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不死身な俺、ヤンデレ女子専属処理係に任命されました  作者: 水木土月
プロローグ 死なない俺、ヤンデレ高校へ
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第4話 ターゲット宅訪問※サポート付き

保健室のドアを開けた瞬間、背後から軽やかな声が飛んできた。


「ねえ、藤見くんだったよね?」


振り向くと、そこには見覚えのある女子が立っていた。

断川真朱(たちかわしんじゅ)。さっきの情報収集のときに少しだけ話したクラスメイトだ。


ぱっと見は明るくて人懐っこい。けど目の奥が妙に鋭い。

あと笑顔が若干サディスティック寄り。うん、これは油断したら刺されるタイプだ。と冷静に分析していると


「え、なに。もう私のこと好きになった?」


「第一声それかよ。距離感バグってんのか?」


「安心して、私も好きになる予定は今のところないから」


「お互いに平和でよかったな」


なんだこの会話。まだ名前覚えたばっかだぞ。


断川はくるっと踵を返しながら言った。


「で、本題ね。私、執行機関からのサポート役。藤見くんのチュートリアル担当」


「チュートリアルって言い方やめろ。ゲーム感覚で命かかってるんだが?」


「大丈夫大丈夫。なるべく死なないようにするこら」


「“なるべく”って言ったよな今」


さらっと不穏なワード混ぜるな。


「今回は急ぎ案件だし、二人でやるよ。ターゲット、切崎紅葉」


「急ぎ案件って……」


断川は手をパンと叩いて、ニヤッと笑った。


「細かいことは置いといてさ、切崎ちゃんに会いに行こっか」


「いやいやいや、どうやって接触するんだよ」


「直接家に行くよ」


「不法侵入RTAでもする気か?」


「ちゃんと正規ルートあるから安心して。私、普段から連絡係やってるし」


「ああ、なるほど……ってことはお前、普通に顔パスか」


「そういうこと。私、有能だから」


ドヤ顔が腹立つ。だが頼れるのも事実なのがさらに腹立つ。



放課後。

俺たちは高級住宅街に足を踏み入れていた。


道幅は広く、電柱すら整然としている。門構えの家ばかりで、庶民代表の俺は一歩ごとに場違い感でHPが削られていく。


「帰りたい……」


「まだ何もしてないけど?」


「この空気だけで俺には十分なダメージなんだよ」


「はい到着」


やがて断川が立ち止まった先にあったのは、ひときわ大きな邸宅だった。

無駄に広い庭、重厚な門、そして監視カメラ。どう見ても一般家庭じゃない。


「ラスボスの城じゃん」


断川は慣れた手つきでインターホンを押す。

少しして、落ち着いた女性の声がスピーカー越しに響いた。


『どちら様でしょうか』


「断川です。学校から来ました。紅葉様にご用件が」


『少々お待ちください』


やり取りはあっさり終わり、門が開いた。


「すげえ、本当に通った……」


「だから言ったでしょ。有能って」


そのまま来客間に通される。

ソファはふかふか、机はピカピカ、俺の家の家具が泣いてるレベルだ。


案内してくれたお手伝いさんに、俺は思いっきり不審者を見る目を向けられていた。


「えっと、転校してきたばかりで……ご挨拶を……」


自分でも苦しいと思う言い訳をなんとか絞り出す。


「その顔で?」


「どの顔だよ」


断川が横で小声で刺してくる。味方いないのかここ。



しばらくして、静かにドアが開いた。


「お待たせしました」


現れたのは、切崎紅葉切崎紅葉(きれさきくれは)だった。


長い金髪がさらりと揺れて、整った顔立ち。

一言で言うなら、完璧。いや、完璧すぎて逆に怖い。


「久しぶり紅葉ちゃん、相変わらずの美少女だねー。藤見くんもそう思うでしょ?」


「‥‥そうだな。」


「素直な男はモテるよ!」


「余計なお世話だ!」


紅葉はわずかに微笑んだ。


「はじめまして。転校生の方、ですよね」


「あ、はい。藤見黄泉です。よろしくお願いします」


軽く頭を下げる。

そのあと、当たり障りのない会話が少しだけ続いた。

転校してきた経緯だとか、学校の雰囲気だとか、本当にどうでもいい話。


けど、その間ずっと感じていた。


紅葉の視線が、時々わずかに揺れる。

部屋の奥、閉じられた扉の向こう側を気にするみたいに。

それに、言葉は丁寧なのに、どこか選ばされている感じがある。


……自由に喋ってるようで、自由じゃない。


「ちょっと気になってたんですけど、どうして学校に来てないんですか?」


「直球いったね藤見くん。デリカシーどこ置いてきたの?」


「置いてきた覚えはないが最初から持ってない可能性はある」


紅葉は少しだけ考える素振りを見せてから、静かに答えた。


「学校でなくても、勉強はできますから。必要性を感じていないだけです」


「なるほど……合理主義タイプか」


「それに、関わる相手は……ある程度、決めていますので」


その言い方は、まるで自分で選んでいるようで――

本当は選ばされているみたいに聞こえた。


見えない線が引かれている。

ここから先には踏み出すな、とでも言われているような。


「ちなみに、その“決めてる人”の中に彼氏さんも入ってるんだよね?」


断川がニヤニヤしながら横からぶっこむ。


「うわ、踏み込むなぁ……」


紅葉の表情が、ぱっと明るくなった。


「はい。中学生のときに告白していただいて……お付き合いしています」


その瞬間、空気が変わった。

声も、表情も、さっきまでの静けさが嘘みたいにやわらぐ。


縫谷蒼(ぬいたにあおい)さんっていうんですけど……すごく真面目で、約束も絶対に守る人で」


ふっと、紅葉が小さく笑う。


「でも、少しだけ抜けていて……テストの前日に勉強しすぎて寝坊しちゃったり、」


「それダメなやつじゃね?」


「そういうところも含めて、全部……好きなんです」


その言葉は、迷いがなかった。


「困っている人がいたら放っておけない人で……ずっと優しくて……」


指先をぎゅっと握る。

その仕草に、ただの好意以上の重さが滲んでいた。


「だから……離れたく、ないんです」


――重い。


思わずそう感じるくらいに、強くて、深い。


「でも……」


その声が、わずかに震えた。


「いつまで一緒にいられるのかは、分かりません」


さっきまでの柔らかい表情が、静かに崩れていく。


「……どういう意味だ?」


紅葉は一瞬だけ、視線を逸らした。

さっき見ていた、あの閉じられた扉の方へ。


「……決まっていること、がありますから」


小さく、そう呟く。


それが誰の決定なのかは、言わなくても分かった。


「いえ……なんでもありません」


すぐに笑顔に戻る。

けどその笑顔は、さっきよりずっと薄かった。


この違和感。

絶対、ただの不登校なんかじゃない。


そのとき、ドアが開いた。


「紅葉さん」


現れたのは、いかにも有能そうなスーツ姿の女性。切崎の父親の秘書だろう。


「お忘れかもしれませんが、今晩は会食がございます」


「‥大丈夫です‥覚えています」


紅葉は小さく頷き、こちらに向き直る。


「申し訳ありません。せっかく来ていただいたのに」


「いや、大丈夫です。こっちも突然押しかけたので」


「また……お話しできたら嬉しいです」


その言葉に軽く手を振って、俺たちは屋敷を後にした。



帰り道。


「会食ってやつ。許嫁候補の男とのやつだよ」


断川がさらっと言った。


「……は?」


「地元で最近伸びてる企業の社長令息。まあまあ金持ち」


「いやベタな成金だな」


「紅葉ちゃんとその成金息子がくっつけば政治家の紅葉父と成金社長はWin-Winになるってこと」


……なるほどな。


「つまり切崎は父親の都合で人生決められてるってことか」


「まあ、ざっくり言うとそう」


少しだけ考える。


「どっちがいいんだろうな。彼氏か、許嫁か」


「藤見くんってさ、結構現実主義だよね」


「だってどっちが幸せか分からんだろ」


「私は彼氏派だけどねー。中学からの純愛ってポイント高いし」


「ポイント制なのかよ恋愛」


くだらない会話をしながら歩く。


「とりあえず、彼氏の方に会ってみるか」


「いいね。情報は多い方がいいし」


そう言って、一歩踏み出した瞬間だった。


――ヴォォォォーー!!


耳障りなエンジン音が、空気を震わせた。


「え?」


振り向いたときには、もう遅かった。


目の前に飛び込んできたのは、目が痛くなるような派手な紫色の高級スポーツカー。無駄にギラギラしている。


「うわ趣味わっる――」


断川がドン引きした次の瞬間。


ドンッ。


衝撃。


視界が回る。


やけに冷静な思考だけが浮かぶ。


「チュートリアルで死ぬやついる?」


地面に頭から激突し、頭から赤黒い血が吹き出している。

派手な車が走り去るのを見ながら意識が途切れた。


――なお、この後普通に蘇生する。

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