【弥紗】君の記憶になれたら
「帰ったか」
青年は淡々と声をかけ、小さな女の子も嬉しそうに駆け寄った。
「おかえり〜」
ムウはその言葉を聞いて、一瞬足を止めてから、笑顔で答えた。
「うん、ただいま」
リンとしばらく遊んだあと、まだ幼いせいか、夜になるとすぐに眠くなってしまい、中年の女性が彼女を寝かしつけに連れていった。
「リンがあんなに楽しそうにしてるの、久しぶりに見たわ。ありがとう」
「いえ、私も楽しかったです」
そのときムウは、外で見つけてきたぬいぐるみのクマを部屋に持ってきた。
「これは……」
「こんなに綺麗な状態で残ってるなんて思わなかった。まるであの子のために残っていたみたいだね」
「……ありがとう」
「ここは客間よ。まさかまた使うことになるなんてね。もう掃除してあるから、ゆっくり休んでね」
女性は優しく言った。
「ありがとうございます」
部屋に入ると、中には机と椅子とベッドがあるだけだった。
ムウはギターケースを机の上に置き、黒猫はすでにベッドのそばで丸くなっていた。
「こんなに賑やかなの、久しぶり……なんかいいね」
ミュウは優しい笑みを浮かべながらも、その瞳にはどこか寂しさが滲んでいた。
「そうだよね。ムウ以外には、彼女の姿が見えないんだ」
弥紗はそのことを思い出し、また涙がこみ上げてきそうになった。
外はあんなに賑やかなのに、自分には関係のない世界みたいで――そういう時、孤独は余計に際立つ。
:作者、マジでプレイヤーを泣かせる気満々だな
:あまりにも切なすぎる
「大丈夫。俺がいるし、クロだっているよ」
ムウはまずは自分、そしてベッドの上の黒猫を指差して、そう言った。
「クロって、名前テキトーすぎない?」
ミュウは手を伸ばしてベッドの上の黒猫を撫でながら、その瞳の寂しさが少しずつ和らぎ、やがて笑顔になった。
「さあ、もう遅いから、早めに休もう」
翌日、青年は約束通りムウのバイクを修理してくれた。
ムウはエンジンをかけ、問題がないことを確認してからお礼を言った。
「ありがとう。本当に助かった」
「うん」
誕生日パーティーは昼に行われた。
「わあっ!今日なんでこんなに美味しそうなものがいっぱいあるの!?」
リンは目を輝かせて、いつもより豪華な食卓を見つめた。
「もちろん、今日はリンの誕生日だからね」
青年は優しくリンの頭を撫でた。
「さあ、お願いごとをしよう。言っちゃダメだよ、言ったら叶わなくなっちゃうから」
女性は、ムウが用意したフルーツ缶に火のついたロウソクを一本立てた。
「うんっ!」
リンは大きく頷き、目を閉じて願い事をし、勢いよくロウソクの火を吹き消した。
「甘〜い!」
フルーツ缶を食べたリンは、目を細めて嬉しそうに笑った。
「お兄ちゃんたちも食べて!」
「大丈夫、お兄ちゃんは他のもあるから。これはリンのだよ」
女の子は首を振り、しっかりと主張した。
「みんなで食べようよ」
「はいはい」
皆は少しずつ分けて、残りは全部リンに譲った。
食べ終えた後――
「じゃあ、次はお兄ちゃんたちからのプレゼントだよ」
青年はリンに、そっとぬいぐるみのクマを手渡した。
「わー!クマさんだ〜!」
リンは嬉しそうに抱きしめて離さなかった。
そしてムウはギターを取り出した。
「わあ、これなに?」
リンはクマを抱きながら、不思議そうに尋ねた。
「これはギターっていう楽器なんだよ」
ムウは音を調整しながら、笑って言った。
「この曲の名前は『スターダスト・カーニバル』」
「なるほど、合奏シーンはここにあったのか」
弥紗はようやく理解した。ムウはギターを弾き始め、
ミュウも相手に声が届くかどうかなど気にせず、ただ自分の想いを込めて、そっと歌い始めた。
「今回ミスしなくてよかった……この感動シーンで音外したら耐えられないわ」
演奏が終わると、リンは嬉しそうに飛び跳ね、そばにいた青年と女性も拍手を送った。
ムウはその後、以前に練習した何曲かも披露し、しばらくしてから別れの挨拶をした。
「もう行っちゃうの?せめて今夜は泊まって、もう一度お礼させて」
「お兄ちゃん、残ってくれる?」
リンはムウの手をぎゅっと握り、懇願した。
「……わかった。一晩だけね」
ムウは少女の瞳を見て、どうしても断れなかった。
「やったー!」
返事をもらったリンは飛び跳ねて喜び、また黒猫のところへ走っていった。
「でもね、リンの言う通り……もし良かったら、ずっといてもいいんだよ」
【うん、ここに残る】【いや、まだ行かなきゃいけない場所がある】
「これは……すごく重要な選択肢って感じだよね」
弥紗は画面の選択肢を見つめ、悩み始めた。
:左選ぶとそのままエンディングっぽいな
:残るべき?どうする?
「決めた。やっぱり右を選ぼう」
弥紗は物語を先に進める決断をした。
「そっか……わかった。でも、いつでも帰ってきてね」
自由探索が終わり、その夜。
「本当に行くの?」
ミュウはそう問いかけた。
「もちろん、約束したでしょ?」
「でも……うん、ありがとう」
翌朝、出発の準備をしていたムウは、青年に呼び止められた。
リンが笑顔で、クレヨンで描かれた絵を差し出してきた。
「これ、あげる」
「ありがとう……えっ?」
ムウは手に取った絵を見つめ、ミュウも興味津々に覗き込んだが、言葉を失った。
絵には、緑のコートを着たムウ、青年、中年の女性、そしてリン自身が描かれていた。
……それから、もうひとり。
白いワンピースを着た金髪の少女が、そこにいた。
「この子は……?」
ムウは金髪の少女を指さして尋ねた。
「このとき、お兄ちゃんの後ろにいるような気がしたの。
ママが言ってた、もしかしたらそれは天使かもしれないって」
「そうなんだ……ありがとう。じゃあ、行ってくるね」
「バイバイ〜!」
ムウは絵を大事に折りたたみ、胸ポケットにしまうと、バイクにまたがって出発した。
バイクを走らせながら、後ろに座る少女に声をかけた。
「見た?君の気持ち、ちゃんと伝わってたよ、天使さん」
「や、やだ……からかわないでよ」
ミュウは顔を真っ赤にしながらも、幸せそうに微笑んだ。
「……私、ちゃんと誰かの思い出になれたんだ」
その言葉に、ムウはただ黙って頷いた。
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