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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
番外編『狐の巫女』DLC

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75/116

【晴香】この妹、小悪魔的

「十六世紀の頃、一番主流だった絵画の技法は……」

壇上の教授が身振り手振りを交えて真剣に講義をしている。


(の中が一人のキャラのことでいっぱいになるのは、いつぶりだろう……)

晴香は授業を受けながら、無意識のうちにノートに灰の落書きをしていた。


気づけば、教授はすでに荷物を片づけている。

「はい、今日はここまで。次回は第三章を予習しておくように」


「晴香、もう次の授業はないよね? 一緒に買い物行かない?」

仲のいい友人が声をかけてくる。

「ごめん、今日はちょっと用事があるから……また今度ね~」

晴香は謝りつつ荷物をまとめ、足早に教室を後にした。


幸い、これが今日最後の授業だった。

だからこそ、晴香は授業をサボらずに真っ直ぐ帰ることができた。


――家に帰るとすぐ、晴香はパソコンを立ち上げ、配信予定の告知をSNSに投稿した。

「よし、三十分後に配信しよう」


「そうだ、水も」

ミネラルウォーターを机に置き、晴香は慣れた手つきで配信ソフトとゲームを起動、作っておいた配信用サムネイルを素早く設定する。


「こんにちは、鈴宮あさみです。今日も『狐の巫女と天気雨』のDLCを続けてプレイしていきます」


:珍しい、連続で配信なんて

:やった!家に帰ったら配信始まってた!

:こんにちは~


「今回は妹、雪のルートをやります」

そう言って、晴香はゲームスタートを押した。

雪の物語は、姉と同じく、山神様が再び眠りについた時点から始まる。


雪「宮崎様、あれは何ですか?」

強気で快活な灰とは違い、雪は世間知らずのお嬢様のようで、いつも目を輝かせて主人公にあれこれ質問してくる。

街で偶然会う機会が増えるにつれて、最後には灰が不機嫌そうに雪を連れて帰ることが多いものの、二人の距離は次第に縮まっていった。


――ある日。


祐真「お邪魔します」

雪に招かれ、祐真は雪の家を訪れた。


雪「いらっしゃいませ」

和服姿の雪が車椅子を押しながら迎えてくる。


祐真「灰さんは?」

見回しても灰色のジャケットを着た灰の姿はなく、祐真は少し首をかしげる。

雪「お姉さま? 今日は家にいないよ」

祐真「え?」

雪「ふふっ、今日は家には私たち二人だけなんだ」

袖で口元を隠し、雪は妖艶な笑みを浮かべた。


――主人公と親しくなるにつれ、雪は人をからかう小悪魔的な一面を見せ始める。

ただし、そのからかいは絶妙で、嫌味ではなくむしろ可愛らしいギャップに見えてしまう。


「これは……誘惑してるよな? 絶対そうだよな?」

晴香は息を弾ませながら呟いた。まさに「家に誰もいない」シチュエーションだった。


:行け!今日はその日だ!

:興奮しすぎてて笑うw

:抱け!抱け!


主人公は車椅子を押して雪の部屋へ。

――普通の女の子らしい、整った淡色系の部屋。ベッドには小さな灰色のオオカミのぬいぐるみが置かれていた。


祐真「ここが雪さんの部屋ですか?」

雪「そんなにじっと見ないで、恥ずかしいから」

祐真「あ、す、すみません」

雪「宮崎様、ごめんなさい、椅子がないからベッドに座ってください。少しお話ししましょう」

祐真「わかりました。でも雪さん、何度も言ってるけど、“様”はやめてくれませんか? 背中がむずむずします」

雪「いいよ。その代わり、祐真くんも私のこと“雪”って呼んでね」

祐真「え、それは……」

雪は潤んだ瞳でじっと見つめてくる。

雪「だめ……かな?」

祐真は一瞬迷ったが、決心した。

祐真「わかった、雪」

雪は嬉しそうに微笑む。

雪「うん、祐真くん。これからもよろしくね」


――呼び方が変わると、二人の距離は一層近づいた。

だが二人の間に立ちはだかる最大の障害は、やはり姉・灰だった。


灰「お前がいいやつなのは認める。だが私の可愛い妹を、お前みたいな弱っちい奴に任せるわけにはいかない」

これは灰の口癖のようなもので、祐真が二人の家を訪れた時にもまた言われた。


雪「お姉さま?」

笑顔を浮かべながらも、雪の瞳は笑っていなかった。

灰「いや、だって、あいつは人間だぞ」

雪「お姉さま」

灰「……わかったよ」

雪「じゃあお姉さま、しばらく祐真くんと二人きりにしてくれる?」

灰「なっ!?」

雪「お願い、お姉さま」

灰「……わかった」

肩を落とし、負け犬のように灰は部屋を後にした。


「お姉ちゃん弱っ!?」

昨日見た颯爽とした灰狼の姿と、今のしょんぼりした様子がどうしても結びつかず、晴香は目を丸くした。


:いや、雪ちゃんが強すぎるだけではw

:落ち込んでる灰も可愛いw


雪「さっきお姉さまが言ったこと、あまり気にしないでね」

祐真「でも、灰さんの言うことも一理ある。僕はただの人間だから」

雪「祐真くんでも、私の好きな人を悪く言っちゃダメだよ」

祐真「え?」

雪「本当に鈍感だね……まぁ、そういうところも可愛いけど」

そう言って雪は祐真の手を握る。

雪「私、祐真くんのこと好きだよ。祐真くんは? 私のこと好き?」

不意打ちの告白に呆然とした祐真は、ようやく思考を取り戻す。

祐真「もちろんだ。僕も君が好きだよ、雪」


雪「それとね……お姉さまは言わないけど、祐真のこと好きだと思うよ」

祐真「えっ?」

雪「だから、もし祐真が望むなら……三人で一緒になるのもありだよ」


【冗談はやめて、僕は雪だけを好きだ】【君たちは両方、僕の翼だ】


「な、三人一緒!?」

選択肢が出た瞬間、晴香は衝撃を受けた。


:うおおおおお!

:これ無料で見せていいのかw


「うん、みんなの言う通り。今回はソロルートだけ選ぶよ。翼エンドを見たい人は各自でプレイしてね」

そう笑って、晴香は「雪だけを好きだ」を選んだ。


雪はしばらく祐真を見つめ、やがて破顔する。

雪「ふふっ、冗談だよ」


~fin~


「まさかの罠!?」

エンディングを見終えた晴香は衝撃を受けつつ、配信を締めくくった。


「面白かった!では、次の配信でお会いしましょう、またね~」


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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