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ある自警団団長からの聞き書き

作者: 八崎節子


 女だけで魔物を倒す集団がいるって事で、団長の私の今までを聞きに来たそうだけどさ。


 きっかけは本当にどこにでもある事、うちの地域は定期的に魔物の住む領域からあぶれた奴らが棲みかを広げようと襲撃してくるんだけど、男達による自警団がそれを迎え撃ちに行って、帰って来なかった。


 私の父さんもその一人だった。


 ただ、私もだけど、もしもに備えて、狩りを教わって、経験がある女が何人もいた。近くの集落にも声をかけて、とにかく街から騎士団がくるまで、持ちこたえられないかと知恵を出し合った。


 考えた。父さん達が無事で済まなかったのなら、襲った奴らは手負いになったに違いない。私達以上に、今の内に戦わないとまずくなっているのは向こうだ。だからこそ私達だけで追い払う機会は一度しかない。


 集落は皆、目をつむっても何処に何があるか知っていた。考えられるだけの罠を仕掛けて、何でも武器に変えて行った。元々、残っていた武器は男の手に合った物だったのに気付いて、女でも持てるように急いで加工した。


 襲撃の日は覚えている。


 細かい事は世間に知られてるそうだから、語る必要はないだろうね。それぞれが出来る事をした結果、奴らは逃げていった。私達も無事では済まなかったけど、何というか、騎士団が来た三日後まで、そんな状態でどう戦うかしか誰もが考えられなかった。




 到着した騎士団が逆に逃げた魔物達を追ったから、魔物がしばらく襲撃されないようにはなったと知らされたけど、集落は捨てるしかなかった。皆はバラバラになった。騎士団に保護されて遠くの街に移り住む事にした者もいるし、他の集落に加わる事になった者もいる。


 私はどれでもなかった。元の集落に残って、といっても自分の家だけ残す形で、自警団を立ち上げたんだ。一人でね。


 最初は、隣の集落の自警団に入らせて貰えないか頼んだんだ。でも、女だから、もうあんな思いはしない方がいい、と断られた。


 それを恨んではいない。私が、なら自分が出来る事をしなくちゃ、と突っ走って、家で一人、自警団の記録を読みあさって、何とか出来る事を作り、増やしただけだ。


 私一人じゃ最初は魔物は倒せなかった。だから斥候の真似事みたいに見回りをしたり、罠を張るので精一杯だった。


 諦めるよう説得していた周囲も、私の情報が役に立って来ると、何も言わないようになっていった。




 すると、何年もかけて、似た境遇の女がやって来て、仲間に入れてくれ、と頼んできた。


 私のしている事がただの自警の真似事で、危険なのは分かっていた。だから、一年、こちらの言った事を、街でやり通せたらまた来て欲しい、と伝えた。ほとんどがそれで二度と来なくなった。


 ああ、ほとんど。最初にきっかり一年後にまた訪ねて来て、初めて仲間になってくれたのが、今の副団長だ。


 そこから、嘘のように、一年の約束を守ってきた女が仲間に次々入ってくれた。




 色んな事情の女がいる。私は定期的に魔物への警戒に来た騎士団から、この辺りの事だけじゃない、国のいざこざを知って、女がここへくる理由が多くなっていた事を知った。


 平和は失われた。そう、街の新聞にはあったそうだね。私には魔物の襲撃があるか、ないかの日々で、平和が何なのかはきっと分からない。でも、私が魔物の事で精一杯の間に、世はそうなってしまった。

 

 私達のようになるな、危ないだけの人生になるから、という声があるのも知ってる。もしかしたら私達の役割も終わる時がいつか来るのかもしれない。


 でも、今はまだ、ここで、人としてあぶれた人間として、魔物としてあぶれた者達を見張り続けたい。その気持ちはずっと貫いていきたい。


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