部活と衝撃の事実
新学期が始まってしばらく経ち、学校の勧めもあって、ほとんどの生徒が自分の興味のある部活動を選び始めていた。
瞳が気になっていたのは、『ゲーム研究部』だった
自分でゲームを作ることに少しでも役に立てばと思っているのだ。
「よう、長谷川、お前はもう入る部活決めたか?」
隣に座っている茶髪の少年は、入学初日に派手に目立ったものの、女子たちに総スカンを食らった佐藤だった。
だが本人はあまり気にしていないようで、相変わらずニコニコしている。
「俺?たぶんゲーム研究部かな。佐藤は?」
「もちろん野球部だよ!」
佐藤はバットを振るような仕草をしてみせた。
瞳は以前、佐藤との会話の中で、彼がスポーツ推薦でこの学校に入ったこと、そして中学の時にチームを優勝に導いたことを知っていた。
そんなすごい人物には見えず、どう見てもただのチャラ男だった。
「言っとくけどな、俺調べたんだ。学生時代に一番モテるのは運動部なんだぜ!」
佐藤は得意げに親指で鼻をこすりながら言った。
「そうかもね。っていうか、それが理由で野球やってんの?」
「当たり前だろ!他に理由なんてあるかよ?」
あまりにも当然のように言い切る佐藤に、瞳は一瞬言葉を失った。
「でもさ、ゲーム研究部って、なんか楽しそうじゃね?一日中ゲームしてる感じ?」
「どうだろう……でも“研究部”っていうくらいだから、多少は研究するんじゃない?」
瞳も少し不安になってきた。ただゲームをするだけなら、入る意味はあまりないかもしれない。
「そうだ、お前聞いたか?」
佐藤が話題を変え、声をひそめて意味深に尋ねた。
「何の話?」
「清水さん、また告白されたらしいよ」
「また告白されたの?」
その話を聞いて、瞳は少し複雑な表情を浮かべた。
絢音が美少女で、昔から人気があることは分かっていたが、幼馴染である彼女が頻繁に告白されるのは、あまり気分のいいものではなかった。
とはいえ、自分たちはあくまで幼馴染。それ以上の関係ではないし、何か言う立場でもない。
そう思うと、瞳はほんの少し眉をひそめた。
「今回も断ったらしいぜ」
佐藤の話を聞いて、なぜか、瞳は少しホッとした。
「そうか」
「ほんとにすごい。もう何人目の撃沈した勇者かわからないよな」
佐藤はどこか楽しそうに言った。
「俺から言わせてもらえば、長谷川、お前の方がまだチャンスあると思うけどな」
「俺?どうしてそう思うんだよ?」
「だってさ、少なくとも見た目はクラスでも上位だろ」
「そんなことないって。俺なんか今まで一度も告白されたことないぞ」
「お前、自覚なさすぎだな。うちの学校の一年生の『付き合いたい人ランキング』で、お前は第七位だぞ?ちなみに清水さんは全学年で第三位。ま、クラス一の美少女だからな」
「えっ、うちの学校にそんなのあったの?」
瞳は意外そうに聞き返した。学校にそんなものがあるとは思ってもみなかった。
「当然だろ?どこの学校にもあるって!俺は新聞部の友達から聞いたんだけど」
佐藤は当然のように言った。
「へえ、そうなんだ。じゃあ佐藤、お前は何位だったの?」
瞳は半分興味ありそうに問いかけた。
佐藤は悔しそうに答えた。
「いや、俺はランク外だった……」
「嘘だろ?」
瞳は少し驚いた。数日間接してきた感じでは、軽い性格で口が悪いところはあるが、根は悪くない。
顔も悪くないし、スポーツ万能。少し落ち着きに欠ける以外、これといった欠点は見当たらなかった。
「慰めてくれてありがとうな。お前、本当いいやつだよ……」
佐藤は感動した様子で目頭を拭き、大きなため息をついた。
「そういえば、清水さんと同じ中学だったんだよな?」
「うん、それがどうかした?」
「いや〜羨ましいよ。毎日あんな綺麗な子を見れるなんてさ」
「なになに?私の話、してた?」
制服姿のポニーテールの少女が、好奇心いっぱいにこちらへ近づいてきた。まさにさっき話題に上がっていた清水絢音だった。
制服をぴったりと着こなし、短い袖からのぞく白い腕が、思わず目を引いた。
「おはよう、佐藤くん、そして瞳」
「おはよう、絢音。いや、ただ部活の話をしてただけで……」
瞳は反射的に返事をした。
「……あっ」
「瞳?と……絢音?」
教室内の騒がしい声が一瞬で止み、ほぼ全員の視線がこちらに集まった。
「えっ、まさか……」
佐藤は震える指で二人を指しながら尋ねた。
「え、言ってなかったっけ?私たち、幼馴染なんだよ」
絢音は特に隠す様子もなく、さらりと言った。
「「幼馴染!?」」
衝撃の事実にクラスは騒然となり、二人を中心に質問の嵐が巻き起こった。
「いつから知り合いなの?」
「小学校からだよ」
絢音はにこにこしながら、次々に寄せられる質問に答えていった。先生が教室に入ってくるまで、その騒ぎは止まらなかった。
そして皆が席に戻っていく中——
「なんであんなあっさり言っちゃうのさ……」
クラスメートの熱意に少し疲れた瞳は、小さなため息をついて呟いた。
「え、誰にも知られたくなかったの?」
絢音は瞳をちらりと横目で見た。
「いや、絢音が気にしないなら、別に……」
「って、なんの部活に決まった?」
「俺はゲーム研究部かな」
「いいじゃん、そんな部活あるのか、私も入ろうか」
「後で一緒に聞いてみる?」
絢音はもう一度こっそりと瞳を見つめ、彼が本当に気にしていないと分かると、思わず口元が緩み、まるで心まで軽くなったかのように、軽やかな足取りで自分の席へと戻っていった。
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