【弥紗】心臓を捧げよう!
夜が更けるにつれ、激しい豪雨が降り出す。
ニナと二人の仲間は、作り立ての小屋の中に身を寄せ、外の雷鳴を耳にする。
「くっら……」
プレイヤーの弥紗は慌ててロウソクを二本クラフトし、ドア前と壁に設置した。
室内がぱっと明るくなり、入口の輪郭も浮かび上がった。
「これってよしっと」
パチャッ……パチャッ……
ずるり……ずるり……と水を引きずる足音、徐々にドアへ近づいてくる。
「ねぇ、いま何か聞こえた? まさか幻聴じゃないよね……?」
:足音聞こえたぞ
:なんか来てるw
:めっちゃハッキリ聞こえる
視聴者のコメントで確信し、弥紗の顔がさらに青ざめる。
ドンッドンッドンッ! と激しいノック音。思わず後ずさる弥紗。
「だ、誰ですかっ!?」
:出前でーす
:オレオレw
:こんばんは~
直後、稲光がドアを照らし出す。
そこには醜悪な魚人が立ち、全身ずぶ濡れで水を滴らせながら、右手の銛でドアを叩きつけていた。
「うわあああああああ!!!」
弥紗と結衣、二人同時に悲鳴をあげた。
しかしゲーム内のYちゃんは冷静に言う。
「一体だけみたいね。肩慣らしにはちょうどいい。……ニナ、戦闘は久しぶりでしょ?」
「これが戦闘チュートリアルって……怖すぎでしょ!!」
弥紗はツッコミつつも、船で拾った斧を手に、ドアを開けた。
「がおおおおおお!」
魚人は喉を裂くような咆哮を上げ、銛を振りかざしてきた。
「うわ!」
敵はチュートリアル用らしく、動きが大きくで遅い。
仲間二人の援護もあり、回避しながら難なく撃破できた。
「おっ、ドロップある! えーっと……魚人の心臓!?これをどうしろと?」
弥紗が拾い上げる。
「それは神に捧げる供物になるわ。ただし祭壇を作らないとね」
司祭のYちゃんが淡々と説明した。
「祭壇かぁ……」
弥紗は興味津々で小屋の横に祭壇を建築。
祭壇を完成したあと、Yちゃんが供物を手に儀式を始めた。
――画面が急に暗転。
神々を象徴する紋章が浮かび上がる。
ひとつは絡み合った触手。
ひとつは稲妻のような光の門。
ひとつは膨れ上がった肉塊が呼吸するかのように脈動。
最後は太陽に似ているが、どこか異様な輝き。
「な、なにこれ……もっと普通の神様ないの!?」
弥紗が怯えた声を上げる。
「確かタグに“クトゥルフ”ってあったから……たぶん邪神系なんじゃない?」
結衣も詳しくには分からないが、瞳から聞いた知識を思い出しながら答える。
:主人公まさかの邪教徒w
:どれもやばそうw
:心臓を捧げよ!
邪神に関する知識がない弥紗は、仕方なく供物で得られる効果の説明を見比べながら、どの神に捧げるか悩み始めた――。
「えっと……ステータス上昇系、建築や学習速度アップ系、特殊スキル習得系……あと即座に魔法がもらえる系もあるね。
……よし、最初はシンプルにいこう!」
弥紗は一番わかりやすい「基礎能力アップ」を選択。
「通常攻撃が強ければ、とりあえず安心でしょ!」
――魚人の心臓が祭壇の上で黒煙となって燃え上がり、キャラクターの体を二周したのち、画面が揺れて儀式は完了。
:契約成立w 今日から君も邪教徒w
:どう? 強くなった?
「ちょっと確認してみるね」
キャラステータス画面を開く。
そこにはTRPG風のパラメータ――筋力、体力、敏捷、魅力、意志、知力、直感、そしてSAN値。
各能力の後ろに「+5」と表示されているが、唯一SAN値だけが「-3」になった。
:めっちゃ強化されてるじゃん
:でもSAN値下がってるぞw
:狂気への第一歩おめでとう
「えっ、なに!? SAN値が減るってそんなにやばいの!?」
弥紗が視聴者コメントを見て慌てる。
:SAN値は理性だよ、下がりすぎると発狂するw
:でもたかが3だし、まだ大丈夫、まだ
:フラグ立ったな
「や、やめてよぉ~! そういうこと言わないで!!」
弥紗は泣きそうな声でツッコミ。
儀式が終わり、こうしてゲーム最初の一日が過ぎていった。
弥紗の本格的な冒険が、ようやく始まったのだ。
ゲーム内の一日は現実で約20分。
昼間は探索タイム。探索の途中でさまざまなNPCに出会い、彼らを活躍させるためには対応する建物を建てる必要がある。
たとえば、学者なら図書館、大工や鍛冶屋なら工房……建築が完成すれば、NPCはそれぞれの職業に応じたサービスを提供してくれる。
夜になるとモンスターの襲撃。時間が進むほど数は増えていくが、NPCたちも一緒に戦ってくれるため、今のところは何とか乗り切れている。
「……なんか普通に面白いんだけど!」
弥紗は思わず笑顔になり、ゲームの楽しさを実感する。
:建築とNPC要素いいね
:タワーディフェンスっぽい!
:SAN値管理ゲーかと思ったら意外と箱庭要素強いなw
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