おっと、誰が来たっぽい
部室の教室で、瞳と絢音は並んで座り、最近プレイヤーたちが『異星の下:ラ=ライエの召喚』で見せたさまざまなプレイスタイルについて雑談していた。
「まさか、生贄を捧げなくても遊べるんだね」
絢音は少し感心したように言った。
「ちょっと極端だけど、全部テクノロジーに頼るっていうのも一つの手だよ」
瞳はうなずきながら感嘆する。以前見た配信者の一人は、純粋なテクノロジー路線──つまり完全に生贄を捧げないプレイスタイルを選んでいた。
「少なくとも安全そうに見えるわね」
絢音が評価する。
「そうだね。レベルアップなしだと異形化した身体に比べてかなり弱いけど、代わりに狂気や怪物化を心配する必要ない」
「でも、魔法が使えないのはちょっと痛いわね」
絢音はテクノロジーの武器が好きではあるが、派手でカッコいい呪文を捨てるのも惜しいと感じていた。
「後半になるとテクノロジーも十分強いんぞ。攻撃の射程は長いし、防衛施設も便利だし……そういえば、絢音も一度は狂気エンドを経験したことあるよね?」
「そうよ、最初の時は知らなくて、RPGをやる癖で、ずっとレベルアップしてたら……まさか怪物になるなんて」
絢音は思い出して、少し恨めしそうに言った。
「ははは」
瞳はそんな絢音の不満顔を見て、つい笑ってしまった。
「笑うなんてひどい!」
絢音は不満そうに、軽く拳で瞳の肩を小突く。
「ごめんごめん」
瞳は両手を上げて謝った。
「じゃあ次は罰として、瞳がプレイするところを私に見せてもらうわ」
「いいよ。でも俺がやると、ネタバレになっちゃわない?」
何せ作者だし、一般プレイヤーに知らないものをたくさん知ってた。
瞳は今のゲームの広がり方に満足していた。さまざまなプレイスタイルが花開き、たくさんのプレイヤーが自分のゲームを楽しんでいるのを見て、心の中でとても嬉しかった。
「たしかに、それなら……罰としては横で私のプレイを見守ることにしようかな」
絢音は少し考えてから、罰を変更した。
「それは罰か?」
「え?」
「いや、なんでもない。でも、一番大事な新入部員はまだ入ってこないんだよなぁ」
瞳はため息をついた。
「大丈夫!まだ新学期が始まったばかりだし。きっとチャンスあるよ」
絢音は、もともと瞳がこのゲームを作った動機を思い出し、慌てて話題を変えた。
「そうだ、そういえば……晴香先輩、VTuberを始める準備してるって知ってる?」
瞳は以前図書館で先輩に会ったとき、確かにそんな話を耳にしたことを思い出した。
だがなぜか、本能的に今はそれを口に出さない方がいいと感じた。
「そうなの? じゃあ、Vの皮は誰かに手伝ってもらうの? それとも浅海先輩自分で?」
「自分でやるみたいだよ。先輩、本当にすごいよね」
「さすがですね。デビューはいつってもう決めた?」
「ふふ、知りたい?」
絢音は口元を隠しながら、目を細めた。
「知りたい」
瞳は素直にうなずいた。
「仕方ないな……来週の土曜日だよ」
絢音はあっさりと答えを明かした。
「そんなに早いの?」
瞳は驚いて絢音を見上げた。
「うん。ずっと準備してきたみたいだし、実は前から配信もしてたんだって」
「先輩がチャンネル持ってるのは知ってたよ」
瞳は、以前ゲームのキャラデザインを頼むときに調べたことがあると説明した。
「じゃあ、その時は一緒に見ようよ」
絢音は笑顔で誘った。
「もちろん。絢音の家? それとも俺の家?」
「今回は瞳の家にしようかな。結衣に会いたくなってきちゃった」
「この前会ったばかりじゃないか」
瞳は思わずツッコんだ。
「それとこれとは別! それに瞳が誘わないから、結衣は陸上部に入ったじゃない」
絢音は唇を尖らせ、瞳に文句を言った。
「いやいや、結衣はもともと運動が好きだし、中学の頃から陸上部だったからね」
瞳は苦笑しながら答えた。
「分かってるよ。ただ言ってみただけ」
「まあ、その気があれば兼部だってできるし、 たまに遊びに来るとかいけそうじゃない?」
「いいね、それ。瞳から結衣に伝えてよ」
「分かった、言っておくよ」
ちょうど二人が雑談しているとき、突然ノックの音が響いた。
「失礼します、どなたかいらっしゃいますか?」
ドアの外から、どこか聞き覚えのある少女の声がした。瞳は首をかしげながら立ち上がり、ドアを開ける。
「はーい、少々お待ちください……」
「えっ? この声は……?」
ドアを開けた瞬間、瞳は目を見張った。
そこに立っていたのは、制服姿の茶髪の少女。
「やっぱり兄さんだ! 兄さんもこの部にいたんだね」
「……弥紗?」
瞳は少し驚きつつ、道をあけて弥紗を招き入れる。
「誰? あっ、ニナちゃん?」
声が女子だと気づいた絢音が気になって顔を出す。
「琉璃先輩!? どうしてここに?」
「そういえば、この前収録のとき紹介しそびれたんだよね」
瞳は思い出し、ここで補足することにした。
「彼女は西村弥紗。結衣の友達だよ」
「一番の大親友です!」
弥紗はすぐに訂正する。
「ふんっ、私は結衣と何度も一緒に寝泊まりしたお姉ちゃんだぞ」
なぜか対抗心を燃やした絢音が、腰に手を当てて言い放つ。
「な、なにそれっ!?」
弥紗はショックを受けて一歩引いた。
「ふふん、勝った」
絢音は得意げに笑う。
その様子に瞳は慌てて二人の間に割って入った。
「弥紗、今日はどうしてここに?」
「あ、そうだった。今日はこの部を見学しに来たんだ」
弥紗は自分の目的を思い出したように言う。
「でも……兄さんがいるなら、もうそのまま入部しちゃおうかな」
絢音はその言葉を聞いて、わずかに眉をひそめる。何かに気づいたようだが、何も言わなかった。
瞳は苦笑しながら答える。
「いや、まずは見学からだよ。もし気に入らなかったらどうするの?」
「むぅ……わかった。じゃあ、お兄ちゃん案内してもらえますか?」
「はいよ」
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