長谷川瞳はゲームクリエイターになりたい
「よし、みんな自己紹介も終わったし、そろそろ講堂に集合しようか。」
先生の一声で、全員が指示に従って講堂へと向かう。
ここからは誰もが知っているお決まりの流れ――学校の偉い人たちによる長い挨拶だ。
でも、瞳の意識は壇上の方ではなく、ゲームのことを考えていた。
昔から、瞳はさまざまな世界を冒険する妄想をするのが好きだった。
小学生の時に両親からもらったゲーム機が、その想像力を現実へと引き寄せた。
いつからか、ひとつの思いが心に芽生えた。
――自分もゲームを作りたい。
頭の中の世界を、現実にしたい。
最初は、紙に世界観を書き出して、その中に登場するキャラクターやモンスターを描いたり、
友達と「こんな世界なら、どんな冒険があるかな」と語り合ったりするだけだった。
けれど、だんだんと本格的にゲームを作りたいという気持ちが強くなった。
そして、高校に進学したのをきっかけに、瞳は決心した。
――ゲームクリエイターになろう。
ゲームの大まかな枠組みはすでに出来上がっているが、まだまだ問題も多い。
「昨日、なんでか分からないけど、ラスボスが主人公にめっちゃ回復かけてきたんだよな。どこがバグってんだ……?」
システムのどの部分が原因なのか、どこから手を付けるべきかを考えているうちに、時間はあっという間に過ぎて、講話は終了した。
「それじゃ、みんな気をつけて帰るように。寄り道しないでね。」
「もうこんな時間か……」
そのときになってようやく我に返った瞳。
隣では佐藤が手を振っていた。
「じゃ、先に帰るわ、じゃね~」
「またね」
ゆっくりと校門を出た瞳は、あたりを見回す。
けれど、見たいと思っていた姿は見つからなかった。
このまま、二人は少しずつ疎遠になっていくのだろうか――そう思うと、自然とため息が出た。
「何見てるの? それとも、私のこと待ってた?」
背後から聞き慣れた声がして、瞳はびっくりして振り返る。
そこにいたのは、やっぱり見慣れたあの姿だった。
ポニーテールに高校の制服。
幼馴染の清水絢音は、どこか新鮮な雰囲気をまとっていた。
子供の頃から彼女が美人だということは知っていたけれど、それでも毎回見惚れてしまう。
「絢音、いつからそこにいたの?」
「んー、瞳がぼーっと考えごとしてるとき。何考えてたの?ため息までついちゃって」
本当のことを言うのが恥ずかしくて、瞳は別の話題でごまかした。
「いや、ちょっと……最近ゲーム作ってるんだけど、行き詰まっちゃってさ」
「ゲーム作ってるの?」
興味津々といった様子で、絢音が身を乗り出す。
「えっと……ちょっと場所変えようか。ここ、人多すぎるし」
周りの視線がだんだん集まってきているのに気づいた瞳は、慌ててそう言った。
「そうだね、じゃあ行こっか。」
二人は肩を並べて歩き出す。
家も近いため、帰り道はいつも一緒だった。
「そういえばさ、なんで今朝待ってくれなかったの? 教室でも挨拶してくれなかったし。」
思い出したように、絢音が頬をふくらませて不満げに尋ねる。
「今朝? いや、別に待ち合わせとかしてなかったはず……」
瞳は記憶をたどってみたが、特に約束はしていなかった。
「今日は入学式だよ? こういう記念日には、一緒に登校するべきでしょ!」
絢音は小さな拳を振り上げて、むくれたように言う。
「そうなの?」
「まあいい、帰りは一緒だから、許してあげる」
絢音はふんっと鼻を鳴らし、手を背中に回しながら、石を軽く蹴った。
「ありがとう……?」
「うんうん、でも挨拶しなかった件はまだ許してないからね」
絢音がうなずいて、もう一つの問題を追及してくる。
「いや……そのとき、絢音の周り、女の子ばっかだったし……それに……」
「それに?」
首を傾げる絢音を見つめながら、瞳は少し迷ったが、意を決して口を開いた。
「最近、家に誘っても『用事がある』ってよく断られてたし、ちょっと調べてみたら、ネットには“思春期になると異性の友達とは疎遠になりがち”って書いてあって……」
絢音は一瞬沈黙して、小さく笑った。
「そんなの、気にしすぎだよ。本当に用事があっただけ。ネットの話なんて鵜呑みにしないでよ」
「もしかして、高校デビューでも目指してるのかと思った」
「私がそんなタイプに見える?」
絢音は自分を指さしてみせた。
「いいや」
「そうでしょう。それより、ゲーム作ってるって言ってたよね。どんなゲームなの?」
「話そらした?」
「そらしてない!」
それ以上深掘りすると本気で怒られそうだったので、瞳は話題をゲームに戻した。
「今は、そうだな、ローグライクっぽくて、カードでバトルする冒険ゲームを作ってる感じ」
「うーん、冒険ゲーム?」
絢音はまた、ちょっとピンときてない顔をしていた。
「どう説明すればいいかな……うーん……ちょっと、あとで時間ある? 直接見せた方が早いかも」
「いいの? 時間ならあるよ、見せて見せて!」
絢音の目がキラキラと輝き、期待に満ちた表情を浮かべている。
「うん、じゃ行こうか」
そんな絢音の様子を見て、瞳はほっとしたように微笑んだ。
(絢音がそんな簡単に変わるなんて、どうして思っちゃったんだろう。
やっぱり、昔と変わらない、ゲームが大好きな幼なじみじゃないか。)
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