久しぶり、君の部屋へ
食事を終えた瞳は、家族に一声かけてから、絢音の家へと向かった。
(なんだかこの道、久しぶりに歩く気がするな……)
慣れ親しんだ道を歩きながら、なぜか新鮮な気持ちになった
絢音の家はそれほど遠くなく、10分ほど歩くと「清水宅」と表札のかかった二階建ての一軒家に到着し、インターホンを押した。
「いらっしゃい」
絢音が満面の笑みでドアを開けた。
「仙海さんと由紀さんは?」
瞳は辺りを見回したが、絢音の両親の姿が見えず、つい尋ねた。
「お父さんは書斎で仕事中、お母さんは急用で出かけちゃった」
瞳は、絢音の父親がある会社の幹部で、母親は自分のビジネスをしていて、普段から忙しいことを知っていた。
「そうなんだ。じゃあ、ご飯はもう食べたの?」
「うん、食べたよ」
絢音は瞳の気遣いに目を細めて、嬉しそうに答えた。
「それならよかった」
瞳は絢音と一緒に2階の部屋へと上がった。
「おお、部屋、めっちゃ変わったじゃん!」
絢音の部屋に入ると、瞳は思わず感嘆の声を漏らした。
部屋に入ると、配信用の機材がずらりと並んでいた。
照明、マイク、カメラなどが揃い、以前とはまるで違っていた。
変わらないのは、たくさんのゲームグッズやポスター。
ぱっと見は男の子の趣味のようだった。
しかし、ベッドの上には等身大のサメの抱き枕が置いてあり、やはり女の子の部屋だと感じた。
(それに、なんだかいい匂いがする……前はこんな香りしたっけ?)
部屋にはほのかに香水の香りが漂っており、瞳の心拍が少し上がった。
「こうして見ると、本当にプロっぽいね。さすが職業配信者、機材がなんかすごそう」
気を紛らわせるように話題を変える。
(機材のことはよく分からないけど……とにかく、すごい)
「えへへ、なんだかちょっと照れるな」
「おっ!ムム、ここにいたのか」
瞳はベッドの端で寝ていた金色のシベリアンキャット、絢音の飼い猫ムムを見つけ、目を輝かせて撫でまくる。
瞳の家では猫が飼えないため、絢音の家に来るのは猫と触れ合える貴重な機会だった。
「ムム、やっぱり君はかわいいなぁ。この触り心地、最高だよ」
最初はだらんと撫でられていたムムだったが、やがてうるさくなったのか、一声鳴いてから別の場所へ移動してしまった。
「あぁ〜……」
名残惜しそうにムムを見送った瞳に、絢音は思わずに突っ込んだ。
「人のネコを撫ですぎ」
「あはは」
我に返った瞳は頭を撫でて、話を変えた。
「そうだ、手伝ってほしいって言ってたよね?何をすればいいの?」
「うん、ちょっと待ってね」
絢音はパソコンでファイルを開き、椅子を譲った。
「どうぞ」
「じゃあ、拝見させてもらうか」
ちょっと大袈裟で、瞳は椅子に座り、テキストファイルを読み始めたが、だんだんと見覚えのある内容に驚き始めた。
「ふむふむ、え、これ……俺のゲーム!?」
「そうだよ、だからこそ、開発者の瞳が一番詳しいでしょ」
絢音は笑って答えた。
そう、これは瞳が初めて制作したゲーム『エンドレス・エクスペディション』の攻略だった。
中にどの組み合わせが効果的か、逆にどれが相性が悪くて弱くなるか、などが丁寧にまとめられていた。
「うーん……正直、かなり完成度高いと思うよ」
瞳は最初、絢音の話を聞いてもっと酷い内容を想像していたが、予想に反して、かなり内容が充実していて説得力もあった。
「本当?よかった……」
開発者本人からの高評価に、絢音は安心した様子だった。
「改善したいなら、項目の順番を整理したり、タイトルをつけたりするくらいかな」
瞳は少し考えて、新しいファイルを開いた。
「まずはゲームの簡単な紹介から始めよう。知らない人もいるだろうし」
「うんうん」
絢音は真剣な表情で話を聞いていた。
「それからゲーム進行中のイベント、ショップ、休憩ポイント、敵キャラ……おすすめのショップアイテムやイベントを紹介するといいね」
「なるほどね」
「最後に、さっきの組み合わせをまとめて載せれば、だいたい完成かな」
「ねえ瞳、自分のおすすめのスキル組み合わせってある?」
絢音が興味津々で尋ねた。
「俺?俺は基本的に脳筋回復型が好きだよ、とにかくゴリ押しで回復しながら殴る、って感じ」
「えっ、ちょっと意外かも」
「テストのために何回もプレイしたからね。後半はもう頭をつかいたくないって気持ちが強くなっちゃって」
瞳は苦笑いしながら説明した。
「でも、テスト中にいくつかいい組み合わせも見つけたよ」
瞳はテスト中に役立ったいくつかの組み合わせを絢音に紹介した。
「ありがとう、これでなんとか間に合いそう」
絢音は、瞳が入力したドキュメントの構成を見ながら感謝の言葉を述べた。
「こっちこそ感謝したいよ。あの時、絢音がいなかったら、このゲームは世の光を当てなかったかもしれないし」
「そんなことないよ。こんなに面白いゲームなら、きっといつか日の目を見る。時間の問題だけよ」
絢音は瞳を励ましつつ、話題を変えた。
「よし、それじゃあ、もう一回始めるから、横で軍師してね!」
「任せろ!」
瞳は笑顔で答えた。
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