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二人だけの世界  作者: 境界線上の日々
序章 OPオープニング
5/8

PLAY.4

 狩りを終え僕と篠宮さんは屋上にあるベンチで休んでいる。時間を気にせず夢中になってやっていたので後何分で昼休みが終わるのかわからない。だけどこんな時間がずっと続けばいいなぁ、と密かに思う。

「覇王さん。またレベル上がった?あのモンスターを案外簡単に倒していたけれど……」

「気のせいですよ。僕だって苦戦しましたよ。特にあのモンスター簡単じゃありませんでした」

 そう言った瞬間


――ギュルルルルルル。


 僕のお腹が叫び声を上げてきた。すぐ弁当を食べお腹の機嫌をとろうと、手を横に出した。しかしその手は空を切っただけだった。そこで弁当について記憶が鮮明によみがえる。

「……教室に……忘れ、た……」

  そうだ。あのとき僕は手に荷物を持たないで歩いてきたんだ!

 すぐさま取りに行こうと思い、席をたつ。

 そのとき、僕の右手を暖かい何かが握ってきた。それは手だった。視線を手の持ち主を辿っていく。

「――篠宮さん?」

「……ダメ。……食べて」

 篠宮さんは顔を俯かせているので表情をうかがえないが、何かを訴えているようだ。それに応じるように静かにまた腰を下ろす。

「はい!これ、私のお弁当。量が多いから覇王さんに少しあげる!」

「は、はぁ……」

 さっきの篠宮さんは消え、いつも通りの篠宮さんがそこにいた。そしてお弁当を僕と篠宮さんの間に広げていく。パカッと蓋をあける。

「おぉ……。美味しそうです……とても」

 サンドウィッチが綺麗に敷き詰められていた。篠宮さんはそんな僕の様子を見て微笑む。

「どうぞ、食べましょ」

「はい!――いただきます!」

 篠宮さんがサンドウィッチを一つ手に持ったのを確認してから、適当な場所から一つ手に取る。

 口を大きく開き、サンドウィッチをパクッと半分ほど頬張る。中身はツナだった。

「――とても美味しいです!このサンドウィッチ、何個でもいけますね」

 一つ食べ終え、おかわりのサンドウィッチを手に取り、口に運ぶ。

「ふふっ。ありがとう覇王さん。――このお弁当手作りなの」

「……!?」

 僕はいま篠宮さんの手作りサンドウィッチを食べているのか!!

 ――好きな女子の手料理は最高です!

 嬉しすぎて涙が出そうになったが、なんとか堪える。そこで、違う話題にしようと口を開く。

「――このゲームって面白いですよね!


-GIARU WORLD-。


こんな最高なソフトあるなんて気づきませんでした」

 -GIARU WORLD-。

 SHP対応ソフトの一つ。今、僕と篠宮さんが熱中していたソフト。それには訳があった。ギャルゲー好きな僕。RPGが大好きな篠宮さん。そして-GIARU WORLD-のジャンルは、


ギャルゲーRPG。


 お互いの大好きなジャンルがないかと探していたときに見つけたのがこのソフトだった。

 主なストーリーは、

このGIARU世界には女性しか性別が存在しない。突如大魔王が襲来。部下の魔物を使い、次々と人々を捕まえていく。その目的は人間魔物化計画だった。人を魔物に変えるとボス級の強さが全部だった。それが狙いで次々と人を拐い、世界はピンチに。魔王が現れた頃、同時に勇者も現れていたのだ。勇者は自信の持つ話術を駆使し、魔物を人間に戻すため。恋愛をさせることに。勇者は大魔王を倒すため、個性な仲間たちと共に世界を巡る旅に出ることに。

 というのが主なストーリーとなっている。このゲームに僕と篠宮さんは夢中になっていた。

「――あれっ?……おかしいわ」

 不意に篠宮さんが疑念の声を出していた。その手にはSHPが握られている。すぐに駆けつく。

「どうしたんですか、篠宮さん?」

 すると、一瞬篠宮さんが言葉をためらってから言葉を出す。

「それが……ゲームデータが消えていて……。さっきから調べてるんだけど見つからなくて……」

 篠宮さんの表情がどんどん暗くなっていく。

「心配しないでください。データがないなら――」

 僕は言葉を一言一言紡ぐ。

「僕も、はじめからやります。一緒に前のデータに追い付きましょう!僕も篠宮さんの手伝いをしますから」

 ポケットからSHPを手に取り、意思表示をする。 すぐにやりましょう、と。

 僕はSHPのゲーム画面に目をおとす。

 そして篠宮さんとの時間が過ぎていく、そう思っていた――しかし、現実はこの時点で終わりを告げた。

――カランッ。

 不意に何かの落下音が僕の耳に届く。不思議に思い、その音の方向――篠宮さんの方を向く。

「……し……篠宮……さん……?」

 いなかった。篠宮紗耶香が先程まで座っていたベンチにいなかった。そのベンチの上には篠宮さんのSHPが落ちている。つまり、

 ……篠宮さんは消えた。しかも、あの一瞬で。

 その場から立ち上がり、落ちているSHPを拾う。そして顎に手をおき考える。

 篠宮さんはきっとGIARUをやっていたはず。SHPの落下音が聞こえ、そして消えた。原因がSHPにありそうだ。

 電源が落ちているSHPをONにする。画面が一瞬で明るくなり、GIARUのソフトを読み込む音が数秒鳴り響く。タイトル画面『-GIARU WORLD-』が表示され、モード選択が現れる。

 最初から始める、続きから、などがあったが僕は続きからを選択する。

(なにか起きてくれっ!!)

 すると普通だとセーブデータをロードする画面にはいるはずが、今回は違った。

『あなたは勇者ですか?』

 そんな文が画面に写る。その下には『はい』、『いいえ』と選択肢があった。

 勿論、押すのは決まっている。


「僕は勇者だぁぁ!!」


 迷うことなく『はい』を選択。画面は次第に光を失っていく。

「……うぐっ!?」

 突如、激しい頭痛が襲ってきた。

 意識が途絶えそうになるくらい痛い。ズキズキと頭を攻めてくる。

 さすがに限界だ。僕はその場で足をつく。そして静かに屋上の床に倒れ込む。

 冷たい床がひんやりとして頭痛を癒してくれそうだ。しかし意識はこの痛みにもちそうにない。

 そう悟り、目をゆっくり伏せる。

 勇斗の意識は闇の中へと消えていく。



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