魔王VS勇者一行
「フッハッハッハッ、お前達で最後だな」
見るからにいかにもラスボスが住んでいそうな禍々しい漆黒の闇に覆われた城の最上階から高笑いと共に大きな声が漏れてくる。
「観念するのはお前の方だ魔王め」
大きな太刀を構え黄金に輝く鎧を纏い、魔王と呼ばれる者に今から戦いを挑もうとしている者達がいる。
「勇者様、サポートは私達にお任せください」
純白の法衣を纏った僧侶と思われる女性がその横に立っている全身を黒のローブと帽子を被った魔法使いの女性と共に大きくうなずいている。
「勇者、雑魚は片付いたぞ、本丸をやるか」
全身を真っ赤な鎧、いや炎に包まれた鎧と自分の背丈よりも大きな斧を構えた屈強な大男の戦士が笑顔で言っている。
「皆、最後の戦いだ気を引き締めて行こう」
勇者と呼ばれている者が自分の仲間たちを見渡し檄を飛ばすと、また魔王の方へ向き直した。
「おう、もちろんだアイツさえ倒せばこの長かった戦いにもようやく終止符が打てるな」
戦士も自分の鎧の火力をさらにアップさせ臨戦態勢バッチリと言ったところか。
そして僧侶、魔法使いは精神を集中させいつでも呪文を唱えられるようだ。
「いくぞ!」
その勇者の掛け声とともに先手必勝と戦士が魔王にその大きな斧で切り付け間違いなく一切防御態勢を取っていなかった魔王の胸元にヒット。
「絶対防御」
僧侶が唱えると勇者の周りに薄い霧のようなものが漂って来た。
「最後の炎」
魔法使いが呟くように唱えると魔王の周りの床が溶け出し部屋は信じられないような高温に包まれた。
「コラ魔法使い、その禁呪を唱えるなら前もって知らせんか、絶対防御が掛かって無ければ全滅だったじゃないか」
「知ってた・・だからやった」
無表情のまま魔法使いは答えている、しかしその手に持つ杖は地面を溶かし、いまだに紅蓮の炎を上げ燃えている魔王が立っていた部屋の中央に構えられたままだ。
「まさか魔王はこの炎の中で生きていると言うのか」
「うん、気配がする」
魔法使いが言い終わる前に炎の中から大きな塊が動き出し、一瞬消えたかと思うと勇者の目の前に飛び出してきた。
それは全身に溶岩を纏った魔王その者だ、もうだめだ、誰もが思ったその瞬間後ろから呪文と唱える声がする。
「瞬間凍結」
魔法使いが唱えた瞬間魔王が纏っていた溶岩は固まり元の岩へと戻ってしまった。
「勇者様、今なら動けないはず早くその剣で止めを刺して」
僧侶にしては無慈悲な言い方ではあるが、魔王に支配されているこの世界を救うにはそれが正論だろう。
「任せろ!」
そう言い残し勇者は固まった岩のわずかな隙間にその大きな太刀を一直線に突き刺した。
「勇者、そんなんじゃ気が済まねぇ、ワシにもやらせろ」
戦士はその大きな斧を頭頂部と思われる辺りに一切の躊躇なく振り下ろし、その刃を一気に地面まで振り切った。
誰もが戦闘が終わり、これで平和な世界が訪れる、そう思っていると部屋に大きな笑い声が響き渡った。
「フッハハハハ、これでお前たちの攻撃は終わりか、最後の勇者と言うのはこの程度だったのか、つまらんな」
岩の塊は崩れだし、中から現れた全裸の男(魔王)のは一切の傷もない。 悪いことにその表情から全くダメージを受けた様子もなく、自分を覆っていたガレキの上に直立している。
「そんなバカな、確かに剣に手ごたえはあったぞ」
「ワシの斧も地面を切り裂いとるぞ」
二人は顔を見合わせたがその二人に顔は見る見る曇って行く、その目の先にあるはずの二人の得物の先の刃物部分は見事に消滅している。
「まさかとは思うがお前らが最高の勇者達でそれが伝説の武器とか言わんだろうな」
魔王はさみしそうな顔をしている、その反対に勇者と戦士は顔面蒼白と言った感じだ。
「やっぱりつまらんな、この程度だったか期待して損したな」
さらに一歩魔王は歩みだし、あと少しで勇者に手が届こうかとした時、魔王の後ろに人影がどこともなく現れた。
「勇者、逃げろ、こんな化け物、相手するな」
どこから現れたか真っ黒な布を身にまとい、いかにも身軽な出で立ちの人と思われも者がいつのまにか立っている、ただ顔も見えなし中性的な声のため性別は不明だ。
「ひどい奴だ、こんな物をワシに刺すとはな」
魔王は自分の首筋に刺さっている細く長い針のような物を抜きながらその黒い者の方へ向きなおした。
「お前、もう、しばらく、動けない」
黒の者は静かに、しかしはっきりとした声で言っている。
「はたしてどうかな」
魔王はそんな状態でも一切慌てた様子はない、それよりも新たな刺客に喜びを感じているようだ。
「それ、猛毒付いてる、急所に刺した」
黒い者は懐から細長い試験管のようなビンに入っているいかにも毒薬と言った色の薬品に針の先を浸し、一本、また一本と魔王の体に投げつけると、最初の毒と急所への攻撃が効いているのか、投げられた針は見事に狙った場所に面白いように刺さっている。
そして最後の一本を投げた後、普通の者ならここで止めをと思うのだろうが、その圧倒的なスピードの攻撃を驚きの表情のまま見ていた勇者の前へ黒の者は足音も立てず瞬間移動のように現れた。
「早く、逃げろ」
あっけにとれれている勇者、戦士などとは別にこの黒の者はいったって冷静な喋り方をしている。
「そうだな、悔しいが魔王をこのままにしておくのは心を痛めるが、ここを抜けるなら今しかないようだな」
この部屋に入るための唯一の大きな扉に向かい一目散に勇者一行は走り出した。
しかし今までピクリとも動かずまるでハリネズミのようになっていた魔王がその針を一瞬にして弾き飛ばし勇者一行の前に飛び出してきた。
「そんなに慌ててどこへ行くつもりだ、そこの黒い者よ誉めてやろういい攻撃だったぞ」
魔王の表情は笑顔だ、もちろんどこにも針の刺さった後はない。
「うそだ、あの薬は、巨人族ですら、1滴で、瞬殺出来るのに」
「そうかいい薬だな,だが残念だこのワシの体に毒など一切効かんからな、さすがに最初の1本は驚いたがな、ハハハハハ」
その高笑いを聞いた後、よっぽどこの毒に自信があったのだろう今まで冷静だった黒の者はその場に崩れ落ちてしまった。
「先ほど答えを聞いて無かったからもう一度聞く、お前たちが最高で最後の勇者一行か」
その言葉に観念したかのように勇者は小さくうなづいた。
「そうか良く分かった、今のこの世にはこのワシを楽しませてくれる者はおらんのだな」
少しさみしそうな顔をした後、腕組みをし何かを考えていた魔王は何かを閃いたように勇者の傍にかがみこみ一言何かを耳打ちした。
その声を聞いた勇者は驚いた表情のまま固まってしまった(もちろん石になったとかじゃなく緊張しての方ね)。
「返事は『ハイ』か『わかりました』か『了承』か『OK』以外は受け付けんからそのつもりで、もちろん自殺はもっと受け付けんぞ、先ほどお前たちにそれが出来ないよう呪いを掛けておいたからな」
「ちょっと待て魔王、お前達と言う事はワシにもか」
すでに鎧を覆っていた炎は消え、見た目は普通の真っ赤な鎧を着ている戦士は怖くないのか魔王に詰め寄っている。
「もちろんだ、お前も頭数に入っとる、そこの3人お前達もだ」
魔王は戦士たちの後ろにいた魔法使い、僧侶そして黒い者の方を向き直しニヤッとした笑顔で見回している。
その後どこから取り出したかマントを纏い(忘れていたが今までこのシリアスな展開を魔王は全裸で行っていた)この一団に向かい直し満足そうな表情を浮かべている。
「いつでもいいぞ、返事をしたくなったらワシの部屋に来い時間はたっぷりあるからな」
そう言うと先ほどまで戦闘が行われていた奥の部屋へと入ってしまった。
そこに残された勇者一行は呆然とした表情でその動向を見守ったままだった。
初投稿、気楽に読んでください