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第八話 多けりゃ良いってもんじゃない



「勇者千寿よ! 様々な属性を集めて……」

「説明しろ! このクソボケェェッ!」


 勇者のボディブローが賢者の腹部を(えぐ)る。

 拳が賢者の腹に深々と突き刺さり、賢者の身体は、くの字にひん曲がっていた。

 いまだかつてない程に殺意満点の一撃だった。

 そんな攻撃を受けた賢者が膝をつく。


「説明を遮っての御褒美とはな! 腕を上げたじゃないか!」


 膝をついた状態から勇者を見上げて、賢者が通常営業の変態発言をぶちかます。

 そして、いつもの如く、賢者は何事も無かったかの様に立ち上がった。

 相変わらず、効いているのか効いていないのか分からない男である。


「それで、この状況はなんだ?」


 そんな賢者に冷たい視線を向けつつ、勇者が訊ねる。

 勇者が指している状況というのは、勇者達の周りにいる人々だった。

 山に入ってはいないものの、町の外で、十人ほどの女性が集まっている。


「ああ、彼女達は俺が集めた!」

「そんなこたぁ分かってんだよ! 何で集めたのか聞いてるんだ!」

「いや、俺達の旅を、人々の記憶に残る記録とする為には、ヒロインが一人と言わずに必要だと思ったんだ」


 賢者の言葉に勇者が頭を抱え、深々と溜息を吐く。


「……具体的に、何をやってもらうつもりなんだ?」

「もちろん、勇者とイチャイチャしてもらう」


 賢者の言葉に、勇者の(まなじり)が吊り上がる。

 そして、勇者は怒りのままに賢者の胸倉を掴み上げた。


「故郷に恋人がいるって言ってんだろ!」


 確かに以前聞いた話である。

 賢者は、いまだに勇者のハーレム展開を諦めていないらしい。

 懲りない男である。


「そう言うな。個性的な面々を集めてある。気に入るはずだ」

「そういう問題じゃねぇっ!」


 怒声と共に、勇者が賢者を地面に叩きつける。

 賢者は、綺麗に受け身を取って、すぐさま立ち上がる。


「しかし、最近の作品傾向から言って、ダブルヒロインどころかヒロインが十人以上いる作品も珍しくないぞ」

「知らねぇよ!」

「個性が駄々被りして、再登場した時に誰だか分からなかったりもする!」

「駄目だろ!」

「とりあえずヒロイン候補を多く出して、人気が出たキャラに焦点を当てていく! それが今のパレード!」

「どこを行進するつもりだ! トレンド!」

「そう! それだ!」


 結局、いつもの遣り取りに帰結した事に勇者が再び頭を抱える。

 そんな勇者とは対照的に、賢者はどこか満足気だった。


「とりあえず、ヒロインは多い方が良い。十人も用意すれば何かしらの性癖に引っかかるはずだ」

「カゴ釣りやってんじゃねぇんだぞ。後、シンプルに女性に対して失礼だからやめろ」


 そう言って、勇者が半眼で集まった女性達に視線を向ける。

 年齢も見た目をバラバラの女性達だった。


「色々と言いたい事はあるが……」


 そう言った勇者は、苦虫でも嚙み潰した様な表情だった。

 それでも、一人の女性に向けて言葉を続ける。


「何やってんすか? ストケシア様?」


 そう、言葉を掛けた相手は、先代勇者パーティーの賢者、ハイエルフのストケシアだった。

 勇者に話しかけられたストケシアが気まずげに視線を泳がせる。


「……賢者ディルに、のじゃロリ枠で参加を要請されたのじゃ」


 ストケシアの言葉に、勇者が深々と溜息を吐く。

 そして、隠しきれない怒りを(にじ)ませ叫ぶ。


「そんな要請に応えないでくださいよ!」


 至極もっともな意見である。

 何で要請に応えようと思ったのか。


「新しい魔術理論を教えると言われたのじゃ……」


 知識に釣られたらしい。

 そういえば、魔術馬鹿の気がある娘だった。


「そんな事に釣られて馬鹿騒ぎに参加しないでくださいよ!」

「いや! しかし! 賢者ディルは魔術の天才なのじゃ!」

「知ってます!」

「でも馬鹿なのじゃ!」

「それも知ってます!」

「どうせ、お主と聖女リリーが怒り狂って、すぐに帰れると思ったのじゃ!」

「そうするつもりです!」

「のじゃロリ口調で顔を出すだけで、新たな魔術理論を知れるなら得しかないのじゃ!」


 ストケシアの言葉に、勇者が怒りを(こら)える様に歯を食いしばり、そのまま空を見上げた。

 そして、その態勢のまま、絞り出す様に言う。


「俺達の迷惑は考えなかったんですか……?」

「どうせ、何人も集められるのじゃから、一人増えたところで変わらないと思ったのじゃ」


 そういう問題ではない。

 集団に紛れて己の欲望を叶えようとしないでほしい。


「………………」


 勇者は無言だった。

 空を見上げたまま目を(つむ)る。

 そして、再び目が開かれた時、その目には、どうしようもない諦念(ていねん)が宿っていた。


「もういいです」


 とても突き放した言い方である。


「冷静に考えたら、ストケシア様は、そこまで問題じゃないですから」

「う、うむ。それは良かったのじゃ……」


 決して良くはない。

 完全に見放されたのだと思う。

 それを感じ取ってか、ストケシアも狼狽(うろた)えた様な様子だった。

 だが、そんなストケシアには目もくれず、勇者が一人の女性へと目を向ける。

 目を向けられた女性は、白銀の髪と金色の瞳。その瞳は淡い光を放っており、息を飲むほどに美しい容姿だった。


「なんで女神様まで……」


 勇者が絶望した様に言う。

 そう、女性の正体は女神ウォールナットだった。

 女神も、また、ストケシアと同じ様に気まずげに視線を泳がせる。


「神を召喚する魔術が完成したと聞いて……」


 それで召喚されて来たという事らしい。


「拒否できなかったんですか?」

「以前、他の神々が地上で色々とやらかしたせいで、気軽に降臨できなくなっておりまして……」

「地上に来たかったと?」

「……たまには又甥に会いたいんです」


 女神の言葉に勇者が頭を抱える。

 女神も、また、自分の願望の為の参上である。

 頭も抱えたくなるだろう。


「分かりました……。今度、引き合わせます」

「……お願いします」


 勇者の言葉に、女神が申し訳なさそうに返事する。

 申し訳なさそうにしている分、ストケシアよりも幾分かマシなのかもしれない。


「他は、どう言って連れてきたんだ……?」


 女神とストケシア以外の女性達を眺めながら勇者が呟く。

 その呟きに賢者が答える。


「基本は金銭で釣った」


 その言葉に、勇者が呆れた様な視線を賢者に向ける。


「金かよ」

「金だ」


 賢者が力強く頷く。

 確かに手っ取り早い手段ではある。

 そんな会話を聞きつけてか、女性達の中から声が上がる。


「はい! 私、ポトス! 十二歳! 金貨一枚で雇われました! ロリ枠です!」


 女性の中の一人である少女が元気よく自己紹介する。

 だが、元気よく言う事ではない。できれば黙っていてほしかった。そして、できるなら、そのまま帰ってほしかった。

 しかし、そんな事は御構い無しに、少女の隣にいた女性も話し始める。


「私は、この子の母親で、パキラと申します。人妻枠です」


 お前も名乗らんでいい。

 母娘揃って何をやっているのか。


「ヒロイン候補がロリと人妻の母娘って……」


 勇者が呻く様に声を発する。

 流石にヒロインとして用意する人選としてどうかと思う。

 色々な方面から怒られそうな人選だった。


「……報酬を払うんで、帰っていただけませんか?」


 そう言って、勇者が財布を取り出す。

 まさに金を払ってでも帰ってほしいという状況だった。


「報酬が貰えるなら……」

「いいよ!」


 母娘が答える。

 そんな二人に、勇者が溜息混じりに金貨を手渡す。


「他にも金銭で雇われた人は支払いをするので帰ってください」


 勇者の言葉に、ぞろぞろと人が集まる。

 殆どの女性が金で雇われた様だった。

 全員に勇者が金貨を手渡していく。


「町まで帰れますか?」

「俺が護衛を雇っておいたから大丈夫だ!」


 勇者の質問に答えたのは賢者だった。

 賢者の言葉に応える様に武装した者達が数人現れる。


「用意周到だな」

「元々、今日だけの契約だったからな!」

「……お前、俺が追い返すのを見越してただろ?」

「それ以前に、彼女達を連れて歩いたら、俺はリリーに監禁される!」


 そう言って、賢者が背後に視線を向ける。

 その視線の先には、会話に関わらなかった聖女が居た。


「……手錠の手入れをしてるぞ」

「まだ大丈夫だ! ボーダーラインは超えてないはずだ!」

「チキンレースやってんじゃねぇんだぞ……」


 呆れた様に勇者が言う。

 ちなみに聖女は()わった目で手錠を凝視していた。

 そんな聖女を見て、慄いた様に勇者が続ける。


「本当に大丈夫なのか……?」

「ヒロイン枠にリリーを入れていたらアウトだったな」


 冷や汗など流しながら賢者が答える。

 そこまで怖いならボーダーラインギリギリを攻める様な真似は止めた方が良いと思う。


「……まあ、それは置いておくとしてだ」

「ああ」

「一人、帰ってないんだが?」


 そう言って、勇者が一人の女性を指し示す。

 女性は、目の下に(くま)を作り、髪はボサボサ、病的な雰囲気の女性だった。

 その女性が、勇者に怪しい視線を送っている。


「ああ……、彼女か……」


 賢者にしては珍しく歯切れが悪い。

 答え難そうに言葉を詰まらせている。


「……おい、何かあるのか?」


 勇者が賢者に詰め寄る。

 そんな勇者から視線を逸らして、賢者が答える。


「……彼女は、勝手についてきたんだ」

「……お前が雇った訳じゃないのか?」


 勇者の言葉に賢者が無言で頷く。

 そんな賢者の様子に、勇者は(いぶか)し気な表情で女性に向き直る。

 勇者の視線を受けて、女性が笑顔を作る。


「フッ、フフフ……」


 (ふく)み笑いである。

 断じて微笑んだとかではない。

 かなり不気味に笑みを浮かべている。


「私の名前はヤナギ……。医者です」


 かなり不健康そうな医者である。

 人を外見で判断するのはどうかと思うが、見た目的にはマッドドクターとか、そういう方向性だった。


「ゆ、勇者様は、異世界人だと聞きました……」

「あ、ああ……」


 ヤナギの妙な迫力に勇者がたじろぐ。

 だが、そんな勇者に構わず、ヤナギは言葉を続ける。


「異世界人の身体構造……、きょ、興味があります」

「そ、そうか……」


 言葉に詰まりながらも勇者が返事する。

 そんな勇者に対し、ヤナギは目を見開き、意を決した様に言う。


「ゆ、勇者様! ……医学発展の為に()分けさせて頂けませんか?」


 ヤナギの言葉に、勇者が一瞬硬直する。

 言葉の意味を吟味(ぎんみ)する様に表情が動く。

 そして、言葉の意味を正しく飲み込めた様で、次の瞬間には勢いよく飛び退った。


「おい! 腑分けって、解剖の事じゃねえか!」


 勇者が叫ぶ。

 腑分け。あまり常用する言葉ではないが、勇者の言う通り解剖の事である。


「シンプルに俺の命を狙ってるぞ!」

「ああ……。俺もヤバいのが来たと思って不採用にしたんだが……」


 そう言って、賢者が視線を逸らす。

 この賢者に、ここまで言わせるとは大したものである。


「勇者解剖計画を小一時間程語られて、流石に御帰り願ったんだが……」


 それでもついて来たという事らしい。


「そもそも! この世界に異世界人は俺しかいないんだから、俺を解剖しても医学は発展しないだろ!」


 それはそう。

 勇者を解剖して得られた知見は、解剖された勇者にしか役立たない。

 解剖した時点で、解剖によって得られる知識は無用の長物になる。


「だ、大丈夫です……」

「何も大丈夫な事はねぇよ!」

「こ、これは、私の興味本位ですから」

「興味本位で生きた人間を解剖しようとするな!」


 本格的にヤベェ奴である。

 何人か解剖してないか不安である。


「頼む! 帰ってくれ!」


 勇者の言葉に、ヤナギが目に見えて肩を落とす。


「じゃ、じゃあ、観察するだけにしますね……」

「それも止めてくれ!」


 自分を解剖しようとしている人物に観察される生活というのは中々スリリングである。

 勇者が拒否するのも当然だった。


「もう行くぞ!」

「ああ。出発しよう」


 出発を(うなが)す勇者に賢者が答える。

 そんな()り取りを聞いて、聖女が立ち上がる。


「ディル……。ギリギリだからね」


 聖女が、目の笑っていない笑顔でそう言って、その手に握った手錠で賢者の頬を撫でる。

 賢者の顔が引き()る。


「大丈夫だ……。ボーダーラインは心得ている!」


 何度でも言うが、賢者はギリギリを攻めるのを止めるべきである。


「賢者ディルよ。魔術理論を……」


 ストケシアが報酬を要求する。

 この状況で良く言えたものである。

 この娘も大概な性格だった。


「では、私は戻ります。約束の件、お願いしますね」


 そう言って、女神が微笑む。


「女神様! お疲れ様です! ストケシア様! 走りながらか、次の野営地でお願いします!」


 そう叫んで、勇者が走り出す。

 賢者と聖女も勇者に続いた。

 少し遅れて、ストケシアは魔術で勇者達を追って飛行し始め、女神は、そんな四人を見送って、何事も無かったかの様に姿を消した。

 そして、当のヤナギは、誰にも気取られる事なく、地を這う蛇の様に勇者を追走する。

 不健康そうな医者とは思えない素早さだった。

 その事に気づいてか、気づかないでか、勇者の表情は必死である。

 こうして、割と勇者の命がかかったマラソンは始まった。




 その日の夕暮れ。野営地で悲鳴が響いた。

 それは勇者の悲鳴だった。

 悲鳴を上げた勇者の視線の先を見て、誰もが息を飲んだ。

 そう、そこには、ヤモリの如く、木にへばり付いたヤナギの姿があったのだった。

珍しくモーブが不在になりました。

ネタが底をついてるので、後、数話で終わると思います。

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