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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
六作目『異星の下:ラ=ライエの召喚』

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78/116

七夜夢のスタッフチームは化け物か!?

最近、掲示板やSNSで名前を見かけるようになったゲームがある。


ジャンルはサンドボックス。

しかも、まだ体験版にすぎない。


――それなのに、天川社をはじめとするVTuberたちが配信で次々と取り上げ、一気に注目を浴びていた。


画面に広がるのは『瞳中之景』がいつも通りハイクオリティなドット絵。

そこにキャラクターたちの神秘的な雰囲気が重なり、プレイヤーの期待はいやがうえにも高まっていく。


【完成版に期待】

【今年一番楽しみなゲーム】

【金出すから早く作れ】


――そんなコメントが画面を埋め尽くす。


「瞳、見て見て! みんなすごい盛り上がりだよ!」

ベッドに腰を下ろした絢音が、スマホを掲げてはしゃいだ。


「はは……こりゃ下手なものは作れないな」

瞳は苦笑したものの、胸の奥ではじわりとプレッシャーが膨らんでいく。


枠組みを作り終え、ゲーム性が認められたと分かったその瞬間。

瞳はすぐさま七夜夢へ連絡を入れていた。

――一人で作るなら、どうあがいても数か月はかかる。

順調に進んだとしても、だ。


新入部員を勧誘するためなら、もはや手段を選んでいる場合ではなかった。


「ねえ瞳、完成版っていつ頃になりそう?」

最初のブロック版から、いまの綺麗な体験版まで遊んできた絢音は、期待を隠しきれない。


「……一か月後、かな」

「えっ、早っ!? ゲームってそんなスピードで作れるの!?」

大きな瞳がさらに丸くなる。


「七夜夢だからこそ、だな」

そう答えながらも、瞳自身が一番驚いていた。

小規模とはいえ、テスト込みで一か月完成など常識ではあり得ない。


――だが、黒崎さんに言わせれば。

「怪物」は七夜夢ではなく、短期間でフレームを組み上げた瞳自身なのだろう。


実際、七夜夢に任せているのは、ほとんどが瞳の仕様どおりの作業だ。

キャラクターデザインに至るまでラフを用意している。

熟練の制作チームどころか、大学生グループに投げてもそこそこの完成品ができるレベルだった。


「やった! 一か月後には遊べるんだ!」

「うん……でも新入生の勧誘シーズンには間に合わないな」

ため息をこぼす瞳。結局はチラシを刷って配るしかない、と考える。


「それは仕方ないよ。安心して、私も一緒に配るから!」

「……助かる」

そう言ってパソコンへ向き直ると、瞳は制作理念の整理に取りかかった。


出す時は完成品がまだないから、説得力は弱い。

それでも――やっておいて損はない。


「さて、何から書こうか……まずは題材の発想だな」


サンドボックスを選んだ理由。

なぜクトゥルフを題材にしたのか。


理由は単純だった。

サンドボックスはまだ作ったことがなく、挑戦してみたかった。

クトゥルフは――ただ、好きだから。


「いや、これじゃ……だめか」

瞳は眉をひそめ、書き直そうとする。


「そう? 私は瞳らしくていいと思うけどな。好きって、一番の原動力でしょ?」

絢音が身を乗り出し、興味津々で画面を覗き込む。


――「好き」

その一言に、ほんの少し心臓が跳ねた。

平静を装い、瞳は答える。


「まあ……間違ってはいないけど。でもこれじゃ、人を惹きつけられない気がする」

「ははっ、それは確かに」


瞳は数秒考え込み、現実的な分析へと切り替える。


ドット絵なら必要なリソースが少なく済む。

複雑なプログラムも不要で、素材も作りやすい。

テキストとデザインを固めれば、制作の難度は高くない。


そしてクトゥルフ。

確かにメジャーではないが、だがハマった者はコアなファンになる。

そこに【異化】を核としたゲーム性を組み込む。


供物を捧げれば捧げるほど、プレイヤーは邪神に近づき――

やがて怪物へと変貌し、神秘に抗う力を手にする。

けれど、知れば知るほど狂気に沈むのがクトゥルフの真骨頂。


だからこそ、クラシックなSAN値を導入した。

SAN値が下がれば、相応のデメリットが発生する。


「でも、細かく書きすぎるとネタバレにならないかな」

瞳は別の懸念を思いついた。

物語で後の展開を先にバラされるのが最悪なように、ここでも詳細を書きすぎれば遊ぶ気を削いでしまうかもしれない。


「推理小説の冒頭で犯人の名前に赤線引く感じ?」

絢音は首を傾げながら例を挙げた。


「いや、それは悪質すぎるだろ……」

瞳は思わず背筋がぞわっとした。


「じゃあ、どうするの?」

「うーん……発想の仕方とか、デザインのときに考えたこととか。そのあたりに絞るのがいいかな」

「ふむふむ、それは面白そう。普段なかなか知れないしね。ゲームデザイナーがどんなことを考えて作っているのかって」


「よし、じゃあこの方向で書いてみるか」

絢音に賛同され、瞳はやる気を増し、指をほぐして再びキーボードを叩き始めた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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