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最終章 その後のお話

 日本に帰って、ジャンを家に連れていった。

 写真を見せる前にいきなり会わせたら驚くかと思ったけど、そうでもなかった。

 お母さんはジャンの腕にからみついて喜んでいる。

「私もイケメンとこんなことしてみたかったのよ。イヤーン、素敵」

 ぽかんと口を開けたお父さんがようやく一言。

「本当にイケメンだな」

 感心してる場合じゃないでしょ。

「オ、俺の息子がこんなにイケメンで良いはずがない」

「オトサン、イッショニ、メイドキッサ、イキタイデース」

「ソーデスカ、キャバクラモ、ドーデスカ」

「イーデスネ、オトモシマース」

 なんで二人ともカタコトなのよ!

 お母さんが私の隣で笑ってる。

 笑い事じゃないでしょ。

 みんな浮かれちゃって。

 そんなにおめでたいのかな。

「あなたも素敵な人と巡り会えて良かったじゃない」と、お母さんがしみじみとつぶやく。「あなた、人との間に壁ばかり作るような子だったから、やっぱり胸の皮膚のこと気にしてるんだろうなってずっと思ってたのよ。本当に良かった。ほっとしたわ」

 なんか急に涙がこぼれてきた。

 やっぱりずっと心配かけてきてたんだな。

 今までごめんね、お母さん。

 私、手術を受けてみよう。

「ジャン、ごめんね。意地張ってばかりいて」

「イーンダヨ。キニシナーイ」

「そのしゃべり方、やめなさい」

「わかったよ」と、口をとがらせながら小刻みに首を振る。

「また出てる、その癖。キツツキじゃないんだから」

「アー、ウイウイ」

 まったくもう。

 いつの間にかお父さんがトイレにこもっていた。

「お父さんもね」と、お母さんが耳打ち。「あなたに彼氏ができるようにって毎年初詣でお願いしてたのよ。あいつが惚れる男なら俺は誰でも受け入れるって、ずっと言ってたの。だから、あなたから急にメールが来ても『よかったな』って喜んでたんだから。そっとしておいてあげて」

 そっか。

 みんな、いろんなこと考えてくれてたんだな。

 口に出して言わないけど、みんな心配してくれて、みんな喜んでくれて。

 お父さん、ありがとう。

 私、幸せだよ。

 だけどね。

 キャバクラは禁止。

 残念でした。


   ◇


 東京でイタリアの大富豪、ミケーレ・ドナリエロさんとの交渉がまとまって、ジャンはラファイエット・グループの経営再建を引き続き任された。

 共同出資者のミレイユもたまに口を出しに来る。

「はあい、みなさん、お元気? 大口株主様をオモテナシしなさいな」

 改装が終わったシャトーホテル、オテル・ドゥ・シャトー・ドゥボーセは想定していた以上に予約が埋まって、黒字化へ向けて順調に営業を始めていた。

 特に薔薇の花を敷きつめたスイートルームがSNSで取り上げられて世界中で話題になっている。

「何これ、造花じゃないの」と、ミレイユが一輪拾い上げてベッドの上に転がす。「百均?」

 ジャンが肩をすくめる。

「ちゃんとした職人の作品だよ。毎回生花を使ってたらもったいないし、掃除も大変だろ」

「ま、写真に撮るだけなら映えるもんね」

 ミレイユがベッドに横たわる。

「あたしの写真使う? 事務所通してね」

「経費削減でお断りだ」

「同じでしょ。どっちにしてもあたしの財布に入るんだから」

 口うるさい株主様のおかげでジャンも大変そう。

 でも、今度うちの両親をこのシャトーホテルに招待してくれることになっている。

 ファーストクラスの航空チケットはもう送ってある。

 宝くじと一緒に神棚に飾った写真が送られてきた。

 いい親孝行ができそう。

 ありがとう、ジャン。

 これからもよろしくね。


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