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執事見習い達の一幕

「リア充爆発しろ!」


とは友人の口癖のようなものだった。


意味はわからないがニュアンスは分かる。むしろお前が爆発しろと言いたい。


そもそも「りあじゅう」とは何だと問えば、現実(リアル)を充実してる奴の略だとか抜かしだした。

ますます意味がわからない。


そんな訳のわからない事を言う時は大抵は俺が女子からの呼び出しを受けた時。


好意どころか、喋った事すらない相手に告白される事など迷惑以外の何物でもない。


そんな私は現在、王立学院執事科に籍を置くイチ生徒に過ぎない。


「お前なんかに利用された挙句にポイ棄てされる男の気持ちがわかるかよ!!」


「耳元でぎゃんぎゃんと煩い。黙れ」


途端にピタリと音が止み、代わりに湿っぽい泣き言が漏れ聞こえる。


「ちくしょう!メアリーちゃんめ!!こんな奴の一体どこがいいんだよう!憎さ余って可愛さ100倍じゃねぇか!!もう騙されてやんねーからな!!」


「……」


また騙されるな、コイツ…。


眉間を指で揉み、息を一つ吐く。


「いい加減にしろ、ユート。だからあの女はやめておけと言っただろう」


「だってよう!メアリーちゃん、めちゃくちゃ可愛かったんだぜ!休憩時間の度に俺に会いに来てくれてさ、超夢見心地な恋する瞳で俺を見てるようで見てなかったり」


「それだけしっかり現状を把握しながら、何故現実を見ない」


その度にお前越しに感じる、ねっとり絡みつくような視線を感じて俺は辟易してたがな!!


「お前なぁ、メアリーちゃんは『お弁当作り過ぎちゃった』とか言いながらもお前にも弁当分けてくれるくらい優しかった子なんだぞ!!それが、それが、あんな女だったなんて…!!」


「……」


もはや掛ける言葉もない。


これで執事科の学年首席(トップ)だとか、一体何の冗談か。


今時珍しい勤勉学生だとかほざく、節穴教師共に是非とも物申したい。


とは言え、身一つでこの学院の門戸を叩くだけの実力だけは認めざるを得ない。


家族は遠く異国の地に母親と弟妹がいると言っていた。

出稼ぎか、と問えば、「そんなものだ」と曖昧に笑う。


実際、わからなくもない。


何処から来たかは知らないが、ユートは珍しい。


黒い髪に黒い瞳。


俺の知る限り、黒い髪も黒い瞳も珍しくはない。


珍しいのは髪と瞳が同じ色だという事だ。


この国にも同色の髪と瞳を持つ人間はいるにはいるが、それは王族か四公の血筋にしか(あらわ)れない。

血筋に関係なく、ごく稀にそういった者が現れる事もあるらしいが、やはり黒は珍しい。

遠い異国の田舎から来たというユートは恐らく奇異の目で見られて過ごしたのだろう。


(だからと言って、コレはない…!!)


洞察力も判断力も存分にある。

しかし、女にホイホイと騙されては俺の所へそれを運んで来る。


身寄りのない奨学生と言えど、成績、授業態度も申し分ない。


卒業した暁には恐らく引く手数多であろう事は予想がつく。

しかし、コイツの場合、とんでもないハズレを引く可能性が大いにある。いや、これはむしろ、確信だろう。


「ユート」


「なんだよぅ…」


「俺はこの課程を修了したらウィスタリア家に従事する事になる」


「…お、おう、それがどうした」


「俺がいい働き口を紹介してやる」


「マジで!?」


ユートの表情がぱっと明るくなる。


「マジだ。だから俺の紹介以外は全て蹴れ」


「うん!蹴る蹴る!!よかった〜、俺、ここ卒業したあと、どうしたもんかって悩んでたんだ!ほら、俺って引きが悪いじゃん」


自覚はあったのか…。


「でも、引きのいい、お前の紹介だったら、間違いないもんな!やっぱ、持つべきものは友達だよな!!」


背中をバンバン叩かれながら、ふと、ユートに関する別の可能性に思い当たる。


「マレビト」と呼ばれる存在の中にも同色を持ったモノ達がいなかっただろうか。


(ソレはない)


彼らは(マレ)なる知識をもたらす、偉大な「賢者」だと言われている。


俺は鼻で笑った。


「ちょっ、クロ!!今俺の事鼻で笑った!?笑ったよね!!」


「お前の軽いお(つむ)はいつになったら覚える!俺はクロフォードだ馬鹿者」


「いひゃい!!はら…ってぇー!何でよ!いいじゃん!友達なんだから、あだ名で呼んだってよ!」


(ジジイ)クロ(・・)ードなんだよ!!」


「あー、逃げ出したお前をココに放り込んだっていう?強者(つわもの)だよな、お前の爺ちゃん」


「うっせえ!!あんのクッソジジイ!!戻ったら一発殴ってやる!」


「おーい、下町言葉(スラング)出てっぞ誰かに聞かれてたらどうすんだよ」


俺はにっこりと笑いかけてやる。


「消す」


「冗談に聞こえねーよ」


ユートは顔を覆って呻いたが、俺の知った事ではない。


ガラーン、ガラーン…


終わりを告げる鐘が鳴る。


「さっさと寮に戻るぞ、ユート」


「へいへい…」


俺はユートと連れ立って寮へと足を向けた。







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