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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
六作目『異星の下:ラ=ライエの召喚』

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【弥紗】心臓を捧げよう!

夜が更けるにつれ、激しい豪雨が降り出す。

ニナと二人の仲間は、作り立ての小屋の中に身を寄せ、外の雷鳴を耳にする。


「くっら……」

プレイヤーの弥紗は慌ててロウソクを二本クラフトし、ドア前と壁に設置した。

室内がぱっと明るくなり、入口の輪郭も浮かび上がった。

「これってよしっと」


パチャッ……パチャッ……

ずるり……ずるり……と水を引きずる足音、徐々にドアへ近づいてくる。


「ねぇ、いま何か聞こえた? まさか幻聴じゃないよね……?」


:足音聞こえたぞ

:なんか来てるw

:めっちゃハッキリ聞こえる


視聴者のコメントで確信し、弥紗の顔がさらに青ざめる。

ドンッドンッドンッ! と激しいノック音。思わず後ずさる弥紗。


「だ、誰ですかっ!?」


:出前でーす

:オレオレw

:こんばんは~


直後、稲光がドアを照らし出す。

そこには醜悪な魚人が立ち、全身ずぶ濡れで水を滴らせながら、右手の銛でドアを叩きつけていた。


「うわあああああああ!!!」

弥紗と結衣、二人同時に悲鳴をあげた。


しかしゲーム内のYちゃんは冷静に言う。

「一体だけみたいね。肩慣らしにはちょうどいい。……ニナ、戦闘は久しぶりでしょ?」


「これが戦闘チュートリアルって……怖すぎでしょ!!」

弥紗はツッコミつつも、船で拾った斧を手に、ドアを開けた。


「がおおおおおお!」

魚人は喉を裂くような咆哮を上げ、銛を振りかざしてきた。


「うわ!」



敵はチュートリアル用らしく、動きが大きくで遅い。

仲間二人の援護もあり、回避しながら難なく撃破できた。


「おっ、ドロップある! えーっと……魚人の心臓!?これをどうしろと?」

弥紗が拾い上げる。


「それは神に捧げる供物になるわ。ただし祭壇を作らないとね」

司祭のYちゃんが淡々と説明した。


「祭壇かぁ……」

弥紗は興味津々で小屋の横に祭壇を建築。

祭壇を完成したあと、Yちゃんが供物を手に儀式を始めた。


――画面が急に暗転。

神々を象徴する紋章が浮かび上がる。

ひとつは絡み合った触手。

ひとつは稲妻のような光の門。

ひとつは膨れ上がった肉塊が呼吸するかのように脈動。

最後は太陽に似ているが、どこか異様な輝き。


「な、なにこれ……もっと普通の神様ないの!?」

弥紗が怯えた声を上げる。


「確かタグに“クトゥルフ”ってあったから……たぶん邪神系なんじゃない?」

結衣も詳しくには分からないが、瞳から聞いた知識を思い出しながら答える。


:主人公まさかの邪教徒w

:どれもやばそうw

:心臓を捧げよ!


邪神に関する知識がない弥紗は、仕方なく供物で得られる効果の説明を見比べながら、どの神に捧げるか悩み始めた――。



「えっと……ステータス上昇系、建築や学習速度アップ系、特殊スキル習得系……あと即座に魔法がもらえる系もあるね。

……よし、最初はシンプルにいこう!」


弥紗は一番わかりやすい「基礎能力アップ」を選択。

「通常攻撃が強ければ、とりあえず安心でしょ!」


――魚人の心臓が祭壇の上で黒煙となって燃え上がり、キャラクターの体を二周したのち、画面が揺れて儀式は完了。


:契約成立w 今日から君も邪教徒w

:どう? 強くなった?


「ちょっと確認してみるね」

キャラステータス画面を開く。

そこにはTRPG風のパラメータ――筋力、体力、敏捷、魅力、意志、知力、直感、そしてSAN値。

各能力の後ろに「+5」と表示されているが、唯一SAN値だけが「-3」になった。


:めっちゃ強化されてるじゃん

:でもSAN値下がってるぞw

:狂気への第一歩おめでとう


「えっ、なに!? SAN値が減るってそんなにやばいの!?」

弥紗が視聴者コメントを見て慌てる。


:SAN値は理性だよ、下がりすぎると発狂するw

:でもたかが3だし、まだ大丈夫、まだ

:フラグ立ったな


「や、やめてよぉ~! そういうこと言わないで!!」

弥紗は泣きそうな声でツッコミ。


儀式が終わり、こうしてゲーム最初の一日が過ぎていった。

弥紗の本格的な冒険が、ようやく始まったのだ。


ゲーム内の一日は現実で約20分。

昼間は探索タイム。探索の途中でさまざまなNPCに出会い、彼らを活躍させるためには対応する建物を建てる必要がある。

たとえば、学者なら図書館、大工や鍛冶屋なら工房……建築が完成すれば、NPCはそれぞれの職業に応じたサービスを提供してくれる。


夜になるとモンスターの襲撃。時間が進むほど数は増えていくが、NPCたちも一緒に戦ってくれるため、今のところは何とか乗り切れている。


「……なんか普通に面白いんだけど!」

弥紗は思わず笑顔になり、ゲームの楽しさを実感する。


:建築とNPC要素いいね

:タワーディフェンスっぽい!

:SAN値管理ゲーかと思ったら意外と箱庭要素強いなw

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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