現世の終わり…そして起動
皆さん、主人公がチート貰って無双する作品は飽きましたよね?なら主人公を苦労させましょう
十一月初旬の土曜日。
雨は降り続き、街全体を薄い膜で包んでいた。
アキラはリビングのソファに座り、スマートフォンを眺めていた。
ソシャゲの周回をしながら、時折、テレビに目を向けたりもした。今は、アキラが大好きな番組の
「映画の時間」放送されている。
「アキラ、勉強は?」
背後から母の声がする。
責めるというより、疲れ切った声だった。
「共通テストも近いんだから……」
「分かってる」
短く答える。
それ以上の言葉を交わす気力はなかった。アキラは同じ映画友達のミキにラインした。いつもの通り、「映画の時間」の話をしようとした。ミキからの返信はこうだった…
「ごめん!そろそろ共通テストだから、また今度ね?私は将来弁護士になるって夢があるから!私は弁護士になるために頑張るよ?アッキーもファイト!」
(スタンプ)
努力しろ。
考えろ。
将来を選べ。
この世界では、それが当たり前なのだと言われ続ける。
(……疲れた)
(ついに友達にも言われてしまった…)
アキラは立ち上がり、部屋に戻る。
机の上には参考書。開かれることのないまま、時間だけが積もっている。
「図書館、行ってくる」
そう告げると、母は少し驚いたように顔を上げた。
「あら、珍しいわね。いってらっしゃい」
その言葉に、アキラは何も返さなかった。
外は雨だった。
冷たい空気が肺に入る。
アキラは人気のない廃墟に向かった。アキラは、今にも崩れそうな、廃墟の階段を使い、屋上へ登る。柵を乗り越え、少しでも前に体重を掛ければ、確実に転落する。
(これで、全部終わる)
大学も、試験も、努力も。
誰かと比べられることも、期待されることも。
来世があるのなら、
次はもっと簡単な世界がいい。
力を与えられて、
何も考えずに生きられる場所。
そんな都合のいい話が、あり得ないことは分かっていた。
だからこそ、思考を止めた。
アキラは前に体重をかけた。
――そして。
暗転。
音が遠ざかる。
身体の感覚が、少しずつ剥がれていく。
(……終わりだ)
それが、最後の思考だった。
一面の白
何もない。
上も下もなく、時間の感覚もない。
そこに、声だけが落ちてきた。
「……起きよ」
「償え…」
低く、冷たい女の声。
(……誰だ)
問い返す前に、意識が強く引き戻される。
---
最初に戻ってきたのは、呼吸だった。
「……っ!」
肺が無理やり空気を吸い込み、喉が焼ける。
全身が痙攣し、背中が反り返る。
視界が開いた。
透明な壁。
白い光。
自分は、液体の中に沈んでいる。
――カプセル。
「型式番号CB008、蘇生完了。」
無機質な電子音でそう言われる。
「所長!CB008の人格データが違います!なんですか?このデータは?akira1って」
研究者の白衣の女が焦ったように聞く。
「たまにあるイレギュラーだ。気にするな…兵器としての運用に支障は無い」
所長と言われる人が、冷静に落ち着いた雰囲気でそう。言った。
「イレギュラーですね所長…いい加減なれないと…名前はイレギュラーDとしておきましょう…今年はイレギュラーが多いことね…」
「こちら、会員番号152。リリス。」
「イレギュラー誕生確認。」
「繰り返す。イレギュラー誕生確認。」
「名前はイレギュラーD」
意味不明な単語が、頭の中で形を持つ。
(……なんだ、ここ)
違和感が、全身を貫いた。
身体が軽い。
それなのに、見慣れない重心が胸と腰にある。
液体が排出され、カプセルが開く。
冷たい空気が、肌に触れた。
その肌が、明らかにおかしかった。
柔らかすぎる。
細い。
呼吸に合わせて、胸が僅かに上下する。
「……女……?」
出てきた声は、高く、知らないものだった。
(これじゃぁハーレム出来ないぞ…)
周囲に人影がある。
白衣を着た人間たちである。
「意識回復を確認」
「不死魔術、拒絶反応無し。増強魔術、拒絶反応無し。正常。複合魔術回路。正常」
その言葉で、理解した。
(……俺は、ここで“作られた”)
鏡代わりの金属壁に映る姿。
知らない金髪の女。
だが、確かに自分の動きと一致している。
「名前は?」
小太りの研究者から、アキラは名前を問われる。
「……アキラ」
「違う…何を言っているんだお前は…」
即座に否定された。
「君はキャサリンだ」
その瞬間、
自分という存在が、完全に切り離された気がした。
「前線投入まで三時間」
「それまでに適応を完了させろ」
命令が飛び交う。
誰も、意思を確認しない。
「個体、CA003損傷大!超回復でも対応不可!」
「カプセルに入れろ!修理は2時間で終わらせろ!」
(あぁ…俺は、人間扱いなんかされないんだ…こんな事になるなら、あの時、飛び降りなければ良かった…)
人形として。
死ぬことも許されず。
壊れれば直され、また使われる。
アキラは、静かに立ち上がった。
「これから装備を渡すため、次の部屋へ移動する。タオルを巻け…兵が風引かれては困る」
ここが、
自分が望まなかった「生」の世界だった。
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