魔王の今現在
「カット、何勝手に動いてるのそこは勇者が即答するとこでしょ」
「何を言っているここは魔王が奥に入って行くが正解だろう」
「あなたね、この演劇は1年生がこの学園の歴史を後世に伝えるためにやる伝統行事でしょ、それも分からないの」
さっきからうるさくこのワシに命令をしてくるのは勇者学部1年A組クラス代表で入学試験において過去最高点をたたき出したと言われている、絶世の・・とまではいかないがワシが見てもなかなかの美人だと思う サッシー=ミドリヤ その本人だ。
で、先ほどから喋っているワシこそが魔王本人だ。
何か文句でもあるのか、なにー、信じれんだと、それにここは何処かだと、一度に聞いて来るな、よかろうワシが自ら答えてやろう。
簡単な事から答えてやろう、ここは 『魔王立勇者養成学園』 だ、ここにはこの世界中の勇者になりたい者が集まっておる、もちろん他にも戦士、魔法使い、僧侶、盗賊などのそれぞれ専門学科も兼ね備えておるがな。
それで勇者は何をするかだと・・そんな物は決まっておるではないか、勇者の目的と言えば魔王退治であろうが、そんな事も分からないのか・・・これだから最近の若い者は常識を知らないとか言われるのだ。
何のためかだと、聞いてなかったのか仕方ないもう一度言ってやろう魔王を退治するためだ・・そこじゃないだとワシが魔王なのにそんなはずがあるかだと。
ワシの演劇を見ていなかったのかあれはほぼ事実じゃ、最後のワシが答えを聞きに奥に引っ込んだところまではな、どこで間違って伝わったかは知らんがワシの提案に答えるまであの勇者一行は悩んで1か月以上答えを出すまでにかかったと記憶しておるぞ。
あの時に何を勇者に耳打ちしたかだと、よく見ておったの、あの時に言った事は「ワシを倒せるような新たな勇者一行を育ててくれ」と言ったんじゃ、見てもらった通りあの一行ではワシの体にかすり傷一つ付けることもできなかったではないか、もちろん瞬殺しても良かったがそれよりは何年かかってもいいからワシを楽しませてくれるような最強の勇者を育ててもらった方が面白いではないか。
「マオは何処でサボってるのよリハーサルを再開するわよ」
サッシーの奴め、ワシの事を誰だと思っておるのだ、ここは一回どちらが上かはっきりとさせとかねばならんな。
「こんな所にいた、早く行くわよ」
そう言うとサッシーは魔王の耳をつまみそのまま引っ張るように歩き出した。
「コラ、どこを持ておる痛いではないか離さんか」
いつものことらしく、その位の事を言われたくらいでサッシーは離すような娘ではない、そのまま戦闘が始まる前の状態まで綺麗に片付けられた舞台まで引きずられるように連れて行かれてしまった。
「やっぱり魔王様はあの娘にはかなわないにゃ」
今まで魔王が隠れていた部屋の隅にいつのまにか現れていた白いメイド服を着た小柄な色白の女の子が黒い子猫を抱いてそんな事を呟いている。
「ねえ、何時からだったからかにゃ」
その子は自分が抱いている猫に向かって話しかけている。
「のぉ~」
話している言葉が分かっているかのごとく、その子猫はこの娘の顔を覗き込むように鳴いている。
「そうにゃ、第1回試験の後からだったにゃ」
やっぱり猫の声が分かっているのかそれとも他に誰かいるのか独り言のように喋り続けている。