって、では私は不死身になったのですか」
「そんな事あるわけないだろ、ただ年を取るにくくなったと言っただけだ」
「どう違うの」
「お前は人だ、それを不死身にすることは不可能だ、だから年を取るのをそうだな50年に1歳ぐらい老いていくようにしただけだ、つまり怪我、病気では死んでしまうと言う事だ」
ただ最初に掛けておいた自殺が出来ない呪いの副作用で病気、怪我を負う事はないのだがな、これは秘密だ、なぜって面白いからに決まっておろうが。
「カリキュラム等はすべてお前たちに任せよう、必要な物は言ってくれ、さすれは用意いしてやろう」
「それは本当ね」
「当たり前ではないか、ワシに二言はない、どんな無理でも言ってみろ叶えてやろう」
「では私達のために大きな学舎を用意してもらいたいの、それとどんなに暴れても誰からも文句を言われない広大な土地もほしいわ」
「そんな物でいいのか?よかろう、すぐに用意しよう、おまけで世界から優秀な人材も集められるように宿舎も用意させよう」
すぐに世界地図を広げ誰も人が住んでいない広大な土地、つまり今現在はこの学舎が立っている場所、当時はまだ人の出入りを頑なに拒み、魔物の楽園で『闇の森』と呼ばれている所を指さした。
「正気?こんな所に作ろうと言うの、それとも魔物たちはあなたの配下なの」
「知らんな、魔物はワシの手にも負えんな、しかし配下にするのも面白そうだな、よかろうワシ自らその魔物を退治してやろう」
どこから来る自信かわからないがそんな無謀な契約をこの時勇者と結んでしまった、魔物は脅しとか威圧など一切通用しないので、一体ずつ地道に倒さないといけないのでめんどくさいのでここだけは避けていたのだ。(実際は勇者に言われなくてもヒマな時に少しずつ時間をかけ攻めていこうと思ていたのだ)




