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第四話 女神と言ったら、やっぱり駄女神



 神殿は静謐(せいひつ)な空気に満たされていた。

 そんな中、(たたず)むのは一人の神々しい女性。

 白銀の髪に金色の瞳。

 その瞳は柔らかな光を放っていた。

 容貌は人間離れして美しい。

 その女性の前には、勇者パーティーの三人が(ひざまず)いていた。


「女神ウォールナットに申し上げます」


 口を開いたのは聖女だった。

 神々しい女性は女神であるらしい。


「我々は、予定通りに戦線の押し上げに成功しております」


 聖女の言葉に、女神は優しく微笑む。


「喜ばしい事です」


 女神の言葉に、勇者パーティーの三人が(そろ)って頭を下げる。

 その様を見て、女神が言葉を続ける。


「魔族を滅ぼしてはなりません。魔族も、また、被害者です」

「承知しております」

「……魔族と人間の(いさか)いの原因は、五百年前に、人間が魔族達の土地に侵攻したのが原因です」

「………………」


 女神の言葉を、三人は静かに聞いていた。

 人間の権力者が聞けば、全力で否定する様な話だったが、話しているのは女神だ。誰も話を遮る事はなかった。


「五百年前、人間の侵攻に対抗する形で、初めて魔族を纏め上げる魔王と呼ばれる存在が現れました」


 女神の(うれ)う様に眼が細められる。


「魔王の前に、人間は敗北を重ねました。和平の話も自ら蹴り、存亡の危機に瀕しました」


 そこまで言った女神が、一度、息を吐く。

 そして、僅かな時の後、口を開く。


「人間を滅ぼす訳にいかなかった神々は、勇敢な人間に勇者の力と聖剣を授け、聖女と賢者に供をさせ、魔族に立ち向かわせました」


 そこまで言った女神は、どこか悲しげだった。


「その戦いが今まで続いているのです。……貴方達の力で、今度こそ、この戦いを終わらせてください」


 沈黙が流れた。

 誰も口を開かなかった。

 重苦しい空気が支配していた。

 だが、その中で、一人の男……、そう、賢者が口を開く。


「女神ウォールナットに御聞きしたい」


 何時になく真剣な表情で、賢者が女神に真っ直ぐな視線を向ける。

 女神は、その視線を受け止め、賢者に頷いて見せる。


「何なりと」

「では……」


 女神の言葉に、賢者は立ち上がり、女神の目の前に進み出る。

 そして、真剣な声音で女神に訊ねる。


「……駄女神に興味はありませんか?」

「……は?」


 あまりにも、どうしようもない質問である。

 女神本人に聞いてみる事では絶対にない。


「最近の傾向だと、女神というと、駄女神か性格の悪い性悪女神が多い印象があります!」


 だからどうした?

 それと、一部が目立つだけで、それは決して主流派ではないぞ。


「やはり、ここは、女神様にも駄女神になってもらう他ないかと!」


 不敬に過ぎる。

 女神に何を要求しているのか。


「え? いや? え?」


 女神も混乱している。

 突然、こんな訳の分からない要求をされれば神といえど混乱もするだろう。


「今は駄女神がブランド! 一緒に駄女神道を(きわ)めましょう!」

「ブランド⁉ え⁉ どういう事ですか⁉」


 異様にテンションの高い賢者。

 混乱の極みにある女神。

 そんな状況の中、勇者と聖女が無言で立ち上がる。

 そして、忍び寄るでもなく、勇者達は、堂々と賢者に近づいていく。


「貴方ならやれます! 最高の駄女神を目指しましょう!」

「え⁉ いや、困ります!」

「大丈夫です! きっと、皆も受け入れてくれますよ!」

「そんな事言われましても……!」

「頑張れ頑張れ! 気持ちの問題! ……もっと、駄目になれよぉっ!」


 賢者が熱くエールを送る。

 完全に余計なお世話である。

 敬虔(けいけん)な神官とかが目撃したら卒倒するレベルで不敬発言の連発だ。

 だが、そんな事を気にもせず、賢者は不敬なエールを送り続ける。

 渋面の勇者と聖女が、訳の分からぬエールを送り続ける賢者を左右から挟む位置につく。

 そして、叫ぶ。


「「トレンドォォ!」」


 勇者と聖女の拳が、賢者の顔を左右から挟み込む様に抉る。

 大分、愉快な感じに顔をひしゃげさせ、賢者がその場に崩れ落ちる。

 沈黙が、その場を支配した。

 だが、その沈黙は一瞬。

 一瞬の後には、賢者は何事も無かったかの様に立ち上がって見せる。


「二人同時の御褒美とはな……! 感じたぜ!」


 相変わらずの不死身ぶり、そして、相変わらずの変態発言である。


「感じるな」

「気持ち悪い」


 そして、相変わらずのツッコミである。

 見慣れた光景だが、いい加減、進歩というものを見せてほしいところだ。


「女神様にまで、おかしな要求をするのを止めなさい」


 聖女が賢者にローキックを喰らわせながら言う。

 勇者は無言で賢者のレバー目掛けて拳を打ちつけていた。


「これほど執拗(しつよう)に御褒美を頂けるとはな……! こんなに俺を喜ばせてどうするつもりだ!」


 どうするつもりも何もない。

 おそらく、どうにかしたいと思っているはずである。


「あの……。いつも、こんな感じなのですか?」


 完全に引きながら女神が問う。

 女神すら引かせるというのは、ある意味ではすごいとは思う。


遺憾(いかん)ながら」

「ディルは、子供の頃からこんな感じですよ」


 子供の頃からこの変態ぶりなのだとしたら大分ヤバい奴である。


「リリーは子供の頃から俺を感じさせてくれていたからな!」

「やめて。気持ち悪いから」


 とんでも変態発言をかました賢者を、聖女がバッサリと切る捨てる。

 聖女のその目は汚物でも見るかの様なものだった。

 だが、まあ、確かに気持ち悪いので仕方ないだろう。

 言葉でなくて、物理的に切り捨てたくなる様な発言だ。


「初めて会った際には、真面な方だったはずですが……?」

「猫を被っていただけですね」

「そうなのですか……?」

「ええ。ディルは、真面なふりをしておいて、相手が油断した瞬間に頭のおかしい本性を現し、相手の反応を楽しむ悪癖があります」


 大分ヤバ目の変質者である。

 こんな奴に重要な役目とか任せて大丈夫なのであろうか?


「……まあ、変態の事は置いておきましょう」


 勇者が言う。

 こんな変態、置いておかないでほしいが、このままだと話が進まないので仕方がないだろう。


「確か、今日は、重要な話があるとの事でしたが……?」


 勇者の言葉に、女神が思い出したかの様な表情を浮かべる。

 変態な賢者に気を取られて、話さなければならない内容を忘れていた様である。


「そうでした。今日は、引き合わせたい人物がいるのです」


 女神がそう言うと、神殿の扉が開く。

 誰かが開いた訳でなく、勝手に開いた様にしか見えなかった。

 地味ながら、神の奇跡によるものだった。


「入ってください」


 女神の声に従って、一人の男性が室内に足を踏み入れる。

 黒髪黒目、どこにでもいそうな風体の若い男性だ。

 そう、ぶっちゃけモーブだった。


「失礼します」


 そう言って、モーブが女神達の元へ歩み寄る。

 勇者パーティーの目の前、具体的には賢者の目の前で足を止める。

 そして、流れる様な動作で賢者の横っ面を引っ叩いた。

 突然の暴力に、()す術もなく床に転がる賢者。

 その賢者が、驚いた様に言う。


「出会い頭の御褒美だと……⁉ 新境地だ!」


 意味が分からなかった。

 何故、変態を喜ばせる様な真似をしたというのか。


「……お前、何やってんだ?」

「いや。話の流れ的にやっておいた方が良いのかと思いまして」


 いらんサービス精神である。

 しかも、変態しか喜ばないサービスだ。


「それもそうなんだが……。なんで、お前が女神様に呼び出されたんだ?」

「さあ? 牛筋(ぎゅうすじ)を煮込んでる最中なんで、早く帰りたいんですけど……」


 女神の要件よりも牛筋が気になるらしい。

 此奴(こいつ)も此奴で、大分おかしい存在である。


「……知り合いなのですか?」

「いや……、魔王軍の四天王ですよ? 何度か会ってますよ」


 勇者の言葉に、女神が納得した様に頷く。


「そうですか。それでしたら話が早いです」


 女神のその言葉に、四人が揃って首を傾げる。


「私としては、現魔王を討伐した後、彼に魔王になってもらいたいと考えています」

「え? 嫌ですけど」


 女神の言葉に、モーブがあっさりと拒絶を突きつける。

 悩む素振りすらない、ノータイムの拒絶だった。


「じゃあ、帰りますね」


 そして、要件は終わったとばかりに背を向けて歩き出すモーブ。

 微塵も躊躇(ちゅうちょ)がなかった。

 そこまで牛筋が気になるとでもいうのだろうか。


「ちょっと待ってください!」


 女神が慌ててモーブを呼び止める。

 その声に、モーブが心底面倒臭そうな表情で振り返る。


「何ですか?」

「貴方は、自分の立場を理解していますか?」

「……理解しているから嫌なんですけど?」


 モーブにしては珍しい渋面だった。

 実に嫌そうな表情だ。


「……モーブさんに何かあるのですか?」


 聖女が女神に質問を投げかける。

 その問いに、女神は静かに頷き、答えを口にする。


「モーブの母親は、人間と神族のハーフです」

「っ⁉ それでは……⁉」

「そうです。モーブは神のクォーターです」


 女神の言葉に、皆の視線がモーブに集中する。

 モーブは、渋面のまま、その視線を受け止める。


「そんな……、そんな事が……⁉」


 賢者が声を震わせていた。

 どこか虚ろな瞳で、賢者がフラフラとモーブのもとへと歩み寄る。

 そして、モーブの目の前で立ち止まるなり、素早い動作でモーブの両手をしっかりと握った。


「モーブ! 俺は信じていたぞ! お前なら、新たな設定を盛ってきてくれると!」


 設定過積載男の新設定に興奮していた様である。

 神の血を引いている事に関する(おそ)れとかはないらしい。

 まあ、女神に駄女神化を打診するくらいだ。そんな常識があるはずもない。


「神の血を引く魔王軍四天王! 良い感じにブレードを抑えていそうな設定だ!」

「刃物は関係ないです。トレンドです」

「そう! それだ!」


 賢者は、いい加減、トレンドという言葉を覚えるべきである。

 興奮する賢者に若干引きながら女神が話を続ける。


「魔族、人間、神。三つの種族の血を引くモーブであれば、新たな未来が開けると私は考えています」

「三つの種族の混血だから、どこからも文句を言われると思うんですが……」


 女神の言葉に、モーブが否定的な言葉を発する。

 だが、実際、モーブの言う通り、どの種族の血も引いている分、どの種族からも文句を言われそうである。

 正直、前途多難な未来しか見えはしなかった。


「……そこは、実力行使で黙らせてください」

「女神様が暴力を(そそのか)さないでくださいよ……」


 モーブが呆れた様に言う。

 しかし、まあ、具体的なビジョンもなく、暴力で黙らせて、上手い事やってほしい等と言われたら、呆れもするだろう。

 典型的な駄目上司みたいな女神である。


「いいじゃないか! モーブ! 魔王を目指すんだ!」


 嬉々として、賢者が話に乗ってくる。

 此奴が絡むと面倒な事にしかならなさそうなので、この件に関わるのは止めてほしいところである。


「嫌ですよ……」

「女神様の話を良く思い返せ!」


 賢者の言葉に、モーブが首を傾げる。


「……無茶ぶりされただけだと思いますけど?」

「そうだ! 計画性もなく、思い付きみたいな話をしただけだ!」


 女神に対して、とんでもない言いぐさである。

 その言葉に衝撃を受けた様に女神が一歩後退る。


「女神様は、今、駄女神への一歩を確かに踏み出した!」


 踏み出させるな。

 頼むから、そう思うなら、しっかりと止めてやってくれ。


「駄女神に振り回される神の血を引いた魔王軍四天王最弱! しかし、隠されたその実力は魔王軍最強!」

「自分で言うのも何ですけど、設定、盛りすぎでは……?」

「駄女神の指令により、彼は魔王を目指す!」

「何度もお断りしたはずですが……」

「待ち受ける数々の困難!」

「必要ない困難が多そうなんですよね……」

「困難の末、彼は魔王の座につく!」

「心の底から魔王の立場に興味が持てないです」

「『四天王最弱だけど、駄女神の命令で魔王を目指す羽目になった件』! ……いける! いけるぞ!」

「……もう、どこへでも行ってください」

「そして、魔王就任後、世界の平和の為に動き出す! 俺達の本当の戦いはこれからだ!」

「打ち切られた。ウケないって分かってるじゃないですか……」


 賢者とモーブの訳の分からぬ遣り取り。

 それを勇者達は冷めた目で見ていた。


「……あれ、何時まで続くんだ?」

「さあ? しばらくすれば落ち着くと思いますけど……」


 勇者と聖女が、そんな風に話している横では、女神が頭を抱えて(うずくま)っていた。


「……私、そんなに駄目な感じでしたか?」


 (ささや)く様な声で、女神が勇者達に訊ねる。


「駄目と言いますか……」

「シンプルに使えない上司の指示って感じでしたね」


 勇者の飾らない言葉に女神が目に見えて落ち込む。

 そんな女神を見て、勇者と聖女が顔を見合わせた。


「そもそも、何故、モーブさんにあのような無茶ぶりを……?」


 聖女の言葉に、女神が蚊の鳴く様な声で答える。


「……モーブは、私の又甥です」


 女神の答えに、勇者と聖女が揃って驚きの表情を浮かべる。


「……一時期、神々の中で、地上に降りて遊ぶ事が流行ったのです」

「はぁ」

「私の弟も地上で遊び惚けていました」

「なるほど」

「その際に、私の弟は、人間との間に子供ができていました」

「それが……?」

「はい。モーブの母親です」


 そう言って女神がモーブを見る目はどこか優し気だった。


「私が、弟の子供が生まれていた事に気が付いたのは、モーブが生まれ、姪は亡くなった後でした」


 そう言って、女神が溜息を一つ吐く。


「モーブは、力をつけるまでの間に苦労を重ねています。せめて、魔王となって、報われてほしいと思っていたのですが……」

「余計なお世話では?」


 勇者の直球すぎる言葉に女神が沈む。

 その場だけ雨でも降りだしそうなほど沈み込んでいた。


「やはり……、そうでしょうか?」

「いや、魔王になりたいなら、モーブの場合、全員どつき倒して勝手になると思いますよ」

「魔族内で対抗できるとしたらカリンさんだけだと思います」

「……あの二人、意外と仲良さげだから、敵対するとは思えないんですよね」


 勇者達の言葉に、女神は諦めた様に溜息を吐く。

 そして、どこかぼんやりとモーブを見つめた。


「余計な……、お世話、ですかね?」

「放っておいても、好きに生きると思いますよ」

「女神様の手を借りる必要なんて無いくらい強い人だと思います」


 そんな会話の後、三人は揃って沈黙する。

 賢者とモーブの声だけが響く。


「分かった! 『四天王最弱って言われてるけど実は最強! 駄女神に言われて魔王を目指す!』で、いこう!」

「題名の問題じゃないです。後、題名が長すぎますよ」

「最近では、これくらいの題名の長さは普通だ! いけるぞ!」

「いや、いい加減諦めてくださいよ」


 相変わらず騒がしく会話する賢者とモーブ。

 何をするでもなく、そんな二人を眺める勇者達。

 そして、勇者達三人は無言のまま、揃って深々と溜息と吐いたのだった。



 なお、題名の件は、そもそも、勇者パーティーの魔王討伐の記録とは関係ないという事に気が付いて、とりあえず無かった事になっていた。


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