PLAY.2
その後、桜に色々なことやあんなことをされ勇斗は最後の命令を遂行するべくある場所にやって来ていた。
勇斗の通っている中学校に。
「はぁ。何で来ちゃったんだろう。人がいそうな場所に……」
桜に最後に命令されたのはこんなことだった。
――自分のクラスの窓辺に腰かけて、1時間30分待機。
普通なら楽だと思う。こんな命令はチョロいなって。
だけど僕の格好は中学校の女子制服を来ているんだ。チョロいもんじゃない。むしろ自分の名誉がかかっているんだ。クラスの皆に良いイメージを持たせるためにどれだけ苦労したことか。それをこんな命令で崩されてたまるか!って思う。
そんなことを思っていてもきりがないので勇斗は渋々学校の校舎へと足を踏み入れた。
3年の教室は四階。勇斗のクラスは1組だ。
三階まで誰にも見つからず上りきった勇斗。しかしここからが問題だ。放課後の教室は誰もいないことが普通なのだが3年だけは違う。受験などが近づいている今の時期はクラスで友人と会話して思い出を作ろうとする人がいる。少なくとも勇斗はそういう人を何人も見かけていた。
慎重に階段を一歩一歩忍び足で上がる。途中、下の廊下を見て誰もいないことを確認し、また上がる。これの繰り返しでようやく四階にたどり着いた。
安心するのはまだ早い。近くの壁を利用し、三年の教室が連なる廊下をそーっと見る。
(……誰もいない!)
音をたてずにダッシュで自分のクラスである、三年一組の教室に入る。
すると中には一人の美しい女生徒が帰りの支度をしていた。勇斗はその場で姿勢が動かなくなってしまう。
女生徒の名前を知らないはずがない。彼女は篠宮紗耶香。このクラスの生徒だ。いつも腰ぐらいまで伸ばしている夜色をした美しい髪が特徴的。
そして覇王勇斗が恋してる人でもある。
だから勇斗は好きな篠宮紗耶香を目の前にして緊張をしてしまう。紗耶香は鞄を手に持つ。勇斗が立っている扉に向かってくる。
途中で勇斗に気づいたのか、軽く会釈をしてきた。そして口を開く。
「失礼ですが、あなた……三年のどこのクラスの方ですか?」
「えっ!?」
意外な事を聞かれ、内心酷くショックを受ける。
そんなに篠宮さんに僕は覚えていてもらえなかったのか。影が薄かったのか……僕は。
「あ、あの篠宮さん。僕のこと知らないんですか?いつも会っている……と思います……」
紗耶香は、うーんと考え込む。
数秒の時が過ぎる。
「もしかして、覇王くん」
「そ、そうで――」
「――の妹さんかしら?とても覇王くんに似てる気がするのよね。だってお綺麗だし……」
……えっ、綺麗!?
そこで勇斗は今の自分の状況を理解することができた。
僕、女装していたんだ!
すぐさま、女の子っぽい仕草をする。紗耶香に男だと悟らせぬように……。
「そ、そうなんだー!わ、わたし、お兄ちゃんの妹なの。そう、いもうと、いもうと」
そう話すと紗耶香はパァァっと輝かしい笑顔を妹となっている勇斗に向けてくる。紗耶香の表情を見てると何故か女装がバレそうな気がしたので、視線を外す。
「やっぱり、妹さんだったのね!それにしても可愛らしい妹の兄の覇王さんは羨ましいわ!――こんな時間か……。ごめんね、立ち止まらせちゃって」
「だ、大丈夫ですよー」
紗耶香は時計を確認し、教室の扉に向かって歩く。苦笑しながら勇斗は手を小さく振る。
また明日ね、そう言い紗耶香は教室を出ていった。
「……明日、か。もう会えないよね……こんな姿じゃ」
呟きつつ桜の命令通り、窓辺に腰かける。小さな溜め息を一つこぼす。
「後、1時間30分も待機……か。……めんどくさいなぁ」
この時が紗耶香さんとの初めての会話だった。
その後、クラスメイトの男子に告白された。この時、勇斗の脳内で一つの予測がたつ。
(――これを狙っていたな……桜の奴。)
これをきっかけに女装するのがトラウマになった……と思う。