PLAY.1
――僕は彼女に恋をしている――
僕の自室の扉がドンドンッ、とノックされる。
「お兄ちゃん、朝だよ!起きてー」
いつも妹に朝起こされる日常。まだ眠い僕は適当に返事をした。
「……おぉ。……起きた」
その後二度寝するつもりなので瞼を閉じる。
「お兄ちゃん起きてないんでしょ!どうせ、二度寝とか考えてるんでしょうね」
妹は一枚上手だったみたいだ。
仕方なく僕は布団から出て、自室を後にした。
その後僕は妹と朝食をとり、食べ終えたら自室に戻り制服に着替えて、玄関に来た。その玄関で僕は靴を履き替え、まだ来ていない妹のことを待つ。
「おーい、桜。もう行くぞ」
すると、二階の階段を急ぎ足で妹ーー桜は下りてきた。それを確認し、告げる。
「外で待ってるから」
玄関の扉を開け、僕は外に出た。
扉の一歩先あたりで僕は暇なので鞄の中から一つのゲーム機を取り出す。
今僕のなかで流行りのゲーム機『SHP』。略さないと――って、まぁ僕は知らないんだけど。このSHPを開発した本社が後程公表するなどネットで呟いていたが、公表する前に倒産。知る人は本社の社長さんぐらいではなかろうか。
このSHPの最大の特徴は……ギャルゲーしか専用ソフトがないのだ。つまりギャルゲー専用携帯ゲーム機。まぁ発売して1ヶ月で販売中止になった世間的にいえばクソゲー。原因は、あるソフトをプレイするとそのゲーム機が壊れるという事件が勃発した。僕はそのソフトに多少興味はあったが買えないでいたので、ある意味助かったのだ。でも、そんなゲーム機『SHP』を僕はこよなく愛している。
僕はSHPの電源をONにする。SHPの背面にセットしてあるソフトが読み込みを始める。
すると、突然
『あ、あたし勇斗が好き!大好きなの!!』
画面の中のヒロインが声を大にして告白してきた。昨日、音量MAXにしていたのを忘れていた。切ないBGMが大音量で流れていくのを気にせず、音量ボタンを押し音量を小さくしていく。
幸いにも周りには誰もいなかったので、ホッと胸を撫で下ろす。
今、画面には一人の美少女との告白シーンだ。同じクラスメイトで少しツンデレの麗羅。昨日、僕は麗羅を攻略するため一日中奮闘していた。そして結果が今日のこの出来事である。
「さぁーて、一気にエンディングだ」
僕はSHPのボタンを押し、麗羅の告白を読み進めていく。麗羅が僕に抱いていた想いを改めて実感した。しかし、その時間はすぐに終わりを告げた。
「お兄ちゃん!また朝っぱらからゲームしてたでしょ!さっき丸々聞こえてたよ、『あ、あたし勇斗が好き』ってさ」
その台詞と共に扉が勢いよく開かれ、支度を済ませた桜がそこにいた。
桜――覇王桜は黒茶のショートヘアに、高校の女子制服を着ている。身長はやや低めで小柄な体型、そして童顔。その容姿から高校生にもかかわらず中学生と間違われるのが多い。そんな妹に僕はトラウマを植え付けられた。こんな平気な顔してるくせに。
「外でゲームしてないで学校行こっ!」
「……う、うん」
始めにいっておく、僕には変な性癖や趣味などこれっぽっちもない。
「こ、今度さ、また女装して、お願いお兄ちゃん!」
「断る」
そう、僕のトラウマとは桜に女装をさせられたことだ。
あの時は限りなく辛かった。確か……中学3年だったろうか。放課後の教室で。
「一目見て、好きになりました。付き合ってください!!」
何故、僕は一人の男子生徒に告白されなければいけなかったのか。
それは妹の桜のせいだ。
時を遡って24時間前。
僕は重い足を引きずりながら、自宅に帰宅した。そこに待ち受けていたのは桜だった。手には一枚の色紙。
「な、なんでお前が、笳那さんプレミアムサイン色紙を持っているんだ!?」
その色紙は僕の大好きな声優『笳那』さんのサイン色紙だった。応募者の中から15名しか当選しないというプレミアムな色紙。
「この色紙を返してほしければ……今日、学校に行って女装して!」
「……えっ!?」
唐突な要求に唖然となる。
いや待て、何故女装なんだ。金をよこせ、とかじゃないのか普通は。なのに何故女装?
「お兄ちゃん、何故女装なんだって思ってるでしょ。そりゃ、深い事情があるわけですよ。例えば女装したお兄ちゃんを写真に納めて、弱味を握るとか――しまった!」
目の前にいた兄の勇斗は指をパキパキと鳴らしていた。勇斗の背中がメラメラと燃え上がっている――ように幻覚が見える。
「桜!!」
「は、はい!」
「俺の色紙を返しやがれ!返さなければ……桜だけ夕飯抜きだ!」
「えぇ夕飯抜きは嫌だぁー!勘弁してぇ、返すからお願い!ね、ね!……あと、お兄ちゃん……俺っこモードに戻ってる」
余程、夕飯が食べたかったのか桜はその場で俯いてしまった。
咳払いをし、泣いているかもしれない桜の頭にポンッと手を置く。そして易しく撫でる。
「ごめんね桜。色紙返してくれれば、いいんよ。その後なら好きなだけ女装してあげるから。……だから顔上げて」
少し恥ずかしくなり勇斗はそっぽを向く。
――ピッ。
変な機械音が聞こえてきたと思ったら、クククと不気味な声が家に響いてきた。何事かと思ったが、それは桜から発されていた。
「クククッ、クークククク、クゥゥハハハハ!この時を待っていたのだよ、サンキューお兄ちゃん」
俯いてしまっていた桜は顔を上げると満面の笑みだった。
そして勇斗に向かって右手を見せてくる。その右手にはボイスレコーダーらしき物体が握られていた。
……まさか!?
桜はボイスレコーダーの真ん中にあるボタンを右手の親指で押す。
『――好きなだけ女装してあげるから』
(は、恥ずかしい……)
勇斗は一瞬にして顔を紅潮させ、その場で目を伏せ、耳を塞ぐ。恥ずかしさで死にそうなくらいだ。
その光景を予測していたのか桜は腕を組みをして兄である勇斗の前で仁王立ちをする。兄と妹の立場が逆になっている様子である。
「さぁて、女装といったら?やっぱり制服プレイでしょ!あー、でもメイドもいいなぁ」
勇斗の耳に微かに聞こえてくる桜の声は、まるで悪魔の囁きであった。
どうも、こいつ生きてるのかと思われている境界線上の日々です。
まず、皆様に一言。
「ごめんなさい」
二人だけの世界を5ヶ月も更新しないでいたことを謝罪します。
そして、大幅な設定の変更のことで謝罪します。
最後に読んでいただきありがとうございます。