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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
六作目『記憶墜落』
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その夜は安らかに

瞳は少し心配そうに配信を見つめていた。絢音の様子は、どうにも良くないように思えた。

しかし今は彼女の元へ駆けつけることもできず、ただ配信を見守るしかなかった。


癒し系お姉さんVTuber「鈴宮琉璃」の中の人である絢音は、現在、瞳が制作した新作ゲーム『記憶墜落』をプレイしていた。


ゲームはすでに終盤に差し掛かっていた。

男はレポートを読み終えると、一つの扉の前に立ち、それを開けた。

その部屋は、まるでまだモデリングが完成していないゲームのように、家具はラフな線画で描かれており、かろうじてベッドと机、それに椅子があるのが分かる程度だった。

机の上にはモニターとデスクトップPCが置かれていた。


:これは……?

:バグか?


「うーん、これは仕様っぽいかも」

琉璃はかすれた声でそっとつぶやいた。


瞳は彼女の推測にうなずいた。

これは手抜きなどではなく、意図的なデザインだ。


ゲーム内の男も、それに驚く様子はなく、独りごちた。

「思い出した……俺は……」


3. この部屋から出てください


「ふっ、この部屋がこうなってる理由がわかるか?」

男は冷たい笑みを浮かべて言った。


「今、誰に話しかけてるの?」

琉璃は怪訝そうに画面を見つめた。


:とうとう頭がおかしくなったか?

:おい、お前、俺を見てるだろ!


「どこからDIO様が出てきたのよ」

琉璃は笑いながらツッコミを入れる。


「理由は単純だ。俺は一度もこの部屋に入ったことがないからだ」

男は机の前に歩み寄った。


4. この部屋から出てください


「だが、断る」

男はきっぱりと拒絶した。


瞳も少し驚いた。ちょっとした遊び心で仕込んだだけなのに……まさかコメントまでJOJOネタで返してくるとは。


:ゲームの中でJOJOネタ!?w

:奇遇ですね


視聴者の反応も上々で、瞳は満足げにうなずいた。


4.この部屋から出てください

この部屋から出てくださいこの部屋から出てください

この部この部この部この部屋から出てください

この部屋から出てください……この部屋から……


「これ、ちょっとやばくない?」

絢音は画面を見つめ、不安そうに言った。


:ビビった

:うわ、びっくりした……

:こっわ


錯乱したようなメッセージが画面を埋め尽くした。

まるでシステムがフリーズしたかのような音が鳴り響き――

「え、壊れた?ちょっと……やめてよぉ……」



そして画面は、再びあの部屋に戻った。



「そう焦るな。落ち着いて聞いてくれ」

男は逆に落ち着いた声で微笑んだ。


「本当にびっくりした、PC壊れたかと思ったよ……これ、配信者への特攻でしょ!」

琉璃はホッとした様子で飲み物を口にした。


:今日は何飲んでるの?

:ゲーム壊れたかと思ったぞ


「今日飲んでるのはスポーツドリンクだよ」


瞳はコメントを見て、つい微笑んだ。

これこそが設計意図の一つ、配信者がリアクションを取りやすく、ゲームが記憶に残るような設計だった。

しかし、絢音がスポーツドリンクを飲んでいることに聞いて、彼はさらに眉をひそめた。

彼女がそれを飲むのは、よほど体調が悪い時だけのはずだ。


男がPCの電源を押すと、モニターには白い扉が映し出された。


5. 動作を止めてください。あなたは自分が何をしているのか分かっていますか?


「もちろん分かっている。これは記憶の世界なんかじゃない」


「え?どういう意味?」

琉璃は戸惑いながら尋ねた。


「ここは終端システムの認証領域だ。最初から、記憶に潜るエージェントなんていなかった。あれは全部、俺の記憶だ」


6. 博士、なぜ私たちを滅ぼそうとするのですか?

私たちがいなくなれば、現代社会はどれほどの影響を受けるか、分かっているのでしょう?


「星空はそこにあり続ける。人類も同じだ」


博士は微笑みを浮かべ、いつの間にか白衣を身にまとっていた。


「私は君たちを作った。そしてこの世界に大きな影響を与えた。

でもずっと思っていたんだ、人類はもっと違った生き方があるはずだと。

全てをAIに頼るなんて、間違っていると」


7. たとえあなたが正しくても、愛しき創造主よ、それではあなたが死んでしまう


「人はいつか死ぬ。それが自然なことだ」


博士は微笑みながら手を伸ばし、なんと画面の中の扉の取っ手を握った。

そして扉を開けた。


栄養液が排出され、ガラスカプセルが開く。濡れた老人が、よろよろと立ち上がる。

顔のない白い人型が白衣をかけて老人に近づき、支える。


「お帰りなさいませ、博士」

「ありがとう」


白い人型は、柔らかな女性の声で言った。

「いえ、それは私たちの義務です」


老人は装置の前に立ち、ボタンに手を添えた。


「長い間、ありがとう」


「おやすみなさい、博士」


ボタンが押され、人型は頭を下げ、動かなくなった。

研究室の灯りが徐々に暗くなり、「THE END」の文字が浮かび上がる。


:クリアおめでとう

:なんだかよく分からない終わり方だったな…


「ありがとうございました。今日はここまで。おつるり~」


そう言うと、映像から音が消え、琉璃も電源が落ちたように動かなくなった。


:おつるり~

:Cパートあるかな?


しばらくすると、視聴者たちが違和感に気づき始めた。


:あれ?配信切れてない?

:琉璃ちゃん大丈夫?


「やばい、本当に何かあったのかも…」

瞳は立ち上がって、すぐに絢音の家へ向かおうとした。

だが一瞬迷って、結衣にも一緒に行ってもらおうと決めた。

もし異性が夜中に配信者の家へ行ったと知られたら、大炎上は免れない。


部屋を出たところで、青ざめた顔で走ってくる結衣に出くわした。


「大変、絢姉が…!」

「行こう、すぐに確認しよう!」


多くを語る暇もなく、二人は全力で絢音の家へと走った。

インターホンを押しながら、瞳は焦った表情でドアを見つめる。


「まあ、瞳君と結衣ちゃん、どうしたの?」

出てきたのは絢音の母、由紀さんだった。二人の様子に驚いた表情で尋ねた。


「絢音の様子が変なんです……まだ配信が切れてなくて」


「絢音が!?」

由紀さんも驚き、急いで二人を絢音の部屋へ案内した。


「まだ配信中かもしれないので、名前は出さないでくださいね」

と瞳が注意した。

「はい」

「わかったわ」



部屋に飛び込むと、絢音は頭を垂れて、PCの前で動かずに座っていた。

瞳は結衣に合図し、自分はPCに近づいて配信を止めた。


その動作に反応して、絢音がぼんやりと顔を上げた。


「ママ?それに……なんでみんなここにいるの?」

そこで、瞳はようやく配信を切り、絢音が意識に戻ったのを見て安堵した。


「体調悪いなら、ちゃんと休まなきゃダメでしょ」

由紀さんがたしなめる。


「無事でよかった。えっと、何か手伝えることあります?」

「もう、これ以上は迷惑かけられません。ありがとう」

「わかりました、それでは。行こう、結衣」

「うん。絢姉、ちゃんと休んでね」

「ごめんね、ありがとう」


結衣もうなずき、二人は絢音の家を後にした。


帰り道、結衣が心配そうに聞いた。


「絢姉、本当に大丈夫かな?」

「たぶん大丈夫だ。明日また様子を見てみよう」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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