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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
六作目『記憶墜落』
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お見舞い

あの日、絢音が一時的に意識を失った出来事は、すでにネット上で大きな話題となっていた。

その後、絢音はSNSにコメントを投稿した。


すみません、ご心配をおかけしました。

今は風邪で熱があり、しばらく配信をお休みします。

回復したら、改めて謝罪会を開いて詳細をお話しします。


「今どうしてるんだろう?」

瞳が知っているのは、翌日に絢音の両親が彼女を病院に連れて行ったということだけ。

かなりひどい風邪だったと聞いた。

けれど、点滴を数時間受けて、解熱剤を飲んだあとは家で休んでいたらしい。


病気療養中の絢音の邪魔をしたくなくて、瞳はメッセージでそっと様子を尋ねた。


【大丈夫?今の調子はどう?】


すると、思いがけず絢音から直接電話がかかってきた。


「もしもし?」

「瞳、聞いてよ〜」

電話の向こうから、少しかすれた声で甘えるように話しかけてきた。


「どうしたの?」

「ママがひどいの。治るまでゲーム禁止なんだって。ずっと寝てなきゃダメなんだもん。パパも味方してくれないし」

瞳の眉がピクッと動いた。

絢音がゲーム好きなのは知ってるけど、こんなに体調悪いのにまだゲームしたいなんて、正直どう言っていいか分からなかった。


「ちゃんと休みなよ」

瞳は眉間を揉みながらため息をついた。


「でも、暇なんだもん〜」

瞳は、絢音がベッドの上で口を尖らせながらゴロゴロしてる姿を想像してしまった。


「ん〜じゃあ、俺が何か買ってお見舞いに行こうか?」

瞳は少し迷いながら、様子を見るように聞いた。


「ほんとに?ありがとう!甘いもの持ってきて〜」

絢音の声が一気に明るくなった。


「でも、休養の邪魔にならない?」


「大丈夫だよ〜瞳ならママは納得するでしょう」


「わかった、じゃあ、買い物してから行くね」


「やった!待ってるね〜」


瞳はスマホと財布を持って、出かける準備をした。


「お兄ちゃん、今から出かけるの?」

リビングのソファに座っていた結衣が、少し驚いた様子で尋ねた。


「うん、ちょっと絢音のお見舞いに行こうと思って」

瞳は隠すこともなく、素直に答えた。


「じゃあ、私も一緒に……あ、代わりに伝えて。絢姉に、ちゃんと休んでって」

結衣は立ち上がり、一緒に行こうとしたが、すぐに気が変わったようで言い直した。


「ん?うん、わかった」


「気をつけてね〜」


瞳は近くのコンビニで、絢音が大好きなプリンを買い、さらにいくつかお菓子も準備して、絢音の家へと向かった。

そしてインターホンを押した。


「はーい……あら、瞳くんね。絢音に会いに来たの?」

絢音の母、由紀さんが出てきた。瞳の顔を見ると、ぱっと笑顔になった。

「わざわざありがとうね」

由紀さんはほほに手を当てて、少し申し訳なさそうに言った。


「いえいえ、お邪魔します。絢音さんの具合はどうですか?」

瞳は首を振って、家の中へと入った。


「まだ完治とはいかないけど、熱はもう下がったわよ」


「それはよかった」

そう聞いて、瞳もほっと一息ついた。

そして絢音の部屋のドアをノックした。


「今、入っても大丈夫?」


絢音は、瞳が来たことに気づいて、うれしそうに言った。

「瞳!入って入って!」


「あらあら、なんだか元気そうね」

由紀さんは微笑みながら瞳に言った。


「それじゃあ、絢音のことお願いね」


「はい、お任せください」


瞳はうなずいて、絢音の部屋のドアを開けた。

中に入ると、ふわふわのルームウェアを着た絢音がベッドでサメの抱き枕を抱いていた。

瞳の姿を見た瞬間、絢音の目がぱっと明るくなった。


「瞳!」

「大丈夫?」

血の気のない唇を見て、瞳は思わず心配そうに顔をしかめた。


「うん、だいぶよくなったよ」

「もう…具合悪いなら、無理して配信なんてしちゃダメだよ」

瞳は思わず小言を言ってしまう。


「ごめんね~。それに、配信切ってくれたって聞いた。ありがとね」

「たいしたことないよ。ほら、これ買ってきた」

瞳は手に持っていたビニール袋を少し掲げて、絢音に渡した。


「プリンだ!それにお菓子も。ぜんぶ私の好きなやつだ〜」

絢音は袋をのぞき込みながら、嬉しそうに言った。


「そりゃそうだろ。お見舞いなんだから、好きなの選ばないとね」

「ありがとう」

絢音はにこにこしながらプリンを手に取ったけれど、ふにゃっとした動きでまた置いてしまった。

「どうかした?」

瞳が不思議そうに聞くと、


「体が重くて、力が出ないの。だから、食べさせて〜」

と、絢音はプリンを差し出してきた。


「いや、ちょっとそれは…」

「お願い〜」

絢音に甘えられて、瞳は少し抵抗しつつも、病人相手では勝てず、結局折れてプリンを受け取った。


「わかったよ…」

「はい、あ〜ん」

絢音が小さく口を開けて、照れながらも言った。


(なんだよこれ……普通に恥ずかしい)

瞳はちょっと顔を赤らめつつも、スプーンを手に取った。

プリンの蓋を開け、付属のプラスチックスプーンですくって一口。


「ほら、どうぞ」

「だめだよ、『あ〜ん』って言ってくれなきゃ」

絢音は恥ずかしそうにしながらも、要求を続ける。


「はいはい、しょうがないな。あ〜ん」


「ん〜、おいしいっ!」

「それはよかった」

絢音は一口食べると、目を細めて嬉しそうに笑った。

「よかった」

二人は顔を赤くしながら、照れくさそうにプリンを一口ずつ食べ進めていった。


「ありがとう、これで明日には治るかもね~」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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