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第三話 のじゃロリ様は最早定番



「完成には程遠いが、これが邪神の加護を打ち破る為に私が研究した内容だ」


 幼さを残す容貌のエルフの少女が神妙な面持ちで勇者達に話す。

 この少女は、見た目こそ少女の様だが、エルフの始祖の血を強く受け継いだハイエルフであり、年齢は五百歳を超えていた。

 そして、先代勇者に協力し、先代魔王を討伐したパーティーの賢者でもあった。

 そんな伝説的な存在を前に、今代の勇者パーティーの面々も神妙な面持ちだ。

 勇者も聖女も声を発する事はなく、先代賢者の言葉に耳を傾けている。

 だが、そんな中、賢者が声を発する。


「先代賢者ストケシアに御願いしたい事があります」


 そう言って、賢者が前に進みでる。


「何なりと申してみよ」


 賢者の言葉にストケシアは鷹揚(おうよう)に頷いて見せる。

 見た目こそ幼さが残るが、その様は威厳に満ち溢れていた。


「では、遠慮なく……」


 賢者は何時になく真剣な表情だった。

 真っ直ぐな眼差しをストケシアに向け、ハッキリとした声音で言葉続ける。


「語尾に、『のじゃ』をつけてくれませんか?」

「…………は?」


 真剣な表情だった割に、突きつけた要求は実にくだらない内容だった。

 ストケシアも、思わずといった風に間の抜けた声を発している。


「五百歳という超高齢にも関わらず、見た目はロリっ娘! 語尾に『のじゃ』をつける為に存在していると言っても過言じゃない!」


 いや、過言だ。

 そんな事の為に存在する人物がいてたまるか。


「最近の作品では、登場する高齢ロリっ娘は語尾が大抵『のじゃ』! のじゃロリ様は最早(もはや)定番!」


 捲し立てる賢者に冷たい視線を送りつつ、勇者と聖女が無言のまま立ち上がる。

 そして、二人はアイコンタクトで配置につく。

 そんな中、ストケシアは何が起きているか理解が及んでいない様子で、目を白黒させていた。


「そう! のじゃロリ様こそ今のバウンド!」


 賢者がそう言い切った瞬間だった。

 賢者のすぐ(そば)まで来ていた勇者が叫ぶ。


「トレンドォォォォッ!」


 その怒声と共に放たれた勇者の蹴りが賢者を吹き飛ばす。

 そして、賢者の吹き飛んだ先には聖女が待ち構えていた。


「真剣な話をしてんのよ!」


 聖女の(かかと)落としが賢者を床に叩きつける。

 床に(したた)かに打ち付けられ、バウンドした賢者が、その勢いを利用して何事も無かったかのように平然と立ち上がる。


「なんて連携された御褒美だ……! 感じたぜ!」

「感じるな」

「気持ち悪い」


 冒頭の真剣な雰囲気は既になく、あっと言う間にいつもの光景である。


「お前、真面目な話をしてたの分かってただろ?」

「なんで真面目に聞けないの?」


 勇者と聖女が賢者に説教を始める。

 最早、保護者と悪餓鬼である。


「邪神の加護を打ち破る技術に関しての情報だぞ。重要な情報だって事ぐらい分かるだろ?」


 勇者のその言葉に我に返ったストケシアが、完全に引きながらも賢者に向かって話しかける。


「そ、そうだぞ。この技術は不完全だが、聖剣でなくとも魔王に傷を負わせる事ができる。きっと、助けになるはず……」

「……いや、既に完成してる技術の基本部分を今更ドヤ顔で語られても反応に困るんだ」

「のじゃぁっ⁉」


 賢者の言葉にストケシアが悲鳴にも似た声を上げる。

 そして、その悲鳴は、賢者待望の『のじゃ』だった。


「言わなくて良いんだよ!」

「聞くだけ聞いて、後で貴方のおかげ助かりましたくらい言っておけば良いのよ!」


 勇者と聖女が賢者を袋叩きにする。

 その横ではストケシアが床に崩れ落ちていた。


「完成……、しているのじゃ?」

「数週間前に完成したぞ」

「……どうやって完成させたのじゃ?」

「魔術偵察で情報を集めて、独自研究して、完成率七割位にはなったはずだ」

「……その後はどうしたのじゃ?」

「魔王軍の穏健派二人の内通があって、そいつらも独自研究してたから、情報共有したら完成した」


 ひどくあっさりした答えに、ストケシアは呆然としたような表情で虚空を見つめ始める。

 そして、どうやら、モーブとカリンが一枚噛んでいるようだった。


「……ちなみに、ワシの研究内容は完成率で言うとどれくらいなのじゃ?」

「……三割弱?」


 その言葉にストケシアは床に突っ伏した。


「ワシの百年は何だったのじゃ……」


 百年かけた研究だったらしい。落ち込みようが半端ではなかった。


「嘘でも五割くらいには言っておけよ!」

「少しは気を使いなさいよ!」


 勇者と聖女が言うが、その気遣いが今は追い打ち以外の何物でもない。

 ストケシアが部屋の隅で膝を抱えていじけ始めていた。


「いじけないでください!」

「大丈夫です! ディルは飛び切りの馬鹿ですけど、引くほど頭が良いんです!」

「そうなんです! 魔術に関しては特に天才的なんです! 馬鹿ですけど!」


 馬鹿を強調しすぎである。

 これだと、どうしようもない人物に敗北したみたいである。

 まあ、現実としてそうなのだが……。


「いいのじゃ、いいのじゃ。どうせワシなんて……」

「大丈夫です! 気を強く持ってください!」

「後、語尾を『のじゃ』にしなくて大丈夫ですよ!」

「役立たずのワシは、あやつの言う、のじゃロリ様になる位しかできる事がないのじゃ」

「そんな事ありませんよ!」

「先代魔王を討伐した実績があるじゃないですか!」

「床は偉いのじゃ。皆に踏まれて、それでも黙って皆を支えているのじゃ」

「ヤバい! 床を尊敬(そんけい)し始めた!」

「床は友達じゃないですよ! 建築物ですよ!」


 場が混沌としすぎである。


「フッ、ウケる」


 賢者が(ほが)らかに笑う。

 笑い事ではない。

 お前が原因なのだから、場を収める努力位はしろ。


「笑ってないで、フォロー位しろ!」


 勇者が怒鳴る。

 聖女は無言で賢者に殴りかかっていた。

 そんな時だった。

 一人のエルフの男性が部屋に転がり込んでくる。


「大変です! 魔王軍四天王を名乗る者達が乗り込んできました!」


 その言葉に、その場にいた全員の視線がエルフの男性に向かう。

 四天王がエルフの里に襲撃してきたのだ。流石にストケシアも慌てたように立ち上がる。


「数は⁉」

「四人です! 四天王全員だと思われます!」


 その報告に、ストケシアが血相を変える。

 だが、勇者達は落ち着いたものである。

 まあ、この間、主戦派の二人は相手にならない事が分かっているので当然の反応だろう。


「勇者千寿! 聖女リリー! 賢者ディルよ! 手を貸してくれ!」


 そう叫んで、ストケシアが杖を掴んで走り出す。

 そして、それを追う形で勇者達も走りだした。






「フハハハハ! 素晴らしいぞ! これが神の加護か!」


 エルフの里の広場でノーキンが叫んでいた。

 エルフ達の攻撃を受けながら、傷一つ負う事なく哄笑している。

 その横では、オーゴリも(こら)え切れないとばかりに笑みを浮かべていた。

 エルフ達の弓による攻撃も、多様な魔術による攻撃も、二人には何ら痛痒(つうよう)を与えられていなかった。


「勇者よ! 居るのは分かっているぞ! この間の借りを返させて貰う!」

「魔王陛下に神の加護を分け与えられた今、この間の様にはいきませんよ」


 二人が自信に満ち溢れた様子で叫ぶ。

 だが、勇者は聖剣を持っているのである。

 この間、相手にもならず、一蹴されたのだから、聖剣を持ち出されたら同じ結果になるとは思わないのだろうか?


「邪神の加護だと⁉」


 ストケシアが叫ぶ。

 その表情には驚愕が浮かんでいた。


「加護を部下に分け与えたというのか⁉」


 続けてストケシアが叫ぶが、勇者達は、割と興味なさげな表情をしていた。

 ちなみに、ノーキンとオーゴリの後ろでは、モーブとカリンも戦いに興味なさそうな風に談笑などしている。


「……賢者ディルよ!」


 ストケシアが賢者を呼ぶ。

 呼ばれるままに賢者が前に出る。


「あの技術は完成していると言ったな⁉」

「実験するにはうってつけの相手だな」


 ストケシアに答えるように賢者が言う。

 そして、そのまま、ノーキンとオーゴリの前に進み出る。


「賢者如きに何ができる!」

「雑魚は引っ込んでいた方が身の為ですよ」


 ノーキンとオーゴリが嘲る様に言葉を放つ。

 だが、そんな言葉を無視する様に賢者が話し始める。


「……俺は、邪神の加護について研究していた」


 賢者の言葉にオーゴリの表情が(わず)かに動く。


「邪神の加護を打ち破る為のアプローチは主に二つ。そして、お前達も二人。……意味が分かるか?」


 淡々と賢者が語る。

 ノーキンは、そんな賢者を鼻で笑い、オーゴリは僅かな警戒を見せていた。


「研究は完成している。お前達で試させてもらおう」

「笑わせる! やれるものならやってみろ!」


 ノーキンが嘲る様に叫ぶ。

 その瞬間だった。

 賢者が一気に踏み込む。

 魔術職とは思えない鋭い踏み込みだった。

 常人なら……、いや、四天王のはずのノーキンですら、目で追う事はおろか、まるで視認できていなかった。

 突然、目の前に現れた賢者に、初めてノーキンが驚愕の表情を浮かべる。

 だが、既に遅かった。

 賢者が叫ぶ。


「賢者パーンチ!」


 間の抜けた技名と共に放たれた賢者の拳がノーキンの顔面をとらえる。

 上から下に向かって叩きつける様な拳だった。

 直撃を受けたノーキンが、勢い良く地面に叩きつけられる。

 そして、数回、地面をバウンドして動かなくなる。

 顔面を歪に変形させ、白目を剥いての失神だった。


「なっ……⁉」


 オーゴリが信じられないものを見たかのような表情で声を上げる。

 そして、たじろぐ様に後退った。


「あれが……⁉ あれが、研究の完成形なのか……⁉」


 ストケシアが驚嘆の声を上げる。


「いや……、違いますね」

「ええ、違います」


 驚嘆するストケシアに、勇者と聖女が否定の言葉を口にする。


「それは、どういう……?」

「あれ、力尽くでダメージ通しただけですね」

「ええ、邪神の加護を上回るパワーで殴っただけです」


 疑問を口にしたストケシアに、勇者と聖女が淡々と答える。

 その答えに、ストケシアは、何を言われたのか理解できない様な表情だ。

 しかし、言葉の意味を徐々に飲み込めた様子で、表情が少しずつ変わっていく。

 徐々に表情が驚愕に染まる。

 そして、叫ぶ。


「のじゃぁっ⁉」


 本日、二度目の『のじゃぁっ⁉』である。

 咄嗟(とっさ)に、この言葉が出るあたり、のじゃロリ様の適性が実は高いのかもしれない。


「そんなの有りなのじゃ⁉」

「まあ……、加護と言っても、邪神の力の全てが宿ってる訳じゃないでしょうからね」

「研究はどうしたのじゃ⁉ なんで、殴って解決しようとしたのじゃ⁉」

「いや、普通に研究した結果とは別に、力尽くでも突破できる可能性があるとかは言ってたんですよ」

「そこに、都合よく邪神の加護を宿したのが二人現れたから両方試す気になったんだと思います」

「身も蓋もなさすぎなのじゃ!」


 そんな遣り取りの背後で爆発が起き、オーゴリが錐揉(きりも)みしながら吹き飛んでいた。


「あっ。普通に研究した方も成功したみたいですね」


 聖女の言葉と同時に地に落ちたオーゴリも白目を剥いて気絶していた。

 賢者は傷一つない。見事な完封勝利だった。


「見逃したのじゃぁっ!」


 ストケシアが悲痛な声を上げる。

 自身の研究の完成形なのだ。経緯はどうあれ、実際に目にしたいという気持ちがあったのだろう。


「口頭でなら、聞けば教えてくれると思いますよ」

「実際に目にして、その技術を見破ってみたかったのじゃ!」


 聖女の言葉に、ストケシアが叫ぶ。

 研究者としてのプライドというものなのだろう。

 ぶっちゃけ面倒臭かった。


「ちょっと良いですか?」


 嘆くストケシアに声がかけられる。

 視線を向ければ、モーブが傍まで近づいてきていた。

 それを見て、ストケシアが希望を見つけたかの様に顔を輝かせる。


「そうじゃ! 四天王は他にもいたのじゃ!」

「あっ。俺とカリンさんは、邪神の事嫌いなんで加護は受けてません」


 モーブの言葉にストケシアがガックリと膝をつく。

 ストケシアは知らないはずだが、こいつ等が邪神の加護を無効化する研究に一枚噛んでいた連中である。加護など受けているはずがない。


「それで、どうかしたのか?」


 落ち込むストケシアを他所に、勇者がモーブに声をかける。


「ディルさんが、色々な状況での実験がしたいと言っていまして、場所を借りても良いですか?」

「どうするんだ?」

「カリンさんが、あの二人を回復させて、ディルさんがぶちのめします」


 さらっと言っているが、仮にも同僚に対して慈悲とかないのであろうか。

 かなり非人道的な事を言っているのだが、一人、そう、ストケシアがモーブの言葉に目を輝かせる。


「許可するのじゃ! 存分にやると良いのじゃ!」


 この娘も大概である。

 自分の願望の為に、せっかく倒した四天王の回復に許可を与えるのはどうかと思う。


「……まあ、良いか」

「言っても聞かないでしょうしね」


 呆れた様に勇者と聖女が溜息を吐く。

 そして、賢者達による、無慈悲な実験が始まったのだった。






「メガフレイム!」


 賢者の放った青白い炎がノーキンとオーゴリを薙ぎ払う。


「もう一回! もう一回なのじゃ!」

「カリンさん。お願いします」

「仕方ないわね……」


 ストケシアのアンコールに応えて、カリンが気絶したノーキン達を治療する。

 治療が済むなり、モーブが二人を蹴り起こす。

 そして、目を覚ました二人を賢者の魔術が襲う。


「ウォーターボール!」


 賢者の放った水の球がノーキン達を容赦なく吹き飛ばした。


「もう少しなのじゃ! もう少しで、分かりそうなのじゃ!」

「カリンさーん」

「はいはい。分かったわよ」


 カリンが治療を開始する。そして、それが済むなりモーブが蹴り起こし、賢者が容赦なく吹き飛ばす。

 あまりにも慈悲のない永久機関が完成していた。


何時(いつ)、終わるんだ?」

「さあ?」


 勇者と聖女が、実験風景を呆れた様に眺めていた。

 既に、ノーキンとオーゴリは、二十回は半殺しにされていた。

 よく飽きないものである。

 エルフの里の者達は、完全にドン引きしていた。


「敵とは言え、流石に可哀そうになってきたぞ」


 勇者が呟く。

 だが、言っている事は今更な内容である。

 正直、大分序盤から可哀そうだったと思う。


「もう一回なのじゃ! もう一回、頼むのじゃ!」


 ストケシアの声が響く。

 そして、(しば)しの後、ノーキンとオーゴリが空高く吹き飛ばされる。


「晩飯……、どうすっかなぁ……」

「どうしましょうね……」


 空を舞う二人を眺めながら、勇者達が静かに会話する。

 太陽が大分傾く中、この騒ぎは終わりを見せない。

 騒ぎは終わる事なく、太陽は山々の陰に消えていく。

 そして、よく晴れた夜空に星々が輝く中、ストケシアのアンコールの声と、ノーキンとオーゴリの悲鳴がいつまでも響き渡ったのだった。



 ちなみに、ストケシアは、結局五割程しか見破れず、後は素直に賢者に質問していた。

 ノーキンとオーゴリは、無駄に痛い思いをしただけだった。


パソコンの不調のため、パソコンを買い替えたため、データの引っ越しなどの作業で更新遅れました。

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