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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
七作目『配信事故』

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93/116

【晴香】長谷川くん……恨むからね

新しい一日が始まり、小野晴は自分のベッドの上で目を覚ました。

ぼんやりと頭を振り、枕元の薬を飲む。


小野晴「朝……? 昨日の、あれは……夢だったのかな」


「いやいや、どう考えても夢じゃないでしょ!早く警察呼んで!」

晴香は焦ったように叫ぶ。



小野晴「とりあえず、ゴミを捨てに行こう」

盆栽の後ろの穴をもう一度確認したい晴香だったが――

「おかしいな……盆栽を【とかす】の選択肢、消えてる?」

仕方なく、主人公を操作してゴミ袋を持たせ、外へ出てゴミ捨て場へ向かわせた。


:まさか幻覚だったのか?

:夢オチ?

:作者、意地悪すぎる!確認できないのが一番気になる!


小野晴「ん?」

主人公が視線を感じて顔を上げると、無表情の青年がじっとこちらを見つめていた。


「えっ、この人……前のコンビニ店員じゃない?」

晴香はあの不気味な店員を思い出す。

幸い、青年はただ立ち尽くしてこっちを見ているだけで、何もしてこなかった。


晴は家に戻ると、夜の配信の準備を始めた。

ベッドの上でゴロゴロ転がったり、急に気合を入れて配信用のサムネイルを作ったりしている。


「か、かわいすぎる……!」

絢音は口元を押さえて呟いた。


「かわいい!」

晴香も激しくうなずく。


そうして夜になった。


小野晴「みんなこんばんは。今日配信するのは『灰燼から燃え上がる天使の歌』です」


「またコラボ!? ほんとにどこにでも宣伝入れてくるなぁ」

晴香は感心半分、呆れ半分といった様子で笑った。

しかも驚いたことに、ちゃんと遊べるようになっていた。


男女の主人公が出会う最初の夜、

スーパーでミューがムウにギターの弾き方を教えるシーンから始まる。


「じゃあ、音楽の授業を始めましょうか!ムウ、今日はどの曲を習いたい?」


「懐かしい……」

晴香は当時、B判定しか取れず、悔しくて何度も練習した日々を思い出した。


「ん?知らない曲……?」

そして予想外なことに、流れてきたのはゲームにあった曲ではなく、新しい曲だった。


「これ、天歌ちゃんの新曲だ!」

絢音が興奮して叫ぶ。


「へー、歌姫の新曲か」


「すごい……贅沢なコラボだね」

晴香は感心しながら挑戦を始めた。

初めての曲だったが、長時間の練習のおかけで、少し不安定ながらもS判定を獲得した。


「さすがママ、音ゲー得意なんだね!」


「まぁね」

晴香は得意げに胸を張り、内心では過去の自分に感謝していた。


一方、ゲーム内の小野晴も視聴者と雑談をしていた。


小野晴「こういう甘いストーリーを見ると、誰かと一緒にいたくなっちゃうね」

【はいはい!俺が立候補!】

【うるさい、ここは私でしょ】


小野晴「ふふ、冗談だよ。彼氏なんて、まだまだ縁がないし」


その瞬間、またしても血のように赤いコメントが流れた。


【わかった。今から行くね】


「な、なに!? 誰!? 誰が来るって!?」

コメントを見た晴香は、慌てて声を上げた。


「ストーカー?それとも、近所で噂になってる変態?とにかく、武器になりそうなものない?」

絢音は冷静に状況を分析した。


:さすが武闘派の瑠璃ちゃん

:そうだ、武器さえあれば勝てる


「そうね、武器、武器……ない!?」

晴香は絢音の言葉を受けて、部屋の中を慌ててクリックし始めた。

だが残念ながら、部屋には武器になりそうなものは何一つなかった。



ドンドンドン!

突然ドアを叩く音が響き、小野晴の頭上にびっくりマークが浮かぶ。

彼女はおそるおそるドアの覗き穴を覗いた。


――あの店員だった。


予想通りといえば予想通り。今登場している人物の中で、一番怪しいのはその青年だ。


その青年は目を血走らせ、狂気じみた笑みを浮かべ、拳でドアを叩き続けていた。


【ドアを開ける】【危険です!今すぐ警察を呼んで!】


「誰がドア開けるのよ!警察!すぐ警察!」

晴香は突っ込む。


小野晴は慌ててスマホを取り出し、電話をかけた。


小野晴「もしもし、警察ですか?ドアの前に変な人がいるんです。住所は……」


外の青年は、どうやら小野晴の声を聞いたらしく、ドアを叩くのをやめた。


「……諦めたの?」

晴香が恐る恐る聞く。


「いいえ、窓を見て」

絢音の言葉に導かれ、晴香はカーテンに覆われた窓へ視線を向けた。

カーテン越しに人影が映り、次の瞬間――ガラスの割れる音。

血に染まった右手で、青年が部屋の中へと侵入してきた。



【Shiftキーで走る】


「なんで今さら操作説明なのよ!」


「ハハハ……見つけたぞォ!」

青年の叫びは、まるでスタートの号砲のようだった。

晴香は涙目になりながらShiftを連打し、逃げたそうとした。

青年もすぐに追ってくる。


操作に慣れていない晴香は小さなテーブルに引っかかり、そのまま青年に捕まった。


「ずっと一緒にいようね」

青年の不気味な笑顔の中で、ゲームオーバーを迎えた。


「もう一回!」

晴香は悔しそうに【リトライ】ボタンを押す。

ゲームは青年が部屋の中に立っている場面から再開された。

「ここからか」


再び叫び声とともに逃走。今度はテーブルを避け、ドアを開けて階段を駆け下りる。だが――


「次はどっちに行けばいいの!?」

一瞬の迷いの隙を突かれ、青年に追いつかれてしまう。


何度も挑戦を重ね、ようやく無事に外へ逃げ出し、巡回中の警察官のもとへたどり着く。


「おい、何をしている!止まれ!」

警察官が叫び、青年を取り押さえる。

こうして物語は幕を閉じた。


「はぁ、はぁ……やっと終わった……」

晴香は息を切らしながら、エンドロールを見つめてつぶやく。


:クリアおめでとう!

:やっぱり一番怖いのは人間だよな


「本当だね……ん?」

エンドロールが終わると、再びゲーム画面が現れた。


「まだ続きが?後語り?」


小野晴が自分の部屋に戻る。

床には割れたガラスの破片、そしてつけっぱなしのモニター。


小野晴「……あ、配信切るの忘れてた」

画面が切り替わり、少女がカメラに顔を寄せて手を振る。


小野晴「びっくりさせちゃったね。今日はここまでにするよ。結果が出たら、また配信で報告するね。おやすみ〜」


:つよい、さすが配信者

:配信切り忘れw だからタイトルが『配信事故』なのかw

:ちょっと強引だけど、タイトル回収はしたな


「うん、じゃあ今日はここまで。瞳の景先生の新作ゲーム、本当にありがとうございました。おやすみ〜」


:おやすみ〜

:面白かった!おやすみ〜

:配信ちゃんと切ってね


「わかってるって」


ゲームを閉じ、晴香はため息をついた。


「大丈夫、晴香先輩?」

絢音が心配そうに声をかける。


「大丈夫よ、ちょっと疲れただけ」


晴香は笑顔で答える。

今日は絢音とお泊まりの約束をしていた。

二人はしばらく他愛もない話をして、風呂に入って、ようやく眠りについた。


「……眠れない」

ベッドに横たわった晴香は、ぱちりと目を開けた。

隣でぐっすり眠る絢音を見つめ、天井を仰ぐ。


「……長谷川くん、あなたを……恨むからね」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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