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塚作り

作者: 来也亜男
掲載日:2026/05/11

 僕が学校へ通う道は高かった。両側が急な斜面で、その上には車がやっと通れ

るほどの幅しかない。夜なんか特に、踏み外しやしないかと怖かった。実際、車

が転げ落ちる事故がたまに起こった。その中の一台は逆さになったまま、もう何

年もほっておかれていた。

 ある日、いつものように自転車でその上を走って帰路についていた。もうすっ

かり暗い。道を外して落ちないようにおそるおそるペダルを漕いだ。

 対向車がきた。スピードをゆるめない。それどころか僕を見てクラクションを

鳴らした。僕は自転車を斜面に置いて、道をゆずった。ちょっとくやしいけれど、

道をゆずらずに立ちはだかったからって、どうなるものでもないんだ。こんな事

は何回もあったので慣れていた。車はやはりスピードをゆるめずに通りすぎよう

とした。その時だ。

「わっ!!」

 悲鳴があった。僕じゃない。車の運転手でもないような気がした。同時に何か

がぶつかる音がした。そして、斜面を転がり落ちる音も。

 車は急ブレーキを踏んだ。前面に衝撃を受けているようだ。バンパーがいくら

かひしゃげていた。

 何かをはねたのだ。

 車の人は、外に出た。意外に細い、よく見ると気の弱そうな若い男性だった。

その人はあたりを見廻したけれど、何も見つからなかったようだ。僕の姿を見て、

声をかけた。

「……君、今、声を出したかい?」

 僕は首を横に振った。その人は青くなっていた。今、はねた何者かを探そうと、

斜面の両側を見廻した。しかし、何も見えない。

 僕は家に走って、父を呼んだ。二人で懐中電灯を持ってそこへ戻った。男の人

はまだ近くを探し廻っていた。電灯を渡し、三人でまわりを調べた。しかし、三

十分ほどかけても、何も見つからなかった。

 父が言った。

「タヌキかなんかじゃないでしょうか」

「タヌキ……」

「ここらには多いですから」

 彼はその説明に満足はできなかったようだった。しかし納得はして、車にもど

って去って行った。今度は極端にゆっくりした運転だった。僕と父も、家へ帰っ

た。




 数日がたった。そんな事があったのも忘れかけてた頃のことだ。僕はいつもの

ように自転車で家に帰ってきた。部活が早く終わったので、まだ明るいうちだっ

た。あの日の場所を通りすぎようとした。

 ふと、下を見ると、犬がいた。

 宙に浮いていた。

 自転車を止めてよく見てみた。やはり、犬の足は、十センチほど宙に浮いてい

るように見えた。犬は何かを食べているようだ。しかし、それが何かは見えなか

った。

 しばらく見ていた。すると犬も僕に気付き、逃げて行った。

 犬が噛っていたものは何だったのか。

 僕は自転車を斜面に置き、下へ降りてみた。犬がいたあたりだ。思い切って、

手を伸ばしてさわってみた。

 何かがあった。

 やわらかいなにかが。

 僕は急に怖くなって、急いで坂をかけ上り、自転車をこいで家に帰った。




 それからさらに一週間ほどたったある日。

 自転車で帰ってくる途中、悪臭がした。

 丁度、あの日に何かをはねた場所、そして犬が何かを食べていた場所だ。僕は

やはり自転車を斜面に置いて降りてみた。臭気の中心地に近付いた。ひどい臭い

だ。見てみると、虫がいた。蛆虫が地面から少し浮いたところを這いまわってい

た。無数の蛆虫たちが、全体である形を作っていた。それは、人の形に見えた。

 帰って母に聞いてみた。

「あそこの道で、変な臭いするけど……」

「ああ、あそこね。きっと誰か生ゴミを捨ててるのよ。まったく、人の迷惑も

考えないんだから」

「ふうん……」

 それ以上は聞かなかった。




 次の日曜、僕はそこへ戻って、その何者かに土をかけてやった。中空に浮いて

いたウジ虫は土の下にかくれた。さらに、厚く、厚く、土をかけた。そして墓標

を立ててやった。小さな墓標だけど。そこには「墓」とだけ書いた。

 何の墓かわからなかったから。


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