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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
旧バージョン
7/90

波乱の予感

突然現れた結衣に、二人は同時に驚いて立ち上がった。

結衣の視線は瞳と弥紗の間を行き来し、驚きの色を浮かべている。


「ちょ、ちょっと待って! 結衣ちゃんが思ってるようなことじゃなくて、私と先生はただ……っ!」

「先生?」

結衣の視線が瞳に止まり、首をかしげる。

「これは、どういうプレイなんですか?」


「結衣ちゃん……!」

焦った弥紗が慌てて説明しようとするが、瞳が右手を差し出してそれを制した。


「からかわないで、結衣」

瞳は苦笑しながら、結衣の額に指を伸ばし、ツンと軽く突いた。


「あぅ、バレちゃった?」

結衣は口にしていたアイスキャンディーを引き抜き、「てへ」と舌を出して笑った。

「一体どこでそんなこと覚えたのよ……」

弥紗は少し羨ましそうに、その様子を見つめていた。


「ふふっ、私ね、前からお兄ちゃんが新しいゲーム作ってるの知ってたんだ。ていうか、それを弥紗ちゃんに教えたの、私だし。言わなくても分かるよ~」

その一言に、弥紗はほっと胸をなでおろした。


「それで、弥紗ちゃんは今、ボイス収録してるの?」

「ううん。ただのテストプレイだよ。うち、録音できる設備なんてないし」

「お兄ちゃんが簡単な録音機材、用意してみたら? そのうち役に立つかも」

「一理あるね。あとでちょっと調べてみるよ」

瞳は納得したように頷いた。


「じゃあ弥紗、そのまま続けていいよ。私は横で見てるだけだから」

結衣は当然のようにベッドの端に腰を下ろす。

「気をつけてね。ベッド、汚さないでよ」

瞳は結衣の手に持たれたアイスを見て、つい口を出した。


「大丈夫、大丈夫。ちゃんと気をつけてるから」

弥紗は再び席に戻り、ゲームを再開した。


「これ、前に私がテストしたときより、完成度上がってない?」

しばらくプレイを見ていた結衣が、興味深そうに尋ねる。

「もちろん。素材は随時更新して入れ替えてるし、あとはアイテムのモデリングだけかな。ボイスと曲の契約がまとまれば、すぐにプラットフォームでテスト配信できるよ」


「ボイスと曲って、いちばん大事なところじゃん」

「うん、ちょっと楽観的すぎたかもね……」


瞳はそう言って、苦笑いを浮かべた。

もともと何とかなるだろうと楽観していたし、少なくとも楽曲の使用許可くらいは簡単に取れると思っていたが、今回は痛い目に遭った。


「やっぱり、もっとしっかり準備しておかないとね」



テスト版のプレイ時間はそれほど長くなく、途中での会話や弥紗がヒロインのセリフ読み上げを含めても、約一時間ほどで終わった。


「どうだった?」

瞳の問いかけに、弥紗は少し考えてから答えた。

「うん、全体的にすごく遊びやすかったし、導線も自然。あまり考え込まずにスッと入れる感じ。それに、ヒロインがすごく可愛いし、猫もね」


「ありがとう。改善したほうがいいところはある?」

「このデモのシナリオって、ここまでで終わりなの?」


「そうだね。本編の第一章の冒頭まで進む予定。出会いのあと、次のイベントに入る前に、メインノードと自由探索パートが入る感じかな」


「それはちょうどいい構成かも。ゲーム全体の雰囲気がちゃんと味わえるし、自分に合ってるかどうか判断しやすいね、私的には物足りないけど、デモとしてはちょうどいい」


「そうか、それならよかった」

瞳が弥紗のゲームに対する感想をメモし終えると、弥紗は結衣の方をちらりと見た。


「それじゃ、今日はお邪魔しました。結衣ちゃんも、また今度で遊ぼうね」

「うん、夜にでも、また通話しよっか」


そう言って、結衣も弥紗と一緒に瞳の部屋を出た。


玄関先まで見送りに来た結衣が、ふいに口を開いた。

「弥紗ちゃん」


「はい?」

「まあ、たぶんないと思うけど、一応聞いておこうかなって」

「えっ、何のこと?」


「弥紗ちゃん、もしかしてお兄ちゃんのこと……好きになったりしてないよね?」


「……え?」


弥紗は一瞬フリーズし、その言葉の意味を理解した瞬間、顔を真っ赤に染め、胸の前で両手をバタバタさせながら、震える声で答えた。


「そ、そんなことないよ!? せ、先生にそんな気持ちなんて、あるわけないしっ。ただ、ただゲームをあんなに作れるのがすごいなって、尊敬してるだけだから!」


その反応があまりにも可愛くて、結衣は思わず吹き出し、弥紗の肩をぽんと抱いた。


「大丈夫、私は反対しないよ?」

「ち、違うってば……!」


「はいはい。でもね、一つだけ言っておくよ」

「な、なに?」


「もしあの鈍感男を本気で落とすつもりなら、かなり手強いライバルがいるからね?」

「て、手強いライバル……?」

「ふふっ、情報提供はここまで。これ以上話すのはフェアじゃないからね」


そう言って結衣は弥紗から手を離した。名残惜しそうに「えっ……」と声を漏らす弥紗。


「じゃあ、弥紗ちゃん、応援してるからねっ」

ウインクひとつしてドアを閉めると、残された弥紗は口をパクパクさせながら、言いかけた言葉を飲み込んで立ち尽くしていた。


「公平のために、絢姉にも知らせておこうっと」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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