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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
八作目『記憶墜落(メモリーフォール)』

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【絢音】この記憶は、誰のものだ?

「俺は……誰だ……?」


中年の男がベッドの上に座り、自分の両手を茫然と見つめていた。


「……何かが足りない……?」


男は拳を握りしめ、まるで何か大切なものを失ったような感覚に襲われる。しかし、それが何なのか思い出せない。


:記憶喪失?

:今回はどんな展開だ?


「おかしいな……ノートがない……?」


ゲーム内のキャラクターはまだ気づいていないが、画面の外の絢音はすぐに理解した。

――一番大事なアイテムがないのだ。


少し焦りを覚えるが、それ以上に自分の身体の不調の方が気になった。


(身体が重い……でも、大丈夫。まだ続けられる……)


男は立ち上がり、周囲を見回した。

男はゆっくりと立ち上がり、薄暗い部屋を見回した。

殺風景な空間。家具はわずかで、棚には銃を隠すように収めた分厚い本を見つかった。

机の上には、乱雑に広がる資料の束が山のように積まれている。


:銃があるぞ

:この男、ただ者じゃないな


「博士……?」

洗面所の鏡の前に立った男の口から、その言葉が漏れた。

鏡に映る人物は白衣を着ており、引き結ばれた唇と陰鬱な表情が、やせた頬をより一層不気味に見せていた。


:前の記憶にいた博士?でも顔が違うような……

:表情怖すぎ

:よく見ると、前回の兵士に似てない?



「確かに似てる……でも、これからどうすれば……?」


絢音のつぶやきは、そのまま画面内の男の言葉のようだった。



部屋をくまなく調べ直すと、机の資料の中から一つの住所が見つかった。


「他にやることもなさそうだし……行ってみるか」


部屋を確認し終えると、絢音は操作キャラを動かして外へ出た。



街には多くの人が行き交っていたが、誰一人として彼に反応する者はいなかった。

目的地に辿り着くと、それは古びた研究所だった。


携帯していた認証カードで扉を開けると、中は静まり返っている。


:ちょっと怖い……

:完全に悪役の研究所感ある

:なんで誰もいないの?


白く冷たい蛍光灯が、無人の空間を淡く照らしている。



長い廊下の先にあった部屋の中央には、銀色の巨大な装置がそびえ立っていた。

配管の隙間から青白い光が漏れ、まるで心臓の鼓動のように脈打っている。


「えっ……?」

絢音は思わず目を見開いた。まさか、この記憶の中でこの機械を見るとは思ってもみなかった。


:この装置、見覚えあるぞ

:記憶ダイブのマシンじゃない?

:展開、熱くなってきた!


隣の机には灰色のノートと金属製のペンが置かれている。

男はノートを開いた。中には数式がびっしりと書き込まれていた。


「違う……こんなはずじゃない……!」

男の表情が苦痛に歪み、ノートを閉じる。


「この中身は……?」

「これは……一体……?」


絢音も状況をつかめず、困惑していた。


男がもう一度ノートを開くと、文字がぐにゃりと歪み、ページは真っ白に。

そこに黒い文字が浮かび上がった。


1.装置を起動せよ


「おおっ、やっと元に戻った!」

絢音は嬉しそうに声を上げた。



「……っ!」


次の瞬間、世界が激しいノイズに包まれた。

耳鳴りのような音が響き、映像が歪む。


「な、何が起こったの!?」

絢音は焦りを隠せない。


男は震える手でノートに書き殴る。


俺はXXX。絶対に、自分が誰かを忘れてはならない!


名前の部分だけは、乱れた筆跡で判別できなかった。

世界は崩れかけた映像のように点滅し、男は拳を握りしめ、力任せにスイッチを叩きつけた。


そして――世界がぐにゃりと歪み、回転を始める。






気づくと、男は街の中に立っていた。

スーツ姿で、ぼんやりと前を見つめている。

白く無機質な都市。行き交う人々。


「街……? でも、なんで誰の顔も見えないの?」


絢音ははっと気づく。通行人たちには“顔”がなかった。


:経費削減のモブ?

:記憶の持ち主が他人に興味ないから?

:ホラー展開!?


「うーん……どれなんだろう?」

絢音にも確信はなかった。


男は信じられないというように周囲を見回している。


「ここは……第三都市? そんなはずは……ここは俺の故郷のはずだろ……?」


「どういうこと? ここって一体どこなの?」


絢音の混乱は深まり、体調も悪化していく。頭がぼんやりしていた。


「違う……ここは博士の記憶じゃない……これは……俺の記憶……?」


男は何かを思い出したように、手の中のノートを開く。


2.家に帰る


「……帰る、か」


その言葉を反芻するように口にし、男は足を動かした。

辿り着いたのは、古びたアパート。


たどり着錆びついた手すり、剥がれ落ちた壁の塗装。だが、どこか懐かしい匂いがした。


「……本当に、俺の家だ……」


男は自然な動作でポケットから鍵を取り出し、扉を開ける。


:鍵まで持ってるのか?

:ますます分からん展開だ……


中は意外にも整っており、まるでつい最近掃除されたばかりのようだった。


「やっぱり……間違いない」


ローテーブルの上に置かれた一冊の報告書。

男はそれを手に取り、目を走らせる。


統計によると、現在人類の生活の九割以上がAIに依存している。

そして全AIを統括する終端システムは、まもなく自壊する予定である。

原因は単純だ。創造者はAIが人間を完全に支配するのを防ぐため、

自身の死後、すべてのAIが崩壊するよう設計した。

今回の任務の目的は、その創造者の記憶に潜入し、

終端の最高権限を取得、設定を書き換えることにある。


:これ現実でもありそうで怖い

:リアルすぎる設定だな……


「なるほど……でも、潜入したのは博士の記憶のはずだよね?

今見てるのは、まるで主人公自身の記憶みたい……?」


絢音が疑問を漏らす。


:混乱してきた……

:今、誰の記憶の中にいるんだ……?

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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