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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
五作目『灰燼から燃え上がる天使の歌』

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【弥紗】最後の唄

修理したバイクに乗って北へ向かうと、白い霧がだんだんと道路を覆っていった。


バイクの姿が、時おり霧の中に消えては現れる。





「すごい霧だね、これ危ないんじゃない?」



弥紗は画面を見つめながら、不安そうに言った。




:現実だったら、すぐに停車したほうがいい


:こんな濃霧の中でバイクに乗るなんて、自殺行為だよ


「そうだね」


弥紗は一旦バイクを止めて、待ってみた。


「何も起こらないね」


:進もう


:事故りそう




「進むしかないか」

もう一度、弥紗はバイクを前に進んでみた。


「霧、濃くなってきてない?」


だが、もう手遅れだった。白い霧は画面全体を覆い尽くした。




「終わった……もうダメだ……」

弥紗は絶望の声を上げた。




:やられたか!?


:もう終わりだ……




霧が晴れると、主人公ムウはいつの間にか一人で白く長い廊下に立っていた。


下を見れば、手にはライフルを持ち、体にはオリーブ色のコートを着ている。




「これは……どういうこと?」


弥紗とムウは同時に疑問を口にした。




:幻覚?


:まさか今流行りの異世界転生!?




本当に訳が分からないプレイヤー弥紗とは違い、ゲームの主人公ムウは直感的にすべきことを分かっているようだった。




「博士を探しに行かないと。今ごろ研究室で待ってるはずだ」




「博士?知らない人だ」


状況が全く分からない弥紗は、とりあえず主人公を操作して廊下の先へと進ませた。


そこには鋼鉄製の自動ドアがあり、右上には「第三実験室」と書かれていた。


IDカードを読み取らせると、無言でドアが開いた。




部屋の中には、白衣を着た中年の男性と、ムウが見たこともない機械類が多数置かれていた。


男は机の前に座り、コンピューターを操作している。




ムウは白衣の中年男性に敬礼して言った。


「博士」




男性が振り返ると、やややつれた顔に青い無精髭が見えた。何日も剃っていないようだ。

ムウを見て、男性が嬉しそうに顔を綻ばせる。


「おお、来てくれたか」




「博士、今日はどんなご用件でしょうか?」




「ははっ、そんな大げさな話じゃないよ」


博士は手をひらひらと振り、立ち上がった。




「ちょっと君に頼みたいことがあるだけだ」




「なんでしょうか?」




「私には娘がいるんだ。もし機会があれば、彼女と友達になってやってくれないか?」




「光栄ですが……なぜ私なのですか?」


ムウは疑問に思った。普通、友達になるなら同年代の方が自然なはずだ。


「たしかに、少し変な頼みだ」

弥紗も頭を傾げた。




:……友達?


:それっておいしいの?




「なに、みんな、友達いないの?」


弥紗は少し呆れた様子で言った。




:ニナちゃん、もしかして……

:裏切りですか?



「もちろんあるよ! すっごく仲のいい親友がいるんだから!」


弥紗は誇らしげに言った。



:ほう


:詳しく知りたい


:たぶん美人なんだろうな




「もちろん、彼女はね……って、あ、あぶない。もう少しで口を滑らせるところだった。


この話はやめて、ゲームに集中しよ」




:ちぇっ


:また失敗か……




実際、弥紗は普段の雑談でも、よくその親友の話をしている。曰く、「頭が良くて、美人で、優しい完璧な子」だそうだ。




場面は戻り、ふたりの会話が続く。




「君は、たしか妹がいると言っていたね」




「はい」




「うちの娘はちょっと……まあ、特殊なんだ。とにかく、機会があればよろしく頼むよ」




「わかりました」




博士は腕時計をちらりと見た。




「そろそろ時間だ。君にもう一つお願いがある」




「はい、何なりと」




「私のオフィスに行って、ある物を取ってきてくれないか」




「了解しました」




ムウは研究室を後にし、指示に従って博士のオフィスへと向かった。




そこに、彼は金髪の少女に出会えた。




少女はギターを抱えて、静かに演奏していた。




「え?」


ムウはドアの前に立ち尽くした。




「これってミュウちゃんじゃない?どういうこと?」

弥紗はさらに混乱していた。



「君は……?」


ムウは相手に見覚えがあるような気がして、不思議そうに尋ねた。


金髪の少女は声に反応して顔を上げ、ムウだと分かると微笑みながら口を動かしたが、声は出なかった。


ただはっきり少女の唇の動きがよく見える。



白い光が画面を覆い、その後、聞き覚えのある声が聞こえた。


「ムウ、ムウ! 大丈夫?」



ムウが我に返ると、自分はまだバイクにまたがっていた。


しかし、いつの間にかエンジンは止まっており、道の真ん中で立ち止まっていた。


「……ミュウ?」



「さっき急に動かなくなったから、びっくりしたよ」


「えっ? 君、白い霧見なかったの?」


「霧? なんの話?見てないけど」


「ああ、大丈夫。たぶん……夢を見ていたみたいだ」


「夢?急に、ムウは疲れてるの?」


「いや……、大丈夫だ。それより、目的地までもう少しだ。行こう」


「もうすぐ着くの?」


「うん」


ムウはうなずいた。なぜだか確信していた。


空気は湿り気を帯び、かすかに波の音が聞こえてきた。



「先のは、全部夢ってこと?」

弥紗はますます混乱した。


:そうみたい


:記憶かもしれない



「それって、ムウとミュウの出会いはすべて博士に仕組まれた?じゃあ、博士はどうなっちゃったの?」


コメントと考察を少し話して、弥紗はストーリーを続くことを決めた。



「うーん、とりあえず進もう」





そして、目の前に広がる果てしない蒼白の海。

海と空とが、境目を失い、ひとつに溶け合っていた。



「綺麗~」

弥紗は画面を見つめて、感動した。


:海だ……

:きれい





「ここが世界の果てなのかな……」


ミュウは海を見つめながら、呟くように言った。


「うん。ここが目的地のはずだよ」




そして、エンディングを告げる歌が静かに流れ始めた。


エンディングのクレジットがスクリーンで映し出される。


「えっ、これで終わり?気になることまたいっぱいあるけど、博士は?」


弥紗は少し物足りなさを感じて、また色んな謎が残っていた。



:何か条件を満たしてなかったのかな?


:クリアおめでとう!



「ありがとう。うーん……条件か、あと調べてみるね。もし別のエンディングがあるなら、動画にするか、配信でやってみようかな」



:了解です

:別のエンディングありそうね



「それじゃ、今日はこのへんで。おやすみなさ〜い」




:おやすみ~

:またね~


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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