PLAY.5
-GIARU WORLD-。
世界に女性しかいない世界。そんな世界に僕が行くことなってしまうとは……。
◇◇◇
……何故だろう?僕に浮遊感が襲うのは何故だ?そうか!
「――空にいるからだ!」
青く澄みきった空の上に勇斗はいた。いや正確には落ちていた。
「うわぁぁぁぁ!!」
人は重力には決して逆らえない。だから次第に落ちていくスピードは増していく。ジェットコースター並みの早さで落下。死を覚悟し目を伏せる。
すると、運が良かったのか深い湖に頭から突っ込んだ。
バッシャーン、と激しい水しぶき。その中心に勇斗はプクプクと浮かんでいた。気絶をしながら。
……。
鼻腔をくすぐる甘い香り。ふさふさとした草の布団。意識がぼやけているなか、重たい瞼をそっと開く。目の前に広がったのは青で澄みわたってる空。先程落ちていく時に見たときと同じ風景だ。綺麗だな、と感嘆に浸る。その時、勇斗はこの景色は違うことに気づいた。学校にいたときに見た景色と似ているようで似てなかった。
では、一体ここはどこなのか?仰向けの状態から上体をおこす。周囲を確認してみると、草原だった。広い草原の端には森がある。
どうやら学校ではないみたい。
そのときだ。
「――動くな」
凛とした声が近くで発せられた。その声と同時に首もとに何かを押し当てられる。勇斗はそれが何か悟る。
それはすぐにでも首を断てるための刀だろう。体を硬直させ、寝ぼけていた思考を名一杯活動させる。視線を僅かにずらす。そこにいたのは、真っ黒なコートを羽織って勇斗に剣先を押し当てている主がいた。顔全体を黒のフードを深く被っている。
「――貴様に選択権を下そう」
刀を操る人物は、突然口を開いた。そして選択権を淡々と言う。
「一つ目だ。今、わたしに殺される。二つ目……生きるのを諦めるか。どっちだ!さぁ選べ!」
「どっちも死ぬよっ!!」
「――黙れっ!」
反論したところ、首筋に当たる刀がさらに奥に食い込んでくる。刀の人物はこちらの様子を窺っている。
「おい貴様!さっさと選べ!死にたいのか」
「いやいやいや。選択肢が全て死なんですけど!……いや、待て。……この選択肢」
勇斗はなにかを思い出した。
……GIARU WORLD でのイベントと同じだ!最初のイベントと同じなら行動するべきことはわかるはずだ。
左手を刀に添え、勇斗は静かに立ち上がる。
「なっ!?貴様殺されたいのか!」
「ねぇ、君は僕のこと殺す気なんてないはずだよ。むしろ殺すなら、湖に浮かんでいた僕を放置していたよね。――ユキ」
ユキは驚いたような動作をする。
名前を知っているのが驚いたみたい。
すると刀はシュバッと風切り音を静寂な草原に響かせ、鞘に収められた。勇斗はひとまず呼吸を整え、さらに口を開く。
「あなたの名前はユキ・ミネルヴァさん。そして、僕を助けてくれてありがとうございます」
頭を下げ、ユキ・ミネルヴァさんに感謝する。
あの時、助けてもらわなかったら勇斗は死んでいた。それを救ったのが彼女。つまり命の恩人なのだ。
「う、うむ。わたしが貴様を助けた。騎士として当然な事だ。……しかし何故、貴様は名を知っている?」
「えーと……そ、そうだ!僕の名前は覇王勇斗です。よろしく、ユキ・ミネルヴァさん」
僕はこのゲームをプレイしたことがあるからさ、なんて言えるはずがない。なので誤魔化すことにした。
ユキさんは一瞬躊躇ったが深くは追求しないみたいだ。
「――ユキでいい。こちらこそよろしく、覇王勇斗」
挨拶をし、お互い握手を交わす。
最初のイベントと今の出来事が全て同じだった。このあとのイベントも起きる可能性が十分にありえる。
僕にそのイベントをクリアすることは出来るのだろうか。
「覇王勇斗、大丈夫なのか?先程の水で風邪を引いてしまったか?」
気づかないうちにユキさんが顔を除きこんできていた。どうやら長い間考え込んでしまっていたらしい。
「大丈夫、大丈夫っ!僕これでも風邪を引かない体質なんだ」
そうか、とユキさんは頷く。
――が、そのときだ。
「危ないっ!」
突如ユキさんは声を張り上げ僕を抱き寄せてきた。そして素早く頭を抱え込むようにしゃがみこむ。
刹那、僕たちの頭上すれすれをなにかが横切る。 そして草原にズザザッと勢いよくなにかが着地する。
「……闘えるか?」
ユキさんがそっと耳打ちをする。
「闘えます。僕はまだ死にたくないですから」
そう言い、スッと立ち上がりなにかを視界に捉える。このとき一つ確信をもてた。
(思った通りだ。この世界は間違いなくGIARU WORLDの世界。両方ともこの場所に魔物が現れるのは、間違いない)
この世界はGIARU WORLDの世界だ。