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プロローグ ――猫の夢――

※この作品は“静かな恋愛”と“日常の呼吸”をテーマにした恋愛幻想譚です。

派手な展開よりも、感情の細やかな揺れや匂い、息づかいを大切にしています。


猫と人、夢と現実、理性と本能。

そのあいだで生まれる恋を、どうぞ静かに感じてください。

夜の中で、息がひとつ、生まれた。

風のようで、風ではない。

それは、胸の奥で震える音だった。


まだ夢の底にいる。

けれど、どこかで誰かが、みさとの名前を呼んだ気がした。

声ではない。

呼吸と呼吸の間に、確かにあった“何か”。


まぶたの裏に、銀の光が揺れる。

その光が、ゆっくりと言葉の形を探している。

――でも、言葉にはならない。

だからこそ、美しいと思った。


彼女は目を開けた。


部屋は、まだ夜の続きのように静かだった。

時計の針の音が、遠くで鳴っている。

世界が、少し遅れて動きはじめたような感覚。


枕元に、ひとつの珠が落ちていた。

小さな、淡い光。

息を吸うたびに、それがかすかに明るくなり、

吐くたびに、光は弱まっていく。


――まるで、呼吸しているみたい。


そう思った瞬間、胸の中がふっと熱くなった。

指先が、その光をなぞる。

冷たくも、温かくもある、不思議な感触。

まるで、生きものに触れているようだった。


「……誰?」


声を出した。

けれど、部屋の空気は何も答えない。

その代わりに、珠の中から、小さく音がした。


ほんの一瞬、

それは確かに、みさとの名前を呼んだ。


そして次の瞬間、

彼女の中の何かが、そっと、ほどけた。


目に見えないものが、体を包み込む。

息が光に変わって、部屋の中を漂う。

懐かしい匂い。

遠い記憶の残り香。


――私は、まだ、息をしている。


その感覚を確かめるように、

彼女はもう一度、ゆっくりと息を吸った。


外の世界では、夜が終わろうとしていた。

猫の鳴く声が、小さく、朝の端に混じっていた。

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