間奏
結局、二人は絢音の家には行かず、近くの公園でひと休みすることになった。
砂場では小学生たちが元気に遊んでいて、絢音はブランコに空きを見つけると、ぱっと顔を輝かせて駆け寄った。
「やった、ブランコ空いてる!」
瞳もつられて微笑み、隣の席に腰を下ろす。
制服姿の二人が並んでブランコに座り、ポニーテールの少女は軽く前後に揺れて、少年はその様子を優しい目で見つめていた。
「ブランコなんて、ほんと久しぶり」
「だな。でもあんまり漕ぎすぎるなよ。スカートなんだから」
瞳が注意を促す。
「大丈夫だって」
絢音は気にも留めず、何度か揺れたあと、ふいに口を開いた。
「ねえ、ニナちゃん……いや、西村ちゃんか。あの子と仲いい?」
絢音の乙女センサーは、弥紗を見た瞬間に反応していた。
前に録音で会ったときも、二人の間にただならぬ雰囲気を感じた。あのときはむしろ敵意に近かったが……今は違う。
弥紗の瞳に宿る光は、まるで自分が瞳を見るときと同じ色をしていた。
「もし、前みたいに俺をクズ扱いしてた頃と比べるなら……まあ、だいぶマシになったな」
苦笑まじりにそう答える瞳。
「そっか、そんなこともあったね」
「笑うなよ、弥紗は結衣の親友だからな。誤解が解けた今じゃ、兄貴みたいな存在ってとこだろ」
瞳の横顔をじっと見つめながら、絢音は彼が本当に気づいていないことを確認し、こっそり胸を撫で下ろした。
「……そうなんだ」
「最近、なんか面白そうな映画ある?」
瞳は空を見上げて、そう聞いた。
「外国のホラー映画がそろそろ公開されるらしいよ。結構怖いやつ」
絢音は目を輝かせる。
「ホラーか。ああ、あれか。俺もちょっと気になってた」
「ほんと!? 一緒に行こうよ!」
「いいよ。公開日調べて、また時間を決めよう」
「やった!」
嬉しそうにブランコを大きく揺らす絢音。
「おいおい、危ないぞ」
「へーきへーき!」
勢いよく漕いだあと、そのまま前に飛び出した絢音は、軽やかに着地。
「百点満点の着地……ッ!」
ふわりと舞い上がったスカートを慌てて押さえ、真っ赤になって振り返る。
瞳は慌てて視線を逸らしたが、心臓の鼓動は隠せなかった。
「……見た?」
「えっ……」
瞳は一瞬ためらい、しどろもどろに答えた。
「み、見てないよ……」
「嘘」
ぷいっと前を向いて歩き出す絢音。
「いや、あれは俺のせいじゃ――」
慌てて追いかける瞳。
「じゃあ、やっぱり見たんだ」
「……ごめん」
「スケベ」
絢音は舌を出し、悪戯っぽく笑ってみせる。
「だから言っただろ? 気をつけろって」
「関係ないもん! 責任取ってよ」
「はいはい、どうすればいいんだ?」
「んー……映画に行くときのポップコーン、奢りね」
「承知しました、お嬢様。よろこんで奢らせていただきます」
二人の笑い声が、夕暮れの公園にいつまでも響いていた。
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