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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
七作目『配信事故』
98/102

オレよオレ、なんか久しぶりな感じだぜ

昼休みの教室。

「よう!久しぶり」

茶色の髪を短く刈り上げた佐藤信が、右手を挙げて声をかけてきた。

一年の鍛錬で、体つきはさらに引き締まり、まるで別人のようだ。


「毎朝顔合わせてるだろ」

瞳が呆れたように返す。

「はは、そうなんだけどさ。部活が忙しすぎて、こうしてゆっくり話すのは久しぶりに感じるんだよ」

「まあ、部長だから仕方ないな」

「お前も部長だろ? なんでそんなに余裕そうなんだ」

「いや、こっちは新入生集めるだけで死ぬほど大変なんだから」

「……どこも苦労してるんだな」

「で? 今年はもう彼女作らないのか?」

瞳がニヤリと笑って茶化す。


信は二年のときに部長を引き継いでから、以前の軽さが少しずつ消え、真面目なスポーツ青年そのものになっていた。

(昔は「彼女欲しい」しか言ってなかったのにな……人って変わるもんだな)

瞳は内心で少し感慨を覚える。


「今はそれどころじゃない。今年の目標は甲子園優勝だ」

信は手を振って一蹴した。


「それって、去年あんなに彼女欲しいって言ってたのに、ずいぶん変わったな」

「しょうがない。今年は学校にとって最大のチャンスなんだ。絶対勝つ」

「そっか。じゃあ頑張れよ」

「任せろ!」


ちょうどそのとき、眼鏡をかけたショートカットの少女が近づいてきた。

「ごめん、ちょっといい? 佐藤」

「おう、周防? どうした?」

「監督が呼んでる。できるだけ早く来てほしいって」

「監督が? わかった」

「伝言はそれだけ。じゃあ」

周防は眼鏡を押し上げ、言い終えるとき、ほんの一瞬だけ信の顔を見てから踵を返した。

「ありがとな!」

信は片手を挙げて礼を言う。


「なんで委員長が伝言役なんだ?」

瞳が不思議そうに呟く。

「知らなかったのか? 周防は野球部のマネージャーだぞ」

「えっ? 文芸部じゃなかった?」

「それはいつの話よ。去年の文化祭が終わってから変わったぞ」

「へえ、そうなんだ」

「じゃ、俺行ってくる。何の用か知らないけど」

信は軽く手を振り、教室を出ていった。


その背中を見送ると同時に、すぐ近くからひそひそ声。

「ねえ、あの二人って、絶対なんかあるよ」

絢音が戻ってきて、瞳の耳元で囁く。


「同じ部活なだけじゃないのか?」

「わかってないなあ」

絢音は自信満々の顔で首を振る。妙に得意げで、まるで真実を知っているかのようだ。

(……絢音がここまで言うってことは、本当に何かあるのかもな)

瞳は半信半疑ながらも、心の中で少し揺らぐ。


「信じなって。乙女の勘は侮れないんだよ。それに――恋愛マスター直伝だし」

絢音は胸をぽんと叩いた。

「そのマスターって……結衣だろ」

「え、なんでわかったの?」

「そんな自称するの、結衣しかいないじゃん」

「まあ確かに。でも去年の文化祭で見たでしょ? 二人が野球部で一緒にいるとき」



二人はそんなふうに無駄話を続け、気づけば昼休みが終わりかけていた。

そのとき、信が汗をにじませながら慌ただしく教室に戻ってくる。


「やっぱ野球部の部長は大変だな」

瞳は小さくため息をついた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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