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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
【三周目】一作目『エンドレス・エクスペディション』
78/84

今日の放課後、時間ある?君にちょっと話したいことがあってさ

ゲームが大ヒットしてから、もうしばらく時間が経った。

もし最初からこんな結果が出ていたら、瞳はきっと天にも昇るような気分で、舞い上がってたかもしれない。

でも、あの苦しい時期があったおかげで、今の瞳は地に足をつけて、自分をしっかり見つめ直すことができた。


「絢音にはちゃんとお礼を言わないとね」


ほとんど確信に近かった、絢音が「鈴宮琉璃」であるということは。


「でも、どうやって切り出そうか……」

絢音が自分からは何も言っていない以上、瞳の方からそれを口にするべきか迷っていた。

彼女はあくまで助けるために行動してくれただけで、もしかしたら秘密にしておきたいのかもしれないのだ。


悩みに悩んだ末、瞳はやはり絢音に正直に話すことを決めた。

あれだけ助けてもらっておきながら、何も知らないふりをするのは、かえって不誠実な気がした。

それに、ゲームでこれだけ稼げたのだから、せめて食事くらいはご馳走して、ちゃんとお礼をしたい。



元々、瞳は朝一で直接絢音に伝えようとしたが、

万が一、誰かに聞かれでもしたら──絢音に迷惑がかかるかもしれない。

だからこそ、放課後に二人きりで話す時間を作る必要があった。


そんな思いを胸に、瞳はスマホを手に長く文章を考えた末、ようやくメッセージを送った。



【放課後、時間ある?ちょっと話したいことがあって】



「!?」


スマホを見た絢音は、勢いよく立ち上がり、椅子が床に大きな音を立ててずれた。


「絢音ちゃん、大丈夫?」


近くのクラスメイトが心配そうに声をかける。


「はは、なんでもない。ただ、虫が急に出てきてびっくりしただけ〜」


絢音は照れくさそうに笑いながらそう答え、椅子に座る前にちらりと瞳を見た。

その視線には、驚きと少しの戸惑いがにじんでいた。


【いいよ】


返ってきたのは、たった一言のシンプルな返事だった。


それから瞳は時折、絢音の視線を感じるようになった。

顔を上げて何か聞こうとすると、絢音は赤くなってすぐに視線を逸らしてしまう。


「なあ長谷川、お前さ……今日、清水さんがずっとお前のこと見てない?」


佐藤までもが気づいたようで、こっそり耳元でささやいた。


「なんかやらかして、まだ謝ってないんじゃないの?」


「いや……心当たりはないけど……?」


瞳はしばらく考えてみたが、特に思い当たる節はなかった。


だが、絢音の様子はその後も落ち着くことはなかった。一日中どこか上の空で、仲のいい女子からも心配されるほどだった。


「絢音ちゃん、大丈夫?体調悪い?」

「大丈夫だよ、心配しないで。ただちょっと、考えごとしてただけ」

「何かあったら、ちゃんと言ってね?」


絢音は胸の前で両手を軽く振って、「大丈夫だよ」と笑顔を見せた。


放課後、校門を出たすぐに二人は合流した。


「じゃあ、行こうか」

「うん」


少し緊張した面持ちの絢音が、素直に瞳の後ろをついていく。

そして二人が向かったのは、近くのカフェだった。


店内に入った瞬間、絢音はきょとんと首を傾げる。

「……カフェ?」


「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」

若いウェートレスが注文を取り行ってきた。


「何でも好きなもの頼んでいいよ。今日は俺のおごりだから」

「えっ、じゃあ……紅茶でお願いします」

絢音は少し挙動不審にあたりを見回し、それから小さな声で答えた。

「俺も紅茶で。何か食べたいものはある?」

瞳も自分の飲み物を注文し終えると、絢音に尋ねた。

「ううん、大丈夫。……それより、お話って?」

だが絢音は、そんなことよりとばかりに、緊張した様子で尋ねた。

「おっと、いきなり本題に入るとは……」


瞳は緊張を隠すように、深く深呼吸をした。

これだけ親しいのに、こうしてちゃんと感謝の言葉を伝えるのは、なんだか照れくさい。


「この前は、助けてくれてありが……」

絢音は目をぎゅっと閉じ、大きな声で答えた。


「はいっ!……えっ?」


目を開けた絢音は、一瞬、瞳の言葉の意味がわからなかったようだった。


「……えっ?」


二人は顔を見合わせ、しばし沈黙。


瞳はちょっと戸惑いながらも、話を続けた。


「この前、君の配信見たよ。あれのおかげで、ゲームめっちゃ売れてさ」


「……あ、うん。おめでとう」


絢音の脳内でようやく状況が整理された。

彼女はそっと目を逸らし、ぼそっとつぶやく。


「なーんだ、そっちか……。てっきり、あの木偶がやっとデレてくれたのかと……思ったのになぁ〜……」


「え、何か言った?」


「べっつに!」

絢音はムッとしながら、少し怒ったように答えた。


「今日、あんたの奢りなんでしょ?」


「う、うん」


「じゃあ、一番高いスイーツを……二つで」


怒りと悲しみを食欲に変換した絢音は、スイーツをガツガツと食べ始めた。

食べる合間にも、ちらちらと睨むように瞳を見上げる。


「……やっぱり怒ってる?」

瞳はそっと前に差し出されたスイーツに視線を落としながら、探るように声をかけた。

「べつに」

「俺、なんかやらかした……?」

「怒ってないけど?」


そう言いながらも、絢音はじっと瞳を見つめたまま、

やがてふっと息をついて、どこか諦めたように微笑んだ。


「……もう、ほんとバカ。

でも……ふふ、よかった。売れて、本当によかったね」


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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