瞳:これが生き残る為の俺の足掻きだ!
昼休みの時間、クラスメイトたちはそれぞれいくつかのグループに分かれて雑談していた。
瞳はひとり自分の席に座り、どこか暗そうな表情を浮かべていた。
(やばい、全然売れてないな……)
瞳はスマホでバックエンドのデータをちらりと見て、ため息をついた。ゲームをリリースしてからすでに半月が経っていたが、ダウンロード数はわずか数十。
レビューも一、二件しかなかった。
最初は自信満々だった。自分はゲーム制作の天才だと信じていて、この一本で一気に有名になれる、そうすれば好きなゲームを自由に作れるようになる――そう思っていた。
だが、現実はそんな甘いものではなく、瞳の自信は打ち砕かれ、人生そのものに疑問を感じ始めていた。
「もしかして俺、才能ないのかな……いや、まだ舞える。今、足掻かないと」
瞳は独り言をつぶやきながら、自分を奮い立たせるように頭を激しく振った。
その様子は、誰かに見られていることに彼は気づいていなかった。
「そろそろ、宣伝の手でも考えないとな……」
瞳はぽつりとつぶやいた。
「宣伝って、何のこと?」
瞳の右肩の後ろから、絢音が体を少し乗り出しながら微笑んで尋ねた。
「うわ、近っ……いや、なんでもない。ゲームの宣伝の話だよ、この前にゲーム出したでしょう」
考え込んでいた瞳は驚いたが、あやねの顔を見てほっとしたように答えた。
「『エンドレス・エクスペディション』のこと?」
「そう、それ。笑っていいよ。今んとこ、売れたのは数十本だけだし」
瞳はため息混じりに答えた。
「あ……うん、なんか思ったより反響ないんだね。あんなに面白いゲームなのに」
絢音は少し悔しそうに言った。
これは慰めではなかった。絢音は本気でそう思っていた。実は発売日当日に正式版を購入していたのだが、ある理由でまだプレイできずにいた。
「ありがとう」
瞳はそれをただの慰めだと思い、苦笑しながら礼を言った。
「まあ、新人が作った無名タイトルだし……こうなるのも仕方ないのかも」
瞳は自分に言い聞かせるように、静かに返した。
そんな瞳の姿を見て、絢音は何かを決意したように黙って彼を見つめていた。
家に帰った瞳は、どこから宣伝を始めるべきかを考えていた。
「SNSには一通りアカウントを作ったし、配信プラットフォームにも自分のチャンネルを作った方がいいのかな?」
瞳は少し迷っていた。SNSでは『エンドレス・エクスペディション』の素材や画像を定期的に投稿しており、多少の閲覧者はいるけど、明らかに購買につながっていない。
「でも、喋るのはあまり得意じゃないし……。じゃあ、ゲーム関連の動画だけ上げるとか?」
しかし、瞳はゲーム素材を制作していた当初、それを宣伝に使うことは想定しておらず、イラスト制作の過程などを録画していなかった。
「まさか、自分でプレイ動画とか……うーん、キツいよな」
自分で作ったゲームを本人がプレイして宣伝するなんて、考えただけでも切ない。
「とりあえず、チャンネル作るだけ作っとくか」
瞳は配信プラットフォームにアクセスし、アカウントを作成した。そして動画アップロード欄を見つめながら、何を投稿すればいいか迷っていた。
「そうだ、宣伝用のPVを作ろう」
瞳はひらめいた。パソコンにある素材を活用して、プロモーションビデオを編集できないかと考えた。少しでも宣伝効果があればと思って。
「でも、まずは作り方を調べないと。無料のソフトがあるといいんだけど」
瞳はインターネットで検索し、実際に試用可能なソフトがいくつかあることを確認した。
「よし、作り方チェックしてみよう。うーん、そんなに難しくなさそう」
瞳はいくつの動画を見ながら、簡単な編集であれば自分にもできそうだと感じた。
「ん?」
ピロン、と通知音が鳴り、瞳に新しいメールが届いたことを知らせた。
「天川社からのメール……?」
調べてみると、天川社はVTuberをマネジメントする事務所で、有名な配信者も何人か所属しているらしい。VTuberに詳しくない瞳でも、聞いたことのある名前ばかりだった。
そのメールには丁寧な言葉で、こう記されていた。
彼らの新人配信者「鈴宮琉璃」が、瞳のゲームに強い興味を持ち、実況配信と動画アップロードを希望しているという。
さらに、紹介用の短い推薦コメントの例文まで添えられていた。
瞳はほとんど迷うことなく、すぐに返信した。
「もちろん大歓迎です!」
瞳にとっては、まさに救いの一手だった。
メールを送り終えると、瞳はすぐに「鈴宮琉璃」について検索をかけた。
ヒットしたチャンネルページには、ミルク色のロングヘアに眼鏡をかけた、桜色の雰囲気をまとう美少女が映っていた。
彼女はたぶん二十歳前後で、白いワンピースの上から薄桜色の肩掛けを羽織っている。
チャンネルには様々なゲーム実況のアーカイブが並んでおり、瞳はその中から一つを適当にクリックして視聴してみた。
「……ん? この声、どこかで……」
少しトーンは違うけれど、耳に馴染みのある声。
「いや、まさかね……」
瞳は思わず自分の耳を疑った。
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