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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
五作目『灰燼から燃え上がる天使の歌』

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【弥紗】まだまだ旅は続く!

「どっちを選ぼうかな?」




弥紗が椅子をくるりと回し、カメラに笑顔を向けて言った。


画面には、二つの選択肢がポンと表示される。




体験版はここで終わっていた。つまり、この先は完全に未知の世界。


初めて踏み込む領域だ。

どの曲を選ぶかは、最初から決めてた。




:猫の唄、一択


:もちろん弥紗のオリジナル曲でしょ!




「ふふん、さっすが分かってる〜! そうなの、猫の唄! 実はね、私の曲がゲームに使われてるんだ!やったぁ、めっちゃ嬉しい!」




弥紗はビシッと決めポーズを取り、誇らしげに拍手した。




:8888888


:うおおおお、これはガチですごい!




「フルバージョンが聴きたい人は〜? はいっ、私のチャンネルで何回でも聴けますよ〜!……でも今はダメ、配信に集中してっ!」




笑顔全開で、弥紗は「猫の唄」を選ぶ。


まるでステージに立つ前の歌姫のように、深呼吸してキーボードに手を置いた。




「私の華麗なテクニック、見せてあげましょう!」




画面の上から、音符が降ってくる——


しかし、




「……あれ?」




:あっ


:ミスったw




最初のミス。ちょっとだけタイミングがズレた。




弥紗は舌をぺろっと出して、苦笑い。


「ミスっちゃった〜」




「えっ? また!?」




二回目のミス。今度は焦りの色が隠せない。


額にはうっすらと汗が浮かび、指の動きがぎこちなくなる。




「ちょ、ちょっと待って! 待ってってば〜!」




音符の雨に押し流されるように、叫ぶ弥紗。




「待てって言ってるでしょぉーっ!」




演奏終了、結果:ランクA。




:あれ? 弥紗さんって本家……だよね?


:それでもAなのはさすが


:この展開、待ってたw




「も、もう〜、うるさいなぁ……! 本家だってミスくらいするのっ!」




頬をぷくっと膨らませて抗議する弥紗。




演奏後、新たな選択肢が表示される。




【今夜はもう休む】【もう少し探索する】




「物資もまだ余ってるし……うん、今日はこの辺で切り上げておこうかな」




弥紗は「今夜はもう休む」を選んだ。




「時間もちょうどいいし、そろそろ休もうか」




画面の中、ミュウが微笑んでムウに話しかける。




「じゃあ、最後にもう一回セッションしよう?」




「うん、いいよ」




ムウがギターを手に取り、少女は目を閉じて、そっと息を吸った。




「いーち、にー、さんっ!」




「……あっ」




その瞬間、弥紗は思い出した。

――さっきのリズムゲームで、満点を取れなかったことを。



そして流れ始めるギターの音。


案の定、ちょっとズレた伴奏が鳴り響いた。




「いやああああ、やめて〜〜! 殺して〜〜!」




両手で顔を覆って叫ぶ弥紗。その裏では、少しズレた音程のまま、曲は律儀に最後まで再生されていた。




:この仕様、リアルすぎて逆に好き


:かわいすぎるw


:事故wwwww


:切り抜き決定




無機質だった世界に、少しずつ色が戻っていく。


瓦礫の壁、崩れかけた天井、そして静かな空。


そこに、わずかな温もりが差し込んでいく。




:この演出、神すぎる……


:センス良すぎて震えた




(さすが先生……)


弥紗は、小さく息をのんだ。


画面に映る光景に、思わず見入ってしまう。




やがて画面が暗転し、ふたりの静かな会話が始まる。




「ねぇ、未来ってどうなると思う?」




「未来……うーん、分かんない。でも、よくなるといいな」




「大丈夫、人間ってね、生きてる限り希望があるの。……ま、私はもう幽霊だけど」




「軽く言うね、それ、全然笑えないんだけど」




弥紗のツッコミが、少し遅れて飛んだ。




:最初ほのぼのだったのに、急に重いんだがw


:笑えない冗談w




朝、ムウは黒猫の頭を撫でた。


黒猫は少し不満そうに「ニャー」と鳴いたが、


缶詰を開けるとすぐに機嫌を直して、ムウにすり寄ってきた。




「いいなぁ、私もちょっと猫飼いたくなっちゃう」


弥紗は羨ましそうに言った。




:現金すぎるw


:猫はほんと癒されるよね


:VTuberでもペット飼ってる人多いよな〜




「うちはダメなの。パパがアレルギーで、ペットは飼えないの」




:パパ呼びかわいいw


:それはしかたない





「うるさいな〜! そういう話してる場合じゃないでしょ、今はゲーム!」




弥紗は顔を赤らめながら、配信に戻った。




ムウはゆっくりと朝ごはんを食べ、


ミュウは頬杖をついて、にこにこと彼を見つめていた。




「……なんだよ、そんなに見て」


ムウが少し照れたように言うと、金髪の少女は一瞬きょとんとした後、ふわっと微笑んだ。




「ううん、なんでもない。ただね、ちょっと嬉しくて。誰かと一緒に朝ごはんを食べるの、すごく久しぶりなの」




「……うっ」


弥紗は、こういう静かな優しさに、とても弱い。


少女がどれだけ長い時間、一人で過ごしてきたのかを想像すると、思わず涙がこぼれそうになる。




:やばい、泣きそう……


:一緒にご飯食べるって、当たり前じゃないんだよな




食後、しばらく休憩したあと、二人と一匹は再びバイクに乗った。


果てしない空、広大な地平線、心が少し軽くなる景色。




「ロードトリップって、なんか憧れちゃうなぁ」




:それな


:自分もいつか旅に出たい……




そんなふうに弥紗がコメント欄とおしゃべりしていたそのとき、


バイクのエンジンが不穏な音を立て、突然煙を吹き出した。


ゆっくりと道の真ん中で止まっていく。




弥紗はその光景を見て、目を見開いた。




「……えっ?」

弥紗の笑顔が固まる。


:まさかのトラブル展開!?

:これは……何か始まる予感!

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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