先輩のために、ゲームを作りたい
土曜の夜。
先週の約束どおり、瞳は絢音の部屋を訪れていた。
「もうすぐ配信始まるよ」
今日使うのはパソコンではなく、液晶モニターに映しての視聴。
二人は並んで小さなちゃぶ台の前に座り、机の上にはお菓子と飲み物が並んでいる。
「先輩のV、どんな感じなんだろうね。楽しみだなぁ、ムム」
絢音がそばを通りかかった愛猫を撫でると、ムムは「にゃー」と返事をするように鳴いた。
「そろそろ時間だな」
瞳が画面の時刻を確認する。
「ほんとだ」
絢音は正座をして、真剣な表情で画面を見つめていた。
「ゲームやるとき以外でも正座するんだな」
瞳が少し驚いて言う。
絢音には癖があった。強い敵や難しい場面に挑むときは、必ず正座で構えるのだ。
「だって今日はママの初配信だから」
そう話していると、ついに配信が始まった。
『みなさんこんばんは~、鈴宮あさみです』
:こんばんはー!
:かわいい!
オープニングから引っ張ることもなく、画面の中央に現れたのは、ライトブルーのパーカーを着た銀髪の少女。
耳の下で切り揃えられた髪と鮮やかな赤い瞳が、一瞬で視聴者の心を掴んだ。
「かわいいっ!」
絢音が目を輝かせて叫ぶ。
自らを鈴宮あさみと名乗った少女は、左手にスケッチブック、右手にペンを持っていた。
「ご覧のとおり、絵描きです。今回はVTuberとして初めての配信になります、よろしくお願いします」
「私を知ってる方とそうじゃない方もいますし、簡単に自己紹介するね。わたしはイラストレーターのあさみ、これまでいくつかの作品に関わっていて、イラストやキャラデザインを担当しました。そして、これが私の自慢の娘――鈴宮琉璃」
あさみは自分の立ち絵を画面の左側へ移し、右側にはこれまでの活動履歴が映し出される。その中には「狐の巫女と天気雨」と「鈴宮琉璃」の名前もあった。
「ママー!」
絢音は感動のあまり目に涙を浮かべ、即座にスーパーチャットを投げる。
隣のムムは声にびっくりして飛び跳ね、部屋の隅へ走り去った。
「赤スパありがとう。えっと……なになに、ママ大好き、いつもありがとね?」
:おお! 琉璃ちゃんだ!
:娘も見てるのかw
「瑠璃ちゃん、ちょっと何やってるのよ……でも、ありがと」
あさみは苦笑しつつも、予定どおりに話を続けた。
「えっと、どこまで話したっけ?そうそう、私はVTuberとしては、これまでの絵描き配信に加えて、ゲーム配信もちょっとやってみようかなと思います。まだ未定ですが、状況次第で変わります」
:ゲーム配信もやるのか!
:楽しみだ
(絢音がスパチャまで投げてるなら、俺も何かした方がいいかな……
その紹介を聞きながら、瞳はふと考える。
(まあ……俺にできることは、やっぱりゲームしかないよな)
「なあ、絢音」
「ん?」
絢音は画面を見つめたまま、軽く返事をする。
「先輩にプレゼントとして、VTuberのゲームを作るってどう思う?」
「ゲーム? どんな?」
興味津々に顔を向けてくる絢音。瞳は少し考えて答える。
「うーん……ホラーゲームとか、どうかな」
「晴香さんがホラー苦手かどうかは知らないけど……VTuberのホラーゲームって、どんな感じになるんだろ?」
「まだ全然決まってないよ。ピンと来ただけで、主人公をVにするかどうかすら、考えてないし」
「ふふっ、じゃあ楽しみにしてるね。瞳の新作」
「でも、ホラーっていいのか?まだ迷う」
「大丈夫、ほとんどのVTuberはホラーゲームをやったことあるし、きっとピッタリだと思うよ」
「そう言ってくれるなら安心した」
配信を見終え、絢音と別れた後、瞳はすぐに自分の部屋に戻り、パソコンの前に座った。
「今のところ決まってるのは、VTuberが登場して、その周りで何か不思議な出来事が起こるってことだな」
瞳はモニターを開き、文字を打ち込む。
主人公:VTuber(未定)
テーマ:心霊現象、不気味な日常
「導入は……主人公が新しい場所に引っ越してくるところから始めよう。そして周囲の雰囲気に違和感を覚え、奇妙な人や出来事に遭遇していく……」
プレイ時間
約1時間を想定
構成案
謎解き:1〜2箇所
驚かせイベント:3〜4箇所
隠し要素:5箇所
「……うん、これなら形になりそうだ」
瞳はキーボードを叩く手が止まらない。
「最後までテンポよく、盛り上がりを切らさず……よし、イメージが湧いてきた!」
瞳の夜が、まだ終わってなかった。
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