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IFルート・序章 「息の残響」 ― もし、あの夜、猫にならなかったなら ―
夜の蔵に、光は差さなかった。
あの日、ペンダントに触れなかった世界。
みさとは東京の片隅で、
何かを忘れたまま生きていた。
息はしている。
けれど、どこか浅い。
胸の奥の空洞に、言葉が落ちていく。
夢を見た。
灰色の猫が、雨の中でこちらを見ている。
――まだ、息をしてる?
その声に目を覚ますと、
枕元に一枚の葉が落ちていた。
ミントの葉。
薫りが、記憶の奥を撫でていく。
知らないはずの懐かしさ。
そこに、“彼”の面影があった。
悠真――その名前を、なぜか知っている。
知らないはずなのに。
外では風が鳴っている。
けれどそれは、風ではなく“誰かの息”だった。
みさとは立ち上がり、
窓を開けた。
冷たい夜気が流れこみ、
部屋の中の時計の音が止まった。
その静寂の中で、
ひとつの声が響く。
「まだ、息を合わせていないんだ。」
光が零れ落ちる。
懐かしい銀色。
みさとの足元に、ペンダントが転がっていた。
触れようとした指が震える。
世界が、また動き出す気がした。
触れぬ夜 息の残響 呼び返す
選ばぬ道も 祈りに続く。




