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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
六作目『異星の下:ラ=ライエの召喚』

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82/116

【弥紗】ナイア…、謀ったな、ナイア!

ナイアが現れてからというもの、ゲームの主人公のSAN値はまるでバンジージャンプのように急降下していった。


もともと祭壇でレベルアップするたびにSAN値が少しずつ減っていく仕様だった。

無理にレベルアップしなくても、経験値は貯め続けることができる。

――だが、プレイヤーである弥紗にとって、満タンになった経験値を放置するなんて到底できることではなかった。


ナイアが祭司となったことで、さらに多くの儀式が解禁され、より強力な能力値と魔法が得られるようになる。


「SAN値、めっちゃ減ってるけど……大丈夫なの?」

SAN値が70しか残っていないYちゃんを見て、弥紗は不安げに尋ねた。


:ちょっとヤバいね

:発狂が近づいてるぞ

:さすがナイア、完全にプレイヤーを手玉に取ってるな


「や、やっぱりマズいんじゃないの?」

視聴者のコメントを見れば見るほど、不安は膨らんでいく。


:でも仕方ないよな

:SAN値回復の方法って無いの?

:一応いくつかあるみたいだけど


「ほんと!? それ何!?」

弥紗は思わず身を乗り出す。だが、ゲームは配信されたばかりで、回復条件はまだ確認されていなかった。

仕方なく、弥紗は不安を抱えたままプレイを続けることになる。


――少し前、ニナが爆弾で吹き飛ばされた悲しい事件があった後、弥紗は三十分ほど爆弾の使用を控えていた。

しかし、素手で掘る効率の悪さに我慢できず、結局また爆弾を使い始める。ただし、今度はずっと慎重に。

ニナは分身だからまだいい。だが、隣に結衣が座っている状態で、Yちゃんを死なせるわけにはいかなかった。


地底を掘り進めていたYちゃんが、ふと爆弾では壊せない場所に突き当たる。

「……何これ? 遺跡?」

弥紗は首を傾げながら探索を進める。そこには分厚く、荘厳な彫刻が施された扉が立ちはだかっていた。


クリックしてみると鍵はかかっていない。

Yちゃんが中へ入ると、四方の壁に壁画が描かれ、四隅には燃え盛る火盆、そして部屋の中央には巨大な祭壇が鎮座していた。

祭壇の上空には、金色に輝く光の門が浮かんでいる。


「これは……?」

弥紗は興味津々で壁画から調べ始めた。

一つ目は深海から伸びる触手。二つ目は歪んだ太陽光。三つ目は形を定めない腫れ上がった肉塊。


「みんな邪神の象徴……? あ、最後のは見たことない。猫の目?」

壁一面に描かれていたのは、巨大な眼。確かに猫の瞳孔に似ているようにも見えた。


さらに探索を進めると、祭壇の前で魔導書と供物を発見。


「残るは……この光の門か」

弥紗が選択すると、メッセージが表示される。

――「この祭壇は一度だけ使用可能。魔導書と供物を捧げれば、人智を超えた力を得られる」


: 力が欲しいか?

: 人智を超えるって……ヤバそう

: でも必殺技みたいなものじゃね?


「うーん……ええい、行っちゃえ!」

弥紗は好奇心に抗えず、決定ボタンを押してしまった。


光門が強烈な閃光を放ち、部屋全体が白に染まる。

やがて光が収束すると、光門は消え、祭壇の前にはYちゃんが立っているだけだった。


「……何も変わってない?」


キャラの見た目には変化なし。

だが、ステータスを開いてみると、新たな魔法が追加されていた。


――【聖霊召喚】

SAN値を5消費し、レベル100の聖霊を呼び出す。自動で敵を殲滅し、持続時間は30分。


「レベル100!? あたし、まだレベル20なのに!?」

圧倒的に強力なスキル。しかし代償はSAN値。使えるのは本当に切り札の時だけだろう。


「まあ……あなた、もう“あのお方”に会ってしまったのですね」

紫煙を吐き出しながら、ナイアが妖しい微笑みを浮かべる。


「どうやら、そろそろ“その時”のようです」


「その時って……何の?」

弥紗は邪神の不気味な言葉に背筋を震わせる。


――そして、彼女はすぐに理解することになる。


夜になるたび、出現する敵はより強力に、より凶悪に変化していった。

最初は雑魚の魚人。だが、やがて魚人の司祭や統領が現れ、後半は【聖霊召喚】なしでは生き延びられない。

それはまさに「毒を飲んで渇きを癒す」ようなもの。SAN値は目に見えて削られていった。


ある夜、戦闘が終わった直後に突然カットシーンが流れる。

ベッドに横たわるYちゃんが苦しげに悲鳴を上げ、その足が裂け、触手へと変貌していく。


「Yちゃんが……怪物に!?」

弥紗の声は絶望に満ちていた。


: ビックリした!

: もう人間じゃないだろコレ

: いや、俺ちょっとイイこと思いついたんだけど


幸いにもキャラは操作可能だった。触手となった足は移動速度を大幅に上げ、あらゆる地形を自由に登れるようになっていた。


「おめでとうございます。ますます神に近づきましたね」

ナイアは胸に手を当て、恭しく一礼する。


「……まぁ、悪くはないかも?」

隣に座る結衣は案外あっさり受け入れ、むしろ移動速度が上がったことを喜んでいた。

当の本人が気にしていないなら、と弥紗もゲームを続ける。


――そして。


画面の三分の一を占めるほどの巨大な邪神が、海面を突き破って出現した。激しいBGMが鳴り響き、最終決戦が始まる。


「ラスボスが自分から来るとか聞いてないんだけど!」

弥紗は思わずツッコミを入れつつ、迷わず【聖霊召喚】を発動。

YちゃんとNPCだけでは到底勝てないことを理解していたからだ。


召喚された聖霊は純白の人型。最大で二体同時に出せる。

タコ頭の邪神は一挙動ごとに広範囲攻撃を繰り出し、配下の眷属まで呼び出してくる。


だが、聖霊は確かに強力だった。邪神は目に見えて傷つき、さらにYちゃんの新魔法も加わり、戦況は思わぬ優勢に傾いていく。


「え……? キャラが動かない……?」

勝利を目前にした瞬間、Yちゃんが弓なりに体を反らせ、ピクリとも動かなくなる。邪神が迫り来る中、弥紗の焦りは頂点に達した。


「う、うああああああッッ!!」

悲鳴はやがて、人間の声とは思えない金切り音に変わり、頭皮の下で“何か”が蠢く。次の瞬間、頭部が裂け、赤黒い触手が花のように咲き乱れた。


:やばいやばいやばい!!!

:これバッドエンド確定だろ!?

:草生やしてる場合じゃないwww


「えっ……」

呆然とする弥紗の前で、その怪物は聖霊と共に邪神を打ち倒し、そして彼女が築き上げてきた町を滅ぼしてしまった。


画面が切り替わり、ナイアのアップ。

妖艶に微笑み、煙管を掲げる。


「そう……理性なんてただの枷。永遠の狂気こそが、この世界の真理。

我が愛しき邪神様……次の降臨を、心よりお待ちしておりますわ」


ナイアが煙を吐き出すと、画面には【最初から】【新しいキャラを作成】の選択肢が並んだ。


「……これで終わり?ニナのYちゃんがー!」


:まさかの化け物エンド

:Yちゃんが死んだ、この人でなし!

:意外過ぎる


「リベンジしたいけど、時間も時間だし」


弥紗は時計を見やり、肩をすくめた。


「じゃあ、今日はここまでにしよっか。次はリベンジするから! それじゃ、みんなおやすみ~」

「おやすみ~」

結衣も視聴者に手を振る。


:おやすみー

:今日も楽しかった!

:またね!


配信を切った後、弥紗は大きくため息をついた。


「……大丈夫?」

結衣が心配そうに声をかけると、弥紗はそのまま彼女を抱きしめる。


「結衣ちゃん、今夜泊まっていってくれない? 一人だと眠れそうにないから……」

「仕方ないなぁ。私も正直、ちょっと怖かったし。お兄ちゃんもさぁ、なんであんなに怖いの作るのよ」

「ほんとそれ!」


二人は瞳へのツッコミを交わしながら、その夜を一緒に過ごしたのだった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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