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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
六作目『異星の下:ラ=ライエの召喚』

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【弥紗】【異星の下:ラ=ライエの召喚】完全初見でやるぞおおおおおおお!#1【結城ニナ】

ほとんど潔癖症といっていいほど、整然とした部屋だった。

すべての物がきちんと片付けられ、装飾や色合いからしても「女の子の部屋」だとすぐに分かる。


茶色い髪の少女がパソコンの前に座り、その隣にはボブカットにラフなTシャツと短パン姿の少女が腰かけていた。


「ねえ弥紗、今日は何やるの?」

結衣は首を傾げる。

今日の弥紗はやけに秘密主義で、どんなゲームをするのか教えてくれない。

しかも、もう配信ソフトまで立ち上がっている。


「えっ、それに配信するの?」


弥紗は口角を上げてニヤリ。

「もちろんよ。先生の新作ゲームだぞ」


「お兄ちゃんの……新しいやつ?」

“ホラー”タグを思い出した瞬間、結衣の顔色がさっと青ざめた。


「そう。先生のホラーゲーム、一人でやるなんてムリだからね」

弥紗の笑顔は、どこか引きつっていた。

――もちろん、彼女自身も怖かった。

前に結衣に誘われて『退院』をプレイした時のトラウマが、今でも鮮明に蘇る。


だが弥紗にとって、先生のゲームは「やらない」という選択肢が存在しなかった。


「……私を巻き込んだでしょ!?」

結衣が信じられない顔で叫ぶ。


「この前、結衣も同じことしたじゃん。これでチャラだよ」


「はぁ……しょうがないなぁ」

結衣はため息をつき、観念したようにうなずいた。


「ありがと、結衣ちゃん!」

弥紗は結衣の腕にしがみつき、ブンブン揺さぶる。


「よし、設定オッケー。いくよ?」

結衣が小さくうなずくのを見て、弥紗は深呼吸をしてマイクに向かう。


「こんばんは~! 天川社所属の新人Vtuber、結城ニナでーす!」


いつもより高めの声。

画面に映ったのは、金髪ツインテールのギャル少女。

それが弥紗のネット上での姿――結城ニナ。


:こんばんは!

:今日もかわいい~

:お、ニナちゃんだ!


「こんばんは、ありがと~。今日遊ぶのはね……『異星の下:ラ=ライエの召喚』! 作者はもちろん、瞳中之景先生です!」


コメントが流れる。


:え、ホラータグついてたよな?

:悲鳴待機w

:つまり今日は……?


「ふふっ、よく気づいたね。実は秘密兵器を用意しました!」


:まさか!?

:キタ━━(゜∀゜)━━!!

:Yちゃん!?


「こんばんは~」

結衣が画面の向こうに挨拶する。


――そう。弥紗がホラーをプレイするときは、必ず結衣が呼ばれる。

そして「Yちゃん」として参加する結衣との掛け合いは、リスナーにとって欠かせない名物コーナーになっていた。


「じゃ、そろそろゲーム始めるよー!」

弥紗がゲームを起動する。

まず現れたのは――おなじみのクリーム色のシベリアンキャット。


「やっぱりかわいいね、この子」

弥紗が笑顔でコメント。


だが次の瞬間――。


「……ん?」

カメラが猫の瞳をアップにした途端。

そこに映った人影が、突如として無数の触手に変わり襲いかかってきた。


「ひぃっ!? うわあああ!」

不意打ちを食らった弥紗の悲鳴。

隣の結衣もつられて肩を震わせ、二人は思わず抱き合う。


画面が暗転し、「瞳中之景」のロゴが浮かび上がる。


「ちょ、いきなりは反則でしょ……!」

弥紗が涙目でぼやく。


:開幕悲鳴www

:作者、またロゴで遊んでるw

:悲鳴助かる



そして、キャラ作成画面が映し出される。

左にメインキャラ、右に二人の仲間――三枠に分かれている。


「おっ、職業とか性別選べるんだ。名前も自由につけられるね」

弥紗はわくわくしながら操作する。


「主人公はもちろん“ニナ”、女の子。職業は……学者、司祭、探索者、職人、農民……けっこう多いな。ニナはやっぱ探索者でしょ!」


仲間二人は司祭と職人を選び、それぞれ“Yちゃん”と“景”と名付けた。


「回復はYちゃんに任せるからね!」

ニナがにっこり笑う。


「はぁ……しょうがないなぁ」

結衣が苦笑しつつ答える。


:おお、Yちゃん司祭w

:ヒーラー似合いすぎ

:景くん職人ポジww


「オッケー、これでスタート!」

決定ボタンが押される。


――画面が暗転し、低い海鳴りのような音。

やがて波の音が近づき、視界が開けると、海岸に漂着した三人のドット絵キャラが立っていた。


「やっと辿り着いたな……」

主人公ニナが口を開く。

「船はもうボロボロだな」

Yちゃんのキャラが海辺の残骸を見ながら呟く。

「使えそうな物、残ってるといいけど……」

ニナは肩を落とす。


「なるほど、チュートリアルって感じかな」

弥紗がキーボードを操作する。

移動はWASD、ジャンプはスペースキー、攻撃と防御はマウス左右。


船を探索すると、武器や装備を発見。

「やった! 装備ゲット!」

ニナが嬉しそうに装着する。

……だが船を出た瞬間、轟音とともに、船は跡形もなく崩れ去った。


「あぁぁぁ、私の船~~!」

弥紗が悲鳴を上げる。


:船www一瞬で壊れたw

:悲鳴芸きた

:Yちゃん冷静で草


「私たちの拠点を探さないと。できるだけ海から離れた場所がいいな。夜になれば、海から怪物が這い出してくる」

Yちゃんキャラが淡々と告げる。


「怪物!? そんなの聞いてない!!」

ニナの目が見開かれる。


「ホラー要素もう来たの!?」

結衣もごくりと唾を飲み、画面を凝視。


ニナは二人の仲間と共に内陸へ。

Yちゃんの指示どおり木を切り、土を掘り――ようやく日が暮れる前に小屋を完成させた。


「セーフ! 間に合った!」

弥紗が胸をなで下ろす。


:拠点完成おめ!

:セーフ

:夜が怖いぞ~~


そして――

闇が、音もなく訪れた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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