君は私色に染まる
サークルの自由課題で書き上げたものを、うpしてみました。
「ねぇ、天真」
「何だ、紫乃」
「紫陽花って、実は毒を持ってるものが多いのよ」
降りしきる梅雨の中、不意に後ろで紫陽花に水をやっている紫乃が話し始めた。俺たちの他に教室にいる者はおらず、シトシトと雨の降り続ける音だけが響き渡っている。
「紫陽花に限らず、色が鮮やかな物は誰かに穢されないように、毒を持ってるんだって」
「ふーん」
そういう物なのか。今まで考えたこともなかった。
「自分で守らなきゃ、自分を保てないからね」
「……なるほど」
「でもね、紫陽花の蜜は染色剤にも使われるの。触れた物は綺麗に青紫に染めあがるの」
「ん? 結局、紫乃は何が言いたいんだ?」
俺は気になって紫乃の方へ振り返った。
――刹那、俺の唇が塞がれた。突然の出来事に、俺はただただ圧倒されて、目を見開く事しか出来なかった。顔が紅潮しきって火照っている紫乃の温度が伝わってくる。
時間が無限に感じていたころ、ようやく紫乃の顔が離れた。
「……私も、紫陽花だから。毒を持ってるかもしれないけど、好きな人を私色に染めてしまうから。だから、ずっと私の側にいてくれませんか?」
――蒼井 紫乃。名前の通り、紫陽花みたいに染色液のような奴だ。こう言うのを【名は体を示す】って言うのかな。俺は紫乃にニッコリと微笑んで見せた。
「ああ、任せとけ。もしお前に毒があったとしても、俺が紫乃だけの解毒剤になってやる。だから、俺を紫乃の色に染めてくれ」
「覚悟してね。私は手加減なんてしないよ? 君が諦めるのなんて、待ってあげないからね。君にはもう青紫一色だけしか映らない。それでもいいかな?」
「こんなのでいいのなら、いつだって側にいるさ」
――彼女は蒼井 紫乃。紫陽花の様に、俺を簡単に染め上げてしまうだろう。でも、それでいい。紫乃の色は抜けない。だってそれは、俺の色でもあるのだから。
伏せ目がちな紫乃の顔をクイッと持ち上げる。今度は自分からするんだ。俺の気持ちは、もう決まっている。だって、俺のキャンパスはずっと昔から、青紫色一色なのだから――