チャンネルで宣伝するよ
瞳はパソコンの画面に映る管理画面を見つめていた。これは、彼がずっと前に立ち上げたチャンネルだ。
ゲームが話題になって以来、SNSだけでなく、チャンネルの登録者数も急増している。
このチャンネルは主にゲームの宣伝を目的として運営されている。
現在アップされているのは、瞳が手がけた『エンドレス・エクスペディション』と『ネコ待ちカフェ』のプロモーションPV、それに加えていくつかのゲーム素材だ。
『エンドレス・エクスペディション』のときには素材不足に悩まされた経験から、『ネコ待ちカフェ』では制作過程の映像も一部公開しており、それが意外にも好評だった。
特に猫の素材は予想以上に注目され、再生回数の多さに瞳も驚いたほどだった。
チャンネルで一番再生されているのは、ロゴに使われた淡いクリーム色のシベリアンキャットの動画だ。
そして今、瞳は三作目となる新作ゲームの予告編を制作している。
今回はホラーゲームの予定で、これは彼が所属するゲーム研究会での研究テーマに合わせたものだ。
今学期、瞳はホラーゲームにおける恐怖の演出方法を研究することにしている。
視線誘導、ジャンプスケア、雰囲気作り、BGM……研究を進めるほどに、その奥深さに魅了されていった。
彼はゲームのいくつかの要素を、ネタバレにならない範囲で編集し、PVにした。
鋭い音楽が不安をあおる。
次々と白いロウソクに火が灯り、埃まみれの部屋を照らし出す。
【ここは……どこ……?】
割れた全身鏡には、顔のはっきりしない影が映り込む。
【私は……誰……?】
その後、いくつかのゲーム内シーンがフラッシュのように素早く切り替わり、
重い物を引きずるような音と共に画面が徐々に暗転し、
新作ゲームのタイトル『退院』が浮かび上がる。
「うん、こんなところかな」
ドット絵風のゲームだとすぐにバレないように、今回のPV制作では特に多くの追加グラフィックも描き下ろした。
「まだちょっと粗いけど……まあ練習としては悪くないかな」
本気でやるなら、専門のクリエイターに依頼する手もある。
だが、興味と学習を兼ねて、瞳は自分でやることを選んだ。
PVが完成した後、瞳はさらに恐怖演出の研究を続けることにした。
ゲーム内容をもう少し調整して、より怖いものに仕上げたい。
「よし、今日はこのゲームをやってみよう」
瞳は参考用として有名なホラーゲームをいくつか選んでおり、最も手っ取り早い方法は実際にプレイしてみることだった。
今日選んだのは、人形をテーマにしたホラーゲーム。
「和風の人形って独特の怖さがあるよね。特に、ドアの隙間や暗闇から無表情でこっちを見てくるときなんて……」
そうつぶやきながら、瞳は机の上のノートに真剣にメモを書き込んだ。
「この視線誘導と効果音、すごくいい。
プレイヤーの視線を一点に集中させて、そこに突然幽霊が現れる。この手法は確かに効くね」
思わず驚いてしまった瞳は、一息ついて再びプレイを続ける。
「うおっ!? 二段階で驚かせる手法か!最初に幽霊が出そうで出ない無害な演出で油断させて、その直後に振り向いたとき本物が出てくる……ホラー映画でもよく使われる技法だね。ちょっと古いけど、アレンジすればまだまだ使える」
壁に書かれた血文字【うしろにいるよ】を見て、瞳はキャラを後ろに振り向かせる。
廊下には何もおらず、ほっとして再び前を向いた瞬間、
画面いっぱいに飛び出してくるジャンプスケア。
「なるほど、確かに通らない場所に仕掛けても意味ないもんね」
瞳は顎に手を当て、思案しながらつぶやいた。
どんなに精巧な設計でも、プレイヤーに見られなければ意味がない。
プレイヤーが必ず通る場所に恐怖演出を仕掛けるのがポイント。
ゲームに集中していたそのとき、突然スマホの画面が光り、瞳はビクッと肩を跳ねさせた。
【見たよ】
それは絢音からのメッセージだった。
「見た? 何を?」
首をかしげながらスマホを手に取り、メッセージを確認する。
【PV見たよ。今度のはホラーゲームなの?】
「なーんだ、PVのことか。何かあったのかと思ったよ」
瞳はメッセージを返した。
【うん、来週公開する予定】
【やったー!私に……いや、やっぱりいいや】
【なにが?】
【今すぐやりたいけど、先に遊んじゃうのは他の人に悪いし、発売日まで待つよ】
【はは、わかった】
【楽しみだ】
瞳は微笑みを浮かべながら、ゲームを終了させた。
「やっぱり、もう少し調整しよう。
こんなに楽しみにしてくれてる人がいるんだ。中途半端なものは出せないよな」
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