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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
旧バージョン
9/91

清水絢音の進撃

時計の針が、朝の九時半を指していた。


「よし、準備完了」

瞳は最後に鏡の前で服と髪型を整え、約束の場所へと向かった。

絢音の指定で、今日はあえて最寄りの駅前で待ち合わせをすることになっていた。

絢音が「ちょっとした儀式感がほしい」って言ってたからだ。


駅までは徒歩で約十分。正直、絢音の家とあまり変わらない距離だ。


「とにかく、駅前の……って、うそでしょ?」

瞳は遅れないようにと、三十分も早めに家を出たのに、すでに駅前には見覚えのある姿が立っていた。

二人の金髪の若い男たちが彼女の周りにいて、身振り手振りを交えながら何か話している。


「ラノベでもなかなか見ないような展開を、まさか現実で見ることになるなんて……」

瞳はそう呟きながら足早に近づき、片手で絢音の肩をそっと抱いた。


「すみません、俺の彼女に何かご用でしょうか?」


絢音の身体が一瞬こわばったが、瞳だと気づいてすぐに安心したように力を抜いた。

「もう、遅いよ」

絢音は瞳の手を軽く叩きながら、甘えるように言った。


「ちっ、なんだよ、彼氏いたのか。行こうぜ」

二人の金髪男はそれ以上絡むことなく、文句を言いながらその場を離れていった。


「大丈夫だった?」

男たちの姿が完全に見えなくなるのを確認してから、瞳は絢音の顔を見下ろした。

彼女は顔を赤らめ、声をかけられてやっと我に返ったようだった。


「うん、大丈夫」

「それならよかった」

瞳が手を離すと、絢音が小さく「あっ」と声を漏らした。


「どうしたの?」

「ううん、なんでもない」


少し距離を取ったことで、瞳はようやく絢音の全身を見渡せた。

白いフリル付きのブラウスに淡い緑色のミニスカート、黒いショルダーバッグを下げていて、清楚で爽やかな印象だった。


「うん、とても似合ってるよ」

以前結衣に教わったことを思い出して、瞳は頑張って褒めた。


「……ありがとう。瞳も似合ってるよ」


表情が崩れそうになるのを堪えながら、瞳は前回からあまり成長していない自分を少しだけ嘲った。


「せっかくだし、先に映画館に行こうか」

「うん、あ、ちょっと待って」

絢音が瞳を呼び止め、瞳は振り返った。


「手、つなごうよ」


「えっ?」


「さっきの二人にまた会ったら、面倒でしょ?この方が安心だから」


「そ、そうだね……じゃあ……」

少し無理のある理由だったが、瞳は慎重に手を差し出した。

絢音の手は少し冷たかったが、とても柔らかかった。


「何観たい?」

瞳は絢音の手を握りながら、首をかしげて聞いた。


「ちょっと調べてきたんだけど……この映画はどうかな?」

絢音が口にしたその提案に、瞳は少し驚いた。

それはいつも二人で観るホラーやアクションじゃなくて、流行中の恋愛映画だった。


「いいよ。じゃあ、チケット買おっか?」

カウンターで二人分のチケットを買った後、瞳が尋ねた。


「ポップコーンとドリンクも買う?」

「うん。でも、ポップコーンは二人で一つでいいかな」

「了解」


ポップコーンとドリンクを買って席に着くと、ポップコーンは二人の間に置かれ、繋いでいた手も、名残惜しそうにそっと離した。

「そろそろ始まるね」

映画が本編に入ると、二人は自然とスクリーンに意識を向けた。

物語は高校生同士の青春ラブストーリー。出会い、すれ違い、そして再会して抱きしめ合い、キスを交わす。

そんな展開だった。


瞳はふと絢音の横顔を盗み見た。

するとちょうど絢音も同じタイミングで瞳を見ており、目が合ってしまった。


「「あっ」」

慌てて瞳は視線をスクリーンに戻した。


映画が終わると、瞳は残っていたポップコーンを口に運びながら、ゆっくりと立ち上がった。

絢音も立ち上がり、自分の手元を見つめて一瞬ためらったが、何も言わなかった。


「行こう」

瞳がそっと手を差し出すと、絢音の顔がぱっと明るくなって、嬉しそうにぎゅっと握り返した。

映画館の外に出ると、少しまぶしい陽射しと、ポップコーンの香りがまだ鼻に残っていた。


「この後は、ランチ?」

「うん、ちょっと早いけど……一旦カフェで軽く何か食べよっか」

「いいね」


二人はカフェを探し、今回は瞳がいつもとは違う店を選んだ。


「コーヒーひとつと、あとこのセットで」

「紅茶と、あとパフェをお願いします」


席に着いた二人は、さっそく映画の感想を語り合い始めた。



「さっき再会したあの場面、愛し合ってる二人がまた出会えるって、やっぱりいいよね」

「うん。普段あまりこういう映画観ないけど、意外と悪くなかったかも」

「でしょでしょ〜」


二人は映画の細かいシーンについて語り合いながら、どこが一番好きだったかなどを楽しそうに話していた。


「お待たせしました。こちら、ご注文のお料理になります。ごゆっくりどうぞ」

「ありがとうございます」


ウェイターがテーブルに料理を置いていくと、瞳は自分のサンドイッチを指さして訊いた。


「ちょっと食べる?」

「うん、ありがとう」


絢音はそう言って一切れを手に取り、瞳も一切れを口に運んだ。一瞬、会話が止まり、それぞれ食事に集中する。


食べ終えると、絢音は嬉しそうにスプーンを手に取り、パフェを一口すくった。甘いものを口に含むたびに、彼女の表情がふわっと緩む。


「ん〜っ、おいしい……はっ!」


急に何かを思い出したように、絢音はスプーンですくったパフェをそのまま瞳の方に差し出した。


「ん? なに?」

「はい、あ〜ん」

絢音はニヤニヤしながらそう言った。


「えっ? な、なに? どしたの急に……?」

瞳は戸惑い、頬を赤らめながら訊いた。


「さっきサンドイッチもらったでしょ? これはそのお返し」

「いやいや、これ、恥ずかしすぎるって……」

「言わないでよ、私だって恥ずかしいよ!」

「じゃあやらなきゃいいじゃん……」

「うるさい、早く食べなさい。あ〜ん!」


顔を真っ赤にしながらも、絢音はスプーンをしっかり差し出した。


「ママ、あの人たちは何してるの?」

「しーッ!見っちゃだめだよ」

隣の親子の客から聞こえた。


「ほら、笑われてるってば、はやく!」

「……はいはい、あーん」


一口食べた瞬間、お互いの目を見られなくなって、

気まずいような、でもちょっとだけ嬉しいような沈黙が流れた。


食事を終えた二人は、カフェを後にした。


「このあと、どうする?」

自然と手をつなぎながら、絢音が首をかしげて訊ねる。


「うーん……ちょっと考えさせて」

瞳は内心のドキドキを必死に隠しながら、平静を装って答えた。


(やばい……このままだと、どこまで理性がもつんだろ……)


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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