学校っぽいの来た!
「えー、そろそろ文化祭です」
先生は教壇に立ち、クラス全員にルールブックを配りながら、一つ咳をして発表した。
「みんなで、クラスで何をやるか話し合ってみよう。意見のある人は手を挙げて。委員長、あなたが進行して」
「はい」
ショートヘアで眼鏡をかけた少女が教壇に上がり、進行を始めた。
クラス内はざわざわと小声で話し合いが始まる。
「長谷川、何かやりたいことある?」
隣の佐藤が顔をこちらに向けて、こっそり聞いてきた。
「特にないけど……佐藤は?」
瞳は首を横に振った。実はかなり前から、ゲーム研究部の高野先輩から文化祭のおおよその日程は聞いていた。
ゲーム研究部は伝統に従って部誌を作ることに決めている。
瞳が出そうとしているテーマは「驚かせる方法」。多くのアイディアは『退院』というゲームに応用されている。
評判もいい感じで、ネットで調べても好評価ばかりだった。
「ふふん、もちろんメイド喫茶だよ」
佐藤はニヤリと言った。
「俺の調査によると、クラス女子の見た目は学年平均より明らかに上。絶対に人気になるぞ」
「でも、そんな提案したら、さらに嫌われたりしない?」
「バカもん!怖がって何もしないなら、青春できるないでしょ!」
佐藤は右拳を握り、情熱的に語った。
「そういう名言、こんな場面で言わないで欲しいなぁ……」
誰かが手を挙げるのを見て、委員長がそのまま指名した。
「お化け屋敷をやりたいです」
委員長は黒板に「お化け屋敷」と書き込む。誰かが口火を切ると、皆次々と手を挙げ始めた。
「やっぱり演劇がいい」
「ステージで歌ってみたい!」
委員長はそれぞれの提案を黒板に書いていく。
「はい、はい!」
佐藤が右手を高く挙げ、ぶんぶん振っている。
「……佐藤」
委員長は少し渋々としながらも、名前を呼んだ。
佐藤は立ち上がって大きな声で言った。
「メイド喫茶がやりたいです!」
「うおおお、メイド!メイド!」
一部の男子たちが盛り上がる。
「ちょっと面白そうかも」
「メイド服、かわいいし」
女子たちの反応も意外と悪くない。
佐藤の提案は、思いがけず好評だった。
「じゃあ、男子はどうするの?」
一人の女子が疑問を口にした。
佐藤は少し考えてから答えた。
「男子はキッチンがメインとか、それとも執事の格好する?」
「それいいと思う!」
「クラスの男子の執事姿、ちょっと見てみたいかも」
先生は皆の反応を見て、あっさり決定を下した。
「じゃあ、メイド喫茶に決まりだな。佐藤、君が……あ、君は野球部だったね。他に責任者やりたい人は?」
本当は提案者の佐藤に任せたかったが、野球部の忙しさを知っている先生は、言い直した。
「やってみたいです」
先ほど質問していた女子が手を挙げ、自ら立候補した。他に反対意見もなく、すんなり責任者に決定。
「じゃあ、田中さんにお願いしよう」
瞳はその女子の名前が田中礼嘉で、絢音と仲の良いグループに属し、普段から明るくて社交的な性格だと知っていた。
責任者が決まると、物事はどんどん進んでいく。
「じゃあ、衣装はどうする?」
「レンタルできるお店を知ってるから、聞いてみるよ」
「飲み物や料理は?」
「うちは飲食店やってるから、簡単なサンドイッチとデザートなら、みんなすぐ覚えられると思う」
必要なものがある程度決まったら、細かいことは自習時間に話し合うことになった。
「瞳、部誌の記事もう書き終わった?」
二人は下校中の道を並んで歩きながら話す。
「うん、大体は終わったよ。あとはちょっとした修正くらい。絢音は?」
「書くゲームは決めた。今またプレイし直してるところ。今んとこ、七、いや八割くらいかな」
「間に合うの?文化祭はまだ一ヶ月先だけど、締切は来週だよ?」
瞳は少し心配そうに尋ねた。
「ふっ、私のこと、まだわかってないみたいだね?私には奥の手があるのよ」
絢音は自信満々に言った。
「奥の手?」
瞳が首を傾げたその時、絢音はパチンと手を合わせ、片目をつぶって言った。
「瞳さま、助けて〜!」
「……それが奥の手?」
「瞳は呆れたようにため息をついて、絢音を見つめた。
「ゲームやる自体は簡単だけど、書く内容が全然思いつかないんだもん!」
「わかったよ。どうやって手伝えばいい?」
「内容を見て、他に何が書けそうか一緒に考えて〜」
「わかった。じゃあ、ご飯食べたらそっち行くね」
「助かる!必ずお礼するから」
「いいよいいよ、別にお礼なくでも」
瞳は手を振って、そんなに大したことじゃないし。
「ふーん、メイド服でのお礼でも?」
絢音は小悪魔的な笑えで瞳を問いかける。
「くっ、それは卑怯じゃないか」
「ははは、瞳よ、卑怯とは言うまいな」
わちゃわちゃして、二人はいったん別れた。
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