第2話 闇照高校へようこそ!※なお平穏はない
――というわけで、俺は転校していた。
場所は、国立闇照高等学校。
名前からしてすでに不穏なんだが、パンフレットによるとここ、偏差値70超えの超進学校らしい。しかもそれだけじゃない。芸術、スポーツ、あらゆる分野でトップクラスの人材が集められている、いわば“エリートの見本市”みたいな学校だ。
……うん、普通に考えて、俺みたいな「刺されても死なないだけの一般男子高校生」が来る場所じゃない。
なのに、あの黒スーツの女――ヤンデレ対策機関の人は、こう言っていた。
『ここはね、“問題を抱えた優秀な子たち”を集めた場所なの』
いや言い方。
遠回しに言ってるけど、要するに――
「メンヘラの収容所じゃねえか……」
思わず小声で呟いた俺は悪くないと思う。
だっておかしいだろ。偏差値70の天才たちが集まる学校の裏の顔が、“刺してくる女子の更生施設”って。
情報量が多すぎて脳が追いつかない。
しかもだ。
(あいつ、いるかもしれないんだよな……)
俺の脳裏に浮かぶのは、血に濡れた笑顔。
『好きだからだよ?』
――いや怖すぎるだろ。
初恋(予定)を物理的に貫いてきた幼馴染。
あいつがこの学校にいる可能性があるというだけで、胃がキリキリしてくる。
不死身だからって怖くないわけじゃないんだぞ。むしろ「死なない=痛みはフルで受ける」から普通に地獄だ。
そんなことを考えているうちに、1-1の教室の前に立っていた。
「ここがヤンデレどもの巣窟か‥」
ガラッ、とドアを開ける。
「――転校生だ」
担任の声で、教室中の視線が一斉に俺に集まる。
うわ、めっちゃ見られてる。
しかもなんか、視線が重い。普通の好奇心っていうより――観察されてる感じ?
(いやいや考えすぎだろ俺)
そう思いたいが、ここが“そういう学校”だと知ってしまっている以上、どうしても疑ってしまう。
「藤見黄泉です。よろしくお願いします」
とりあえず無難に挨拶。
パラパラと拍手が起きる。見た感じ、みんな普通の優等生っぽい。
……うん、見た目は。
席に座った瞬間、俺のスマホが震えた。
見れば、差出人は――
【ヤンデレ対策機関】
仕事早えよ
いやありがたいけども。初日くらい休ませてくれない?
ため息をつきつつ、メールを開く。
⸻
【ターゲット情報:No.002】
名前:切崎紅葉
学年:1年生
特徴:学年成績1位。全教科満点常連の超天才。
現在:不登校
備考:強い執着傾向あり。対象に対して過度な依存・排他性を示す危険性あり。
⸻
(いやもうヤンデレ確定じゃねえか)
説明文が丁寧すぎて逆に怖い。
ていうか、
「学年一位で引きこもりってどういうことだよ……」
学校来てないのにトップって、もはや存在がチートだろ。
メールはまだ続いていた。
⸻
ターゲットは何らかの分野において突出した才能を持つ者がほとんどです。
彼女たちを“ヤンデレのまま”社会に送り出すことは、大きな損失となります。
よって、あなたにはターゲットの精神状態を安定化させ、健全な形で社会復帰させていただきます。
⸻
さらっと無茶言ってない?
要するに、
刺してくるレベルの愛情を、普通の恋愛に戻せってことだろ?
難易度、地味に高くない?
いや地味じゃないな、普通に無理ゲーだわ。
俺が頭を抱えていると、追撃のように次の一文が表示された。
⸻
なお、ターゲットNo.001刺原赤音については、現在精神安定のため隔離措置中です。
半年後を目安に本校へ編入予定となります。
⸻
「……は?」
思わず声が出た。
半年後?
(いやいやいや、安心していいのかこれ?)
確かに“今すぐ刺される心配はない”って意味では安心だ。
だが同時に――
(半年後に確定で来るってことだよな……)
未来に爆弾置かれた気分なんだが。
考えるだけで胃が痛い。
だが、逃げるわけにもいかない。
なぜなら――
「俺、もう普通の高校生活に戻れないしな……」
刺されても死なない時点で、人生だいぶバグってる。
だったらせめて、この能力を活かすしかない。
俺はスマホの画面を見つめ、深く息を吐いた。
「……よし」
まずは一人目。
引きこもりの天才少女。
学年一位で、ヤンデレ気質あり。
どう考えても厄介な予感しかしないが――
「行くしかないか」
こうして俺の、“刺されること前提”の更生ミッションが始まった。
平穏な高校生活?
そんなものは、とっくに死んだ。
――いや、俺は死なないけど。




