【弥紗】【異星の下:ラ=ライエの召喚】完全初見でやるぞおおおおおおお!#1【結城ニナ】
ほとんど潔癖症といっていいほど、整然とした部屋だった。
すべての物がきちんと片付けられ、装飾や色合いからしても「女の子の部屋」だとすぐに分かる。
茶色い髪の少女がパソコンの前に座り、その隣にはボブカットにラフなTシャツと短パン姿の少女が腰かけていた。
「ねえ弥紗、今日は何やるの?」
結衣は首を傾げる。
今日の弥紗はやけに秘密主義で、どんなゲームをするのか教えてくれない。
しかも、もう配信ソフトまで立ち上がっている。
「えっ、それに配信するの?」
弥紗は口角を上げてニヤリ。
「もちろんよ。先生の新作ゲームだぞ」
「お兄ちゃんの……新しいやつ?」
“ホラー”タグを思い出した瞬間、結衣の顔色がさっと青ざめた。
「そう。先生のホラーゲーム、一人でやるなんてムリだからね」
弥紗の笑顔は、どこか引きつっていた。
――もちろん、彼女自身も怖かった。
前に結衣に誘われて『退院』をプレイした時のトラウマが、今でも鮮明に蘇る。
だが弥紗にとって、先生のゲームは「やらない」という選択肢が存在しなかった。
「……私を巻き込んだでしょ!?」
結衣が信じられない顔で叫ぶ。
「この前、結衣も同じことしたじゃん。これでチャラだよ」
「はぁ……しょうがないなぁ」
結衣はため息をつき、観念したようにうなずいた。
「ありがと、結衣ちゃん!」
弥紗は結衣の腕にしがみつき、ブンブン揺さぶる。
「よし、設定オッケー。いくよ?」
結衣が小さくうなずくのを見て、弥紗は深呼吸をしてマイクに向かう。
「こんばんは~! 天川社所属の新人Vtuber、結城ニナでーす!」
いつもより高めの声。
画面に映ったのは、金髪ツインテールのギャル少女。
それが弥紗のネット上での姿――結城ニナ。
:こんばんは!
:今日もかわいい~
:お、ニナちゃんだ!
「こんばんは、ありがと~。今日遊ぶのはね……『異星の下:ラ=ライエの召喚』! 作者はもちろん、瞳中之景先生です!」
コメントが流れる。
:え、ホラータグついてたよな?
:悲鳴待機w
:つまり今日は……?
「ふふっ、よく気づいたね。実は秘密兵器を用意しました!」
:まさか!?
:キタ━━(゜∀゜)━━!!
:Yちゃん!?
「こんばんは~」
結衣が画面の向こうに挨拶する。
――そう。弥紗がホラーをプレイするときは、必ず結衣が呼ばれる。
そして「Yちゃん」として参加する結衣との掛け合いは、リスナーにとって欠かせない名物コーナーになっていた。
「じゃ、そろそろゲーム始めるよー!」
弥紗がゲームを起動する。
まず現れたのは――おなじみのクリーム色のシベリアンキャット。
「やっぱりかわいいね、この子」
弥紗が笑顔でコメント。
だが次の瞬間――。
「……ん?」
カメラが猫の瞳をアップにした途端。
そこに映った人影が、突如として無数の触手に変わり襲いかかってきた。
「ひぃっ!? うわあああ!」
不意打ちを食らった弥紗の悲鳴。
隣の結衣もつられて肩を震わせ、二人は思わず抱き合う。
画面が暗転し、「瞳中之景」のロゴが浮かび上がる。
「ちょ、いきなりは反則でしょ……!」
弥紗が涙目でぼやく。
:開幕悲鳴www
:作者、またロゴで遊んでるw
:悲鳴助かる
そして、キャラ作成画面が映し出される。
左にメインキャラ、右に二人の仲間――三枠に分かれている。
「おっ、職業とか性別選べるんだ。名前も自由につけられるね」
弥紗はわくわくしながら操作する。
「主人公はもちろん“ニナ”、女の子。職業は……学者、司祭、探索者、職人、農民……けっこう多いな。ニナはやっぱ探索者でしょ!」
仲間二人は司祭と職人を選び、それぞれ“Yちゃん”と“景”と名付けた。
「回復はYちゃんに任せるからね!」
ニナがにっこり笑う。
「はぁ……しょうがないなぁ」
結衣が苦笑しつつ答える。
:おお、Yちゃん司祭w
:ヒーラー似合いすぎ
:景くん職人ポジww
「オッケー、これでスタート!」
決定ボタンが押される。
――画面が暗転し、低い海鳴りのような音。
やがて波の音が近づき、視界が開けると、海岸に漂着した三人のドット絵キャラが立っていた。
「やっと辿り着いたな……」
主人公ニナが口を開く。
「船はもうボロボロだな」
Yちゃんのキャラが海辺の残骸を見ながら呟く。
「使えそうな物、残ってるといいけど……」
ニナは肩を落とす。
「なるほど、チュートリアルって感じかな」
弥紗がキーボードを操作する。
移動はWASD、ジャンプはスペースキー、攻撃と防御はマウス左右。
船を探索すると、武器や装備を発見。
「やった! 装備ゲット!」
ニナが嬉しそうに装着する。
……だが船を出た瞬間、轟音とともに、船は跡形もなく崩れ去った。
「あぁぁぁ、私の船~~!」
弥紗が悲鳴を上げる。
:船www一瞬で壊れたw
:悲鳴芸きた
:Yちゃん冷静で草
「私たちの拠点を探さないと。できるだけ海から離れた場所がいいな。夜になれば、海から怪物が這い出してくる」
Yちゃんキャラが淡々と告げる。
「怪物!? そんなの聞いてない!!」
ニナの目が見開かれる。
「ホラー要素もう来たの!?」
結衣もごくりと唾を飲み、画面を凝視。
ニナは二人の仲間と共に内陸へ。
Yちゃんの指示どおり木を切り、土を掘り――ようやく日が暮れる前に小屋を完成させた。
「セーフ! 間に合った!」
弥紗が胸をなで下ろす。
:拠点完成おめ!
:セーフ
:夜が怖いぞ~~
そして――
闇が、音もなく訪れた。
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