第1話 告白イベントのち死亡※死にません
告白されるかもしれない。
――そんな期待は、ほんの数分で裏切られた。
放課後、屋上。
幼馴染の刺原赤音に呼び出されて、俺――藤見黄泉は少しだけ浮かれていた。
「ねえ、黄泉くん」
腰まで届く長い黒髪。
透き通るような白い肌に、整った顔立ち。
一見すると清楚でおとなしい、いわゆる“美少女”。
――昔から変わらない、俺の幼馴染。
「おう」
「好きだからだよ?」
その言葉に心臓が跳ねる。
次の瞬間。
ドスッ
「――っ!?」
胸に激痛が走った。
視線を落とすと、血に濡れたカッターナイフが突き刺さっている。
「ごめんね。好きすぎて我慢できなかったの」
「……は?」
意味が分からない。
告白じゃなかったのか?
なんで刺されてる?
思考が追いつく前に、意識が暗転した。
⸻
「……あれ?」
目を開けると、俺は立っていた。
傷はない。血もない。
夢じゃないはずなのに、現実感がない。
「ねえ、なんで死なないの?」
目の前で、赤音が震えていた。
「……知らねえよ」
「じゃあ、もう一回」
「は?」
ドスッ
「ぐっ……!」
また刺された。
痛い。普通に痛い。
だけど――
「……やっぱり治る」
数秒後には、何もなかったみたいに戻っている。
赤音の目が、ゆっくりと変わっていく。
「壊れないんだ」
「やめろ」
「ねえ、もっと――」
「やめろって!!」
その後、何度刺されたのかは覚えていない。
ただ、恐怖と痛みだけが積み重なって――
最後は、意識が途切れた。
⸻
次に目を覚ましたとき。
そこは、白すぎる部屋だった。
壁も、天井も、床も。
全部が無機質で、生活感が一切ない。
「目が覚めたかしら?」
声の方を見ると、スーツ姿の女が立っていた。
年齢は二十代後半くらい。
整った顔立ちだが、感情がほとんど読み取れない。
「……ここ、どこですか」
「医療施設よ。正確には、あなたみたいな“例外”を収容する場所」
「例外?」
「ええ」
女はタブレットを操作しながら、淡々と話し始めた。
「藤見黄泉。十六歳。数日前に“死亡確認”が取られている」
「……は?」
「心停止、呼吸停止、瞳孔反応消失。医学的には完全な死亡状態」
「いや、今生きてるけど」
「ええ。そこが問題なの」
問題扱いされた。
「あなたはその後、数分以内に自己再生している」
「自己再生って……ゲームかよ」
「残念だけど現実よ」
女は視線をこちらに向ける。
「そして同様のケースは、極めて稀だけど存在する」
「……他にもいるのか」
「ええ。ただし」
一瞬、間を置いて。
「あなたほど“安定して死なない個体”は初めて」
「なんだその言い方」
完全に研究対象じゃねえか。
「で、話を戻すわ」
女は一枚の書類を差し出した。
そこには大きく、
“ヤンデレ対策機関 特別任務任命書”
と書かれている。
「……なんだこれ」
「そのままの意味よ」
「分からん」
女は小さくため息をついた。
「最近、“特定の人物に対して過剰な執着を持ち、暴力行為に及ぶ女子生徒”が増えているの」
「……それが?」
「一般的には精神疾患として処理されるけど、問題はそこじゃない」
女の目が、少しだけ鋭くなる。
「対象者の多くが、“相手を傷つけることで愛情を表現する”傾向を持っている」
「最悪じゃねえか」
「ええ、最悪よ」
あっさり肯定された。
「普通の人間は、当然耐えられない。だから事件になる」
「そりゃそうだろ」
「でもあなたは違う」
女ははっきりと言い切った。
「何度殺されても、死なない」
「その言い方やめろ」
「だからこそ――」
書類を軽く叩く。
「あなたは適任なの」
「何の?」
「ヤンデレの“受け止め役”」
「言い方!!」
「もっと分かりやすく言うなら」
一拍置いて。
「刺されても壊れない相手として、彼女たちの歪んだ愛情を受け止める役」
「全然分かりやすくないし納得もできない」
「任務内容はこうよ」
女は指を一本立てる。
「対象となる女子生徒と接触し、関係を築く」
二本目。
「暴力以外の愛情表現を学習させる」
三本目。
「最終的に、社会復帰可能な精神状態まで改善させる」
「……カウンセラーか何かか?」
「違うわ」
即答だった。
「あなたは“壊れないサンドバッグ兼恋愛対象”よ」
「誰がやるか!!」
「やるの」
また即答。
逃げ道がない。
⸻
「勤務地も決まってるわ」
女はさらっと続ける。
「あなたにはこれから、“国立闇照高等学校”に転校してもらう」
「絶対やばい名前だろ」
「問題児専門の隔離教育機関よ」
「ほらやばい」
「主にヤンデレね」
「終わってるだろ」
⸻
「ちなみに」
女が何気なく言った。
「あなたを刺した幼馴染」
嫌な予感しかしない。
「彼女も対象者の一人よ」
「……マジかよ」
「ええ」
女は平然としている。
「再会できて良かったわね」
「良くねえよ!!」
絶対また刺してくる。
しかも今度は、止めるやつがいない。
「大丈夫」
女は淡々と言った。
「あなた、死なないでしょ?」
「それ免罪符じゃねえからな!?」
⸻
こうして俺は。
不死身という理由だけで。
ヤンデレ女子たちに刺されながら更生させるという、意味不明な任務を背負わされ――
隔離された学園へ送り込まれることになった。
そこにはきっと、あいつもいる。
俺を何度も刺して、笑っていた幼馴染。
「……マジで、どうすんだよこれ」
胸の奥が、まだ少し痛む。
あの恐怖は消えていない。
それでも。
逃げ場はない。
――不死身な俺と、壊れた愛情を持つヤンデレ女子たちの。
最悪で危険すぎる学園ハーレム生活が、ここから始まる。




