【絢音】がんばれ絢音!
絢音は激怒した。必ず、かの鈍感なる幼なじみに、分からせねばならぬと決意した。
でも、どうすれば相手の心を動かせるんだろう?結衣の口から、どうやらライバルの存在が現れたと聞いたその瞬間、絢音の中に鋭い危機感が走った。
「でも、どうすれば……瞳の心を動かせるんだろう?」
最近、瞳がふとした瞬間にこちらを盗み見るような視線を感じることがある。
少なくとも、まだ自分には魅力がある。
そう信じたい。
「やっぱり……水着かな?」
絢音は全身鏡の前で自分の姿を見つめた。普段、瞳が時々自分を盗み見しているのに気づくことがある。
ということは、少なくともまだ彼にとって魅力はあるということだろう。
「でも、さすがにちょっと大胆すぎるよね……」
どれだけ長い付き合いでも、水着となるとやっぱり恥ずかしい。
顔を少し赤らめながら、絢音は考え直す。
「やっぱり、一緒に出かけるのが一番かな。今度こそ、私のことをちゃんと見てもらうんだから!」
絢音は拳を握って自分を奮い立たせ、そのまま瞳に電話をかけた。
「どうしたの?」
電話の向こうからは、いつもの優しく落ち着いた声が聞こえてくる。
その声だけで、胸が少し高鳴る。絢音は、瞳の声が昔からずっと好きだった。
時々、本気で「瞳がVtuberになったら絶対バズるのに……」なんて考えてしまうくらい。
頬を染めながら、少し戸惑った声で言った。
「あの……明日、時間ある? 一緒に出かけたいなって思って」
「明日? うん、大丈夫だよ。どこ行くの?」
「どこって……うーん……」
絢音は一瞬黙り込んだ。誘うことばかり考えていて、行き先は全然考えていなかった。
「もしかして、まだ決めてないの?」
瞳の笑い混じりの声に、絢音はちょっとムキになって答えた。
「とりあえず瞳が空いてるか確認してから、って思ってたの!」
「はいはい、じゃあ明日ってことで。何時にする?」
瞳は快く応じてくれ、特に詮索もしなかった。
「午前10時とかどう?」
「いいよ、じゃあ10時に」
「瞳はどこか行きたいところある?」
「どこだろうね……猫カフェとか?」
「うーん……前にうちの猫、ムムがめちゃくちゃ機嫌悪くなったから、それはやめとこう」
「映画は?」
「いいかもね。候補にしとこう。」
「じゃあ、まずは上映中の映画をチェックして、いいのがあったら観に行こう。それからランチして、午後はその時に決めるって感じでどう?」
「完璧なデートプランじゃん。なんでそんなに慣れてんの?」
「いや、だって何回も一緒に出かけてるし……ていうか、それってデートだったの?」
「もちろんでしょ?男女で二人きりで出かけるなら、それはもうデートなの」
「そのセリフ、なんか聞いたことあるような…」
「たぶん結衣ちゃんじゃない?私も彼女から聞いたんだよね」
「だと思った」
電話で話していたその時、さっき話題に出たムムが、のそのそと部屋に入ってきた。
金色の毛並みが美しい、シベリアンキャットだ。
「じゃあ、また明日ね。絶対に遅刻しないでよ?」
電話を切った絢音は、すぐそばにいたムムを抱き上げて、そのふわふわの体に顔をうずめた。
「にゃーん!」
ムムは少し不満そうに鳴いて、もぞもぞと腕の中から逃げ出した。
「ムーちゃん、つれない」
絢音は逃げていったムムを見つめて、口をとがらせたが、すぐに気持ちを切り替えた。
「よし、明日着ていく服を選ばなきゃ!」
絢音は大量の服をベッドの上に広げ、コーディネートを選び始めた。
「第一のコーディネート、ジーンズにTシャツ」
絢音は帽子をかぶり、ぴったりとしたジーンズで脚がより長く見え、若々しさにあふれていた。
鏡の中の自分をじっと見て、首を横に振った。
「ちょっと中性的すぎるわ。次!」
絢音はいつもよく着るワンピースに着替え、ショールを羽織ってくるりと一回転した。
「うーん……なんか、いつも通りすぎて新鮮味がないなぁ」
次は少し華やかなドレスに着替え、まるで高級なパーティーに行くような雰囲気だった。
「これはこれでちょっと大げさすぎるかも……」
絢音は眉をひそめ、考え込む。
枕の横に伏せているムムに目を向けて、問いかけるように視線を送った。
「ムちゃんはどう思います?」
ムムは顔を上げることなく、尻尾でぽん、とベッドを軽く叩いて返事した。
——明日は、絶対に“本気の私”を見せる。
そう、絢音は心に誓った。
「覚悟しててよね、瞳!」。
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