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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
七作目『配信事故』

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89/116

【鈴宮あさみ】世界最速でやりますよ!【配信事故】



浅海晴香は、ダウンロードバーが少しずつ進んでいくのを見つめながら、なんとも言えない表情を浮かべていた。

もともと落ち着いた性格で、氷のように整った美貌も相まって、彼女のことを知る人は皆、晴香を「大人っぽくて頼れるお姉さん」だと思っている。


そんな中――後輩の男子が、自分のために人気アップも兼ねてゲームを作ってくれた、という状況だ。

……この流れで「ホラーゲームは苦手です」なんて、言えるわけがない。

先輩としての威厳、そして何より、後輩たちにとってのイメージ。

それに今回は学弟だけではなく、自分の【娘】まで見ているのだ。


「長谷川くん……恨むわよ」

普段ホラー映画すら見ない晴香は、小さく毒づく。

――でも、先輩として泣き言を言うわけにはいかない。


だが自分の機転を褒めたい気持ちもあった。絢音を呼んだのは正解だ。

少なくとも、一人で恐怖に耐えることは避けられる。


コラボ配信にはいくつか方法がある。

遠隔でつなぐ、スタジオを借りる――だが今回選んだのは最もシンプルな手段。

絢音が晴香の部屋に来て、二人で並んで配信する、というものだ。


「そろそろ時間ね」

画面の時計を見た晴香が呟くと、ちょうどインターホンが鳴った。


ドアを開けると、青いトップスにジーンズ姿のポニーテールの少女が、ぱっと明るい笑顔で立っていた。

「晴香学姊、お久しぶりです!」

「絢音! ようこそ」

「これ、一緒に食べようと思って、ドーナツ買ってきました!」

「ありがとう。さ、中に入って」


二人はリビングでドーナツをつまみながらしばらく雑談して、晴香はスマホで時間を確認する。

「そろそろだね、行こうか」

「うん!」


晴香の配信部屋は書斎だ。

仕事と休憩、生活と配信――それらをきちんと分けたいという彼女なりのこだわりだった。


書斎に入り、機材とゲームの準備を最終確認する。

「じゃあ、始めるわよ?」

「大丈夫、いつでもいいよ!」


絢音の明るい返事を聞き、晴香は配信開始ボタンを押した。


画面中央に現れたのは、淡い水色のパーカーを着た銀髪の少女。

背景は薄紫色の書斎風ルーム。


「こんばんは、鈴宮あさみです」


:こんばんは

:待ってました!


「今回、このゲームを世界最速で配信できる栄誉をいただきました。

瞳中之景先生の厚い――厚いご厚意に、まずは感謝を」


その「厚意」という言葉の前に、わずかに間があったのは……きっと気のせいではない。


「そして今日、このゲームを一緒に遊んでくれる人を紹介します」

「こんばんは~、鈴宮琉璃です!」


:おお!琉璃ちゃん!

:こんばんは〜

:立ち位置がスタンドみたいなんだけどw


琉璃の立ち絵は半透明で浅海の背後に表示されている。

これは同時に二人を動かす機材がないため、むしろ演出として活かした形だ。


「操作は基本的に私、琉璃ちゃんは横からツッコミ担当、って感じでいくわね」

「任せて!」


画面がゲーム映像に切り替わり、浅海と琉璃は右下に小さく並んで表示される。


最初にお馴染みの猫ロゴが表示され、そのままタイトル画面へ。

真っ暗な部屋でパーカーの人物がパソコンに向かって座っている背中のシルエット。

その上に白い文字で――【配信事故】


「タイトルから既に配信者の心をえぐってくるんだけど……」

晴香が思わず苦笑する。

「確かに、配信者にとって“配信事故”は一番怖いもんね」

絢音も同意する。


「ゲームスタートはこれかな?じゃあ、始めましょうか」

晴香は「配信開始」のボタンを押した。




ゲームが始まると、まずはキャラクターメイキングの画面が表示された。

主人公の職業はVTuberという設定なので、冒頭で自分の見た目を設定できるようになっている。


「ここ、本当は自分のモデルをそのまま入れられるんだけど……今回はシステムを試したいから、新しいの顔をつくっていこうか」

晴香はそう言ったが、内心では“自分の姿でホラーゲームに放り込まれたくないから”というのが本音だった。うまく理由をつけて回避する。


「どれどれ……結構選べるパーツ多いな」

顔の形、体型、衣装、髪型、瞳の色など、選択肢が多すぎて少しだけ目がまわる。


「……よし、これでいこう」

最終的に、銀髪のクール系お姉さんVTuberが出来上がった。晴香は満足げに小さく頷く。


「これがママの新ビジュアル? めっちゃ可愛い!」


「褒めてくれてありがとう」


外見の設定が完了し、いよいよゲーム本編が始まった──。




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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