前世が寺生まれのおっさんだった令嬢は、『見えちゃう』体質の婚約者を全力でアシストすることにいたしました。
お久しぶりの愉快なおっさんシリーズです。
微ホラー風味ですが、シリアスはまるで息をしておりませんので、安心してご覧くださいませ。
オレリー・ジャルベールが婚約者のジョエル・ラクロワとはじめて顔を合わせたとき、まず抱いたのは「随分、陰気くさい方ですのね」という、少々失礼な感想だった。
ラクロワ伯爵家の嫡男である彼は、華やかな金茶色の髪にマリンブルーの瞳、白皙の肌の、人形のように可愛らしい容姿をしている。
体の線も細く、決して病的というわけではないのだけれど、十六歳という年齢相応の活力というものがまるで感じられない。
ジョエルは、婚約者との顔合わせの場だというのに、初対面の挨拶を交わして以降、まるで口を開く様子がなかった。
彼の両親である伯爵夫妻が、懸命に話題を提供してはどうにか場の空気を和ませようとしているふうなのに、当の本人がこの様子では、さすがに将来が不安になってくる。
そもそも、将来は伯爵家を継いで立とうという少年が、これほど吹けば飛ぶような頼りない風情というのはどういうことか。
ジャルベール侯爵家の次女であるオレリーは、生まれたときから両親、そして少し年の離れた兄と姉から、蝶よ花よと可愛がられて育ってきた。
だが、癖のない淡い金髪に、ペリドットグリーンの瞳を持つ彼女は、いまだ十四歳。
体つきも華奢で実年齢より幼く見られることも多いため、ひょっとしたらジョエルは婚約者があまりにも子どもっぽかったため、不機嫌になってしまったのだろうか。
彼が通っている聖マリオン学園には、来年からオレリーも通う予定だけれど、きっとそこには美しく魅力的な年上の女性が大勢いるのだろう。
もしジョエルがそういった年上の女性が好みのタイプで、周囲から『なんて可愛らしい!』と褒められることはあっても、一度も『美しい』という褒め言葉をもらったことがないオレリーにがっかりしてしまったのだとしたら――。
(それでも、婚約者との顔合わせの場でこの態度は、あまりに失礼だと思いますの!)
自分たちの婚約は、すでに両家の契約として成立している。
ならば、今後よほどのことがない限り、ジョエルはオレリーを妻として迎えることが決定しているのだ。
貴族の婚姻に、当人同士の気持ちが考慮されないのは当然とはいえ、はじめからこうも歩み寄る気配がないというのは、いかがなものか。
内心ものすごくイラッとしていたオレリーだったが、お決まりの「それでは、あとは若いふたりで」という言葉に促され、ジョエルとともに伯爵家の庭を散策することになった。
相変わらず無表情のくせに、どんよりと重苦しい空気だけはしっかり感じさせる婚約者は、一応オレリーをエスコートするつもりはあるらしい。
少し先を歩いていた彼が、振り返って右手を差し出してきた。
「この先に、飛び石があるので……」
彼女が飛び石につまずいて転ばないように、という配慮だろうか。
幼い頃から、領地の草原を走り回って遊んでいたオレリーにとって、手入れされた庭の飛び石など、むしろひとつ飛ばしで踏んで遊びたいくらいのものだ。
しかし、いくら家族から甘やかされて育った彼女にも、淑女としての恥じらいはきちんとあるため、素直にジョエルの手を取ったのだが――。
「え……?」
指先が軽く触れ合った途端、ジョエルがひどく驚いたような声を零す。
同時に、脳内で「……っ破アァアアァーッッ!!」というおっさんの大音声が響いた気がして、オレリーは目を丸くした。
今のはいったい、なんだったのだろう。幻聴にしては、あまりにリアルすぎる。
硬直した彼女をまじまじと見つめた彼は、ぎこちなく手を離した。
(ひゃあっ!?)
一度離れた指先を、まるですがりつくような強い力で握られる。
次いで、何やらぷるぷると震えだしたジョエルの頬に、じわりと血の色が上っていく。
おまけに、潤んだ瞳でオレリーを見つめてくる彼は、寸前までの鬱々とした様子はどこへやら、熱のこもった掠れた声で口を開いた。
「オレリー嬢……」
「ひゃ、ひゃい!」
――何しろ、このジョエル・ラクロワという少年は、顔だけはものすごく整っているのである。年頃の乙女が至近距離で見つめるには、心臓に悪すぎるシロモノなのだ。
しかし、オレリーの心臓に多大なる負荷を掛けていることなど、まるで気がついていないらしい彼は、彼女の右手をそっと両手で包みながら、うっとりと息を吐いた。
「あなたは……本当に、素晴らしい」
(ハイ! 素晴らしいのは、十六歳とはとても思えないあなたさまのお色気ですわね!)
混乱のあまり、脳内でわけのわからないことを叫んでしまったオレリーに、ジョエルは恍惚とした表情を浮かべて言う。
「まさか、あなたのような女性がこの世に存在しているだなんて……。ましてや、そんなあなたが私の婚約者だなんて。この奇跡を、心から神に感謝いたします」
(……は!? 先ほどまでの無口無表情無感動な態度は、いったいなんだったのですの!? 手のひらを返す勢いが激しすぎて、風圧で吹っ飛ばされてしまいそうですわよ!?)
冗談抜きに、気が遠くなりかけたときだった。
オレリーの手が、ぎゅっとジョエルの手を握り返す。
自分の意思によらずして、勝手に動いた自分の体に驚く間もなく、オレリーは口を開いていた。
「ジョエルさま。今まで、ご苦労されてきたのですね。本当に……本当に、お辛かったことでしょう」
「オレリー嬢……っ」
(……はいぃ?)
自分は、いったい何を喋っているのだろう。
唖然とした彼女の隙を突くように、オレリーの口はいつもより早めの口調でジョエルに告げる。
「できることなら、わたくしがいつもそばにいて差し上げたいところですが、それは叶わぬ願いでありましょう。――今日のところは、どうぞこちらをお守りとしてお持ちくださいませ」
そう言いながら、オレリーは左手で耳飾りを両方外した。
ドロップ型のアメジストをあしらったそれは、オレリーのお気に入りの品だ。
軽く握ったそれをジョエルに差し出すと、彼は戸惑った顔をして受け取った。
「ジョエルさま。一度、お手を離してみていただけますか?」
「……っ」
ジョエルの顔が、緊張に強張る。
だが、ひどく慎重に、恐る恐るオレリーの手を離した彼は、信じられないという顔をして周囲を見回した。
「見えない……! 何も見えないし、聞こえない!」
心の底から感動した、という様子で声を上げるジョエルは、いったい何を言っているのだろう。
内心、思いきりどん引きしたオレリーだったが、彼女の体は勝手に動いてほほえんだ。
「それは、よろしゅうございました。――ジョエルさま。そちらの耳飾りは、差し上げます。お守り袋にでも入れて、いつでもお持ちくださいませ」
「あ……ありがとう。ありがとう、オレリー嬢……!」
ジョエルが、半泣きになって再び両手を握りしめてくる。
本当に、わけがわからない。
「未来の旦那さまのためですもの。これくらい、なんということはございませんわ。ただ、わたくしの手から離れた耳飾りが、どれほど効力を維持するものなのか……。できれば、一月に一度は新しいものに取り替えさせていただきたいのですけれど、よろしいでしょうか?」
「もちろんです……! むしろ、こちらからお願いしなければならないところです。えぇと、耳飾りならどんなものでもいいのでしょうか? できれば、あなたの好むものを贈らせてもらいたいのですが、いかがでしょう?」
まあ、とオレリーはほほえんだ。
「ありがとうございます、ジョエルさま。そうですわね……。でしたらいっそのこと、はじめから男性用の指輪か何かをご用意いただけますか? 黒曜石や水晶をあしらったお好みのものをお持ちいただければ、それをわたくしがジョエルさまのためのお守りになるよう、祈りを捧げさせていただきます」
「オレリー嬢……。ありがとう。本当に、ありがとう。だったら、あなたへのお礼とは別に、自分が身につけやすい何かを、すぐに用意させてもらうよ。あなたは本当に、私の恩人だ」
キラキラと瞳を輝かせるジョエルの笑顔が、眩しすぎる。
それから、すっかり別人のように明るくなった彼の様子に、両家の両親が揃って驚愕してみたり、離れがたいと言わんばかりに寄り添ってくる婚約者の、美麗すぎる顔面の圧に気が遠くなってみたりしつつ、どうにかジャルベール侯爵邸へ帰還した。
その頃には、自分自身の意思で体を動かせるようになっていたけれど、どうにも疲労感が酷すぎる。
まだ日は高いけれど、一度昼寝をさせてもらおうとベッドに入ったのだが――。
(……ちょっと待って。お願い、ちょっと待ってくださいな。ジョエルさまが、『見える、聞こえる、あの精度ならおそらく嗅げる』の三拍子揃った重度の霊媒体質だったなんて、聞いていないのですわーっっ!!)
目を覚ました瞬間、前世の坊主だったおっさんに、脳内で「あの少年に触れた瞬間、とんでもない量の悪霊にまとわりつかれているのが見えたのでな。咄嗟におまえさんの目を塞ぎ、こちらで『破ァ!』と一発対処したのだが……。いい年をした住職がお嬢さま言葉を駆使するというのは、なかなか精神にクるものだな。うむ、ここは気合いを入れ直して――坊主・ボンバイエー! フゥー!」と叫ばれた場合、いったいどう反応するのが正解だったのだろう。
束の間、広々としたベッドでひとり呆然としてしまったオレリーだったが、どうやら婚約者の手に触れた途端、彼の強すぎる霊媒体質に引きずられる形で、前世のおっさんが覚醒してしまったらしい、ということは理解する。
しかし、前世が坊主なおっさんだったからといって、なぜ悪霊関係に対処ができるのだ。坊主の仕事は仏に仕えることであって、断じて『破ァ!』と悪霊退散ビームをぶっ放すことではないはずだ――と思ったところで、過去の記憶が甦る。
(あー……。そうでしたわ。前世でも、『坊主なんだから、悪霊関係には強いはず!』という周囲の霊媒体質な面々に頼られまくって、なんでやねん! となりながらも適当に念仏を唱えてみたら、なぜか悪霊退治ができちゃった、ということの繰り返しだったのでしたわね……)
おそらく前の世界では、『坊主ならば、悪霊退治が可能である』という認識が、国家レベルで成立してしまっていたのだろう。
それゆえ、その認識に沿う形で行動していた前世のおっさんは、徐々に『普通の坊主』から『悪霊退治が可能な坊主』に、魂がレベルアップしていたのかもしれない。
よくわからないが、そういうことにしておこう。
いずれにせよ、オレリーの脳内で今も「坊主・ボンバイエ! 坊主・ボンバイエ! イェアー!」と自身を鼓舞しているおっさん坊主は、極度の霊媒体質であるジョエルにとっては、救世主にも等しい存在だったに違いない。
あのときは何がなんだかさっぱりわからなかったけれど、改めておっさんの目を通して見た記憶を掘り返してみると、よくもまあ日常的にあんなものに囲まれているジョエルは、正気を保っていられたものである。
おっさんの記憶と能力が甦った今、おそらくオレリーも今後はああいったモノを見ることが日常になるのだろう。鬱陶しいことこの上ない。
(それにしても、中途半端に腐った姿や、内臓がこぼれ落ちているような姿を晒している方々というのは、あんなにみっともない有様を他人様に見られることが、恥ずかしくはないのかしら。わたくしだったら、死後であろうときちんと身だしなみを整えて、どなたに見られても恥ずかしくない姿でありたいものですわ!)
淑女たるもの、いつでもどこでもどんなときでも、可能な限り美しくあるべきなのである。
彼にまとわりついていたモノたちの見苦しさに憤慨しつつ、オレリーはおっさんの記憶を元に今後の対策を講じることにした。
おっさんが「はっ、〇っ、たっ、のっ、塩!」と歌うリズムに合わせ、ローズマリーやタイムなどのさまざまなハーブを入れたサシェに、食料保存庫から調達してきた岩塩を足したものを、いくつも作る。
残念ながら、この世界にファ〇リーズは存在していないため、代用品としてやはり数種類のハーブ水をブレンドした消臭・除菌スプレーを用意する。
……貴族の令嬢が持ち歩いていても不自然ではない除霊・魔除けグッズといえば、これくらいのものだろうか。
ちなみに、おっさんがジョエルに用意するよう言っていた黒曜石や水晶は、以前普段使いにしていた数珠の素材であるらしい。
(さすがに、この世界に沈香は存在していないでしょうし……)
黒曜石はともかく、水晶と思春期の少年を掛け合わせた場合、ドラゴンのモチーフが絡みついたようなデザインのアクセサリーになったらどうしよう、という不安を抱いていたオレリーだが、幸いなことにジョエルはそういった愉快なセンスは持ち合わせていなかったらしい。
翌日、さっそく面会に訪れた彼が携えていたのは、可愛らしい花々を取りそろえたブーケと、アクアマリンをあしらった少女らしいデザインの耳飾り。
そして、黒曜石を嵌めこんだシンプルな幅広の腕輪だった。
作りもののように整った美しい顔に、満面の笑みを浮かべて訪れたジョエルは、出迎えたオレリーを世界で最も価値のある宝物を見るような目で見つめてくる。
なんということだろう。
こんな甘ったるい視線は、断じて昨日会ったばかりの相手に向けるべきものではないと思う。
おっさんのお陰でグロテスクな諸々が見えなくなったことが、そんなに嬉しかったのだろうか。
「ご、ごきげんよう、ジョエルさま。ようこそいらっしゃいました」
「ああ、オレリー嬢。今日もあなたにお会いできて、私はとても幸せです。物心ついてから、こんなにゆっくりと眠ることができたのは、はじめてでしたよ」
爽やかな笑顔でそんなことを言われたオレリーは、その意味を正しく理解した。
(そうですわよね……。昼間でもあんなにグロテスクな方々に取り囲まれていらっしゃったのですもの。夜ともなれば、さぞかしパワーアップした百鬼夜行状態だったのでしょうね……)
……本当に、気の毒過ぎる。
昨日手渡した耳飾りは、小さなお守り袋に入れて肌身離さず持ち歩いているらしい。
ジョエルからの贈り物を受け取ったオレリーは、ひとまず岩塩入りのサシェと消臭スプレーのボトルを差し出した。
「昨日の耳飾りをお持ちいただいていれば、基本的におかしなモノが寄ってくることはないと思うのですが……。万が一の際には、こちらのサシェをぶつけるか、スプレーをかけてみてくださいませ。きっと、それで大丈夫だと思いますわ」
「オレリー嬢……! 昨日の今日で、こんなものまで!? あなたは、なんて心優しい女性なんだ……!」
どうしよう。
心から感動しているらしいジョエルの反応が、一々オーバーリアクション過ぎて引いてしまう。
(わたくしとしては、未来の旦那さまが悪霊まみれでは、いろいろと面倒そうなのでどうにかしておきたい、というだけなのですけれど……)
なんだか申し訳ない気分になっていると、深々と息を吐いた婚約者が顔を上げる。
オレリーは、固まった。
(顔が! いいの! です!)
なんの対処もしなければ、常にとんでもない量の悪霊にまとわりつかれてしまうレベルの霊媒体質であったとしても、彼が超のつく美少年であるという事実は変わらない。
そのうえ、伯爵家の嫡男であるジョエルは、嫁ぎ先としてはかなりの優良物件だ。
そんな婚約者に、これ以上ないほどまっすぐに親愛の情を向けられているというのに、どうにも複雑な気分になってしまうのは、やはり彼が第一に求めているのがおっさんの除霊能力だからだろう。
(もしわたくしが、おっさんの記憶も能力も持ち合わせていない、ごく普通の娘だったなら、ジョエルさまがこれほどお心を開いてくださることなどなかったでしょうし……)
おっさんが常に身につけていた数珠は、有事の際(?)には悪霊たちに対してTNT爆弾並の威力を誇っていた。
ジョエルが持ち込んできた黒曜石の腕輪も、これからしばらくオレリーが身につけていれば、相当威力のある除霊グッズになるに違いない。
脳内のおっさんも、「一度死んだせいなのか、昨日の『破ァ!』は以前とは比べものにならないほどの威力があったからな。おまえさんが作るアイテムも、かなりの強度を期待していいと思うぞ」と太鼓判を捺してくれている。
なんとなく悶々とした気分になっていたオレリーに、ジョエルがきらめく笑顔で言う。
「オレリー嬢。私は今まで、人には見えないものが見えてしまう自分が、いやでいやでしょうがありませんでした。誰と話をしていても、その背後に首のない騎士や得体の知れない黒い影、恨みがましげな顔をした血塗れの女性がいては、まっとうなコミュニケーションなどとてもできませんでしたから」
「……はい」
それはそうだろう。
想像するだけで、心が折れそうだ。
心からの憐憫を覚えたオレリーに、ジョエルは続ける。
「あなたは、そんな私に気付いて、迷わず手を差し伸べてくださった。どれほど感謝しても、足りるものではございません」
(……申し訳ありません、ジョエルさま。わたくしはひたすらびっくりしていただけで、あなたさまをお救い申し上げたのは、わたくしの脳内でしょっちゅう『坊主・ボンバイエ!』と叫んでいるおっさんなのです……!)
前世で、プロレスの大ファンだったおっさんが憎い。
いや、プロレス自体に断じて罪はないのだが、ガチムチマッチョなプロレスラーが、フリルとレースをふんだんに使ったドレスを着るところは見たくないのだ。……自分でも、何を考えているのかわからなくなってきた。
「あなたは、私にとって希望の光そのものなのです。来年、あなたが聖マリオン学園へ入学されるまでには、きっとあなたを守れるようになりますので、どうかご安心ください」
(………………ハイ?)
オレリーは、固まった。
このジョエルの言いようでは、まるで――。
「……あの、ジョエルさま。それはもしや、聖マリオン学園には、あなたさまでも顔を顰めてしまわれるようなモノが存在している、ということでございますか……?」
「ああ、怖がらせてしまうようなことを言ってしまいましたね。申し訳ありません。――ただ、そうですね。私が校舎の中で延々と迷ってしまったにもかかわらず、どうにか目的地にたどり着いたときには、ほんの数分しか経っていなかった、ということであれば、時折あるのは事実です」
(えぇー……?)
どん引きするオレリーの脳内で、坊主のおっさんが「この少年、実はとんでもない強運の持ち主なのでは……?」と訝しんでいる。
そのあたりについてはよくわからないけれど、迷路タイプの怪異に捕まったにもかかわらず、なんの被害もなく生還したうえ普通に正気を保っているとなると、ジョエルの神経が登山ザイル並に頑丈なのは間違いなさそうだ。
見た目はお人形のような繊細系美少年だというのに、なんという見た目詐欺だろうか。
(……というか! 聖マリオン学園に、そんな恐ろしげな怪異が住み着いているなど、本当に冗談ではないのですが!?)
聖マリオン学園は、この国の貴族の子女が通う、この国で最も歴史と伝統のある学び舎なのだ。
そこに、生徒を惑わせ食いものにしようとする怪異が潜りこんでいると聞いたおっさんが、きらーん! と禿頭と瞳を光らせた。眩しい。
――どうしたものだろうか。
脳内のおっさんが、ノリノリで聖マリオン学園の怪異に『破ァ!』をしたがっている。「だって、このパワーアップ具合なら、どんな怪異にも無双できそうなんだもん」じゃない。
オレリーは、ごく一般的な淑女でありたいのだ。たとえ、脳内にやたらとハイスペック坊主なおっさんが住み着いていたとしても。
しかし、そうはいってもジョエルはオレリーの婚約者。
彼が通う学び舎に、そんな危険が潜んでいる事態を放置するわけにもいくまい。
ぐっと両手を握りしめた彼女は、覚悟を決めた。
近いうちに、聖マリオン学園に潜りこんで、婚約者に余計なちょっかいを掛ける怪しげなモノを一掃してしまおう。
そうすれば、万が一ジョエルが持っているお守りの効果が切れたとしても、滅多なことにはならないはずだ。
「ジョエルさま……。どうか、くれぐれもお気をつけくださいませね」
「ありがとうございます、オレリー嬢。……大丈夫です。あなたがいてくだされば、私は誰よりも強くなれる。そんな気がするのです」
穏やかに笑ってそう言ったジョエルは、やがて最愛の婚約者を守りたいという一念で己の体質を克服し、学園内の平和を密かに守る最強のゴーストバスターとなっていくのだが――それは、もう少し先のお話。
現在、アルファポリスさまから書籍三巻まで刊行いただいている「追放された最強令嬢は、新たな人生を自由に生きる」のコミカライズ版が、現在書店にて発売中です。
黒百合姫先生の美麗なタッチで描かれる本作を、ぜひご覧くださいませ!
また、あちらのサイトさまで同作の小説版を連載中です。
戦闘シーンをめちゃくちゃ楽しんで執筆いたしましたので、よろしければちらっと覗いてやっていただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします!




