【浅海】え?二人はそういう関係……?
浅海晴香はイラストレーターであり、VTuber鈴宮琉璃の“ママ”でもある。
その中の人、清水絢音とは何度も顔を合わせており、今ではすっかり親しい仲になっていた。
だからこそ、絢音ちゃんの紹介となれば、簡単には断れない。
そう思いながら、実際に“彼”に会ってみた。
第一印象は悪くない、謙虚で優しそうな少年だった。
けれど、ギャルゲーを作りたいなんて……さすがに無謀すぎる。
「はは……確かに今の時代、ギャルゲーってあまり儲かるジャンルじゃないですよね」
目の前の制服姿の少年、長谷川瞳は、苦笑いを浮かべながら言った。
「それでも、なんでやろうと思ったの?」
「もちろん、好きだからです! それに、一度でいいから、ギャルゲーってジャンルに挑戦してみたくて」
長谷川くんの目はまっすぐで、その輝きは眩しすぎて、直視するのがつらいほどだった。
「あ、ちなみにギャルゲーって言っても、ちゃんと健全な内容です!えっちなやつとかは一切なしです!」
彼は焦りながらも、必死に誤解を解こうとしている様子が、逆に微笑ましい。
「若いっていいなあ……」
(……いやいや、自分だって19歳。ただの大学1年生。まだまだ若いはず。)
晴香は軽く自分の頬をつねって、気持ちを切り替えた。
「まあ、挑戦するのはいいことよ。でも先に言っておくけど、私は自分の技術を安売りするつもりはないわ」
「はい、もちろんです!」
「企画書を作ったって言ってたよね?見せてもらえる?」
「はい、どうぞ!」
晴香は企画書を受け取り、ページをめくりながら目を通していく。
「……けっこうしっかりしてるじゃない。なるほどね」
企画としては、甘い部分もある。けれど、相手は高校生。そのレベルでここまで詰めてあるのなら、むしろかなり優秀だ。
「この“有名VTuberを起用して話題性を狙う”ってところ。具体的には誰を使うと考えてるの?」
晴香が指さした企画書には、こう書かれていた:
『有名なVTuberを起用し、声優として参加してもらうことで話題性を高め、ファン層の獲得を目指す』
「もちろん、先生の“娘さん”鈴宮琉璃です。すでに事務所からも許可をもらっています」
「……えっ」
晴香は少し驚き、そして感心した。
何の準備もなく「コラボしてください」と無茶を言ってくる輩も少なくない中、彼はきちんと段取りを踏んでいた。
「なるほどね、大体わかったわ」
「それって……引き受けてくれるってことですか?」
緊張した面持ちで、瞳は彼女の答えを待つ。
晴香は頭の中で作業量を概算し、スマホのスケジュールを確認した。
「……引き受けるわ。面白そうな企画だし、これくらいならスケジュールに組み込める」
「ありがとうございますっ!」
満面の笑みを浮かべる瞳の姿に、思わず晴香もやわらかな笑みを返した。
ピローン。
「あ、すみません」
スマホに目を落とした瞳が顔を上げる。
「浅海先輩、絢音からメッセージが来て、用事が終わったから来たいって。大丈夫ですか?」
「絢音?もちろんいいよ」
数分後、カフェの扉が開き、私服姿の絢音が入ってきた。
制服から着替えて来たところを見るに、一度帰宅してからまた出直してきたのだろう。
「晴香先輩〜」
絢音は手を小さく振って、こっちに来た。
「絢音ちゃん、お久しぶり〜」
「お久しぶりです!」
「最近どう?ちゃんと寝てる?」
「バッチリ!最近は5時間くらい寝てるよ!」
「……それで足りてるの?もっと寝たほうがいいんじゃない?普通は8時間くらい寝ないとだめよ」
晴香は心配そうに眉を寄せた。
「ごめん、話ばっかりして。とりあえず座って何か頼もう?今日は私がおごるわ」
「いや、ここは僕に任せてください」
と、瞳が口を挟む。
「そうそう、今の瞳はお金持ちなんだから、遠慮しないで〜」
絢音は笑いながらそう言った。
「いや、別にお金持ちってほどじゃ……」
「またまた~」
二人の掛け合いに、晴香は少し驚いた。
(珍しいな。人のお金を使うなんて。それに呼び捨て……幼なじみって、そういう関係?)
晴香の知っている絢音は、できるだけ人に借りを作らない子だ。
だからこそ、思っていた以上に、この二人……仲が良さそうだ。
「私は紅茶で」
そう言って絢音は、晴香の隣ではなく向かいの席を選んで座った。
晴香は思わず目を丸くした。同性である自分ではなく、異性の長谷川くんの隣に座るなんて。
(えっ、この二人……そういう関係?)
「で、結果はどうだったの?」
絢音が尋ねると、瞳はにこやかに答える。
「おかげさまで、浅海先輩が協力してくれるって」
「本当に? よかった〜!」
絢音は嬉しそうに両手を上げ、晴香に向かってニコッと微笑んだ。
「では今回は、親子で初めての共同作業ですね」
その笑顔を見て、晴香の頬も自然と緩んでいた。
「えぇ、そうだね」
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