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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
五作目『灰燼から燃え上がる天使の歌』

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【弥紗】天使に会いに行くよ!【完全初見】

西村弥紗はミネラルウォーターのボトルを手に取って、静かにパソコンデスクの前に腰を下ろした。

「うん、大丈夫そう」


配信の設定に問題がないことを一つひとつ確認したあと、弥紗は喉を整えるように軽く咳払いをした。




「ラ〜ラ〜ラ〜……うん、今日は調子がいいみたい」



いつもより緊張してる弥紗は小さく頷いて、深呼吸して配信開始のボタンを押した。




画面に映し出されたのは、淡い色の制服を身にまとい、赤いリボンでツインテールを結んだ金髪の少女。

少女の名前は結城ニナ、弥紗がVtuberとしての顔。

その姿は、まるで画面の向こうから光を放つように、見る者の視線を惹きつけてやまなかった。





今夜、弥紗が配信するのは、親友の兄であり、彼女が心から尊敬しているゲームクリエイターが手がけた最新作だ。


このゲームには、弥紗にとってもう一つ特別な意味があった。


それは、ヒロインの声を、彼女自身が演じているのだ。



好きなクリエイターと共に作品を作り上げること。それは、ひとりのプレイヤーとして、そしてひとりの配信者として、かけがえのない喜びであった。




「こんばんは。天川社所属の新人Vtuber、結城ニナです」


慣れ親しんだ挨拶の言葉とともに、彼女の声が配信に乗る。視聴者たちのコメントが次々とチャット欄に流れ始めた。




:こんばんは

:今日もかわいい!




「こんばんは〜。今日はちょっとした特別なゲームをやりたいと思います!」




:特別?


:あー!知ってる知ってる、ヒロインの声ってニナちゃんでしょう


:えっ、結城さんが声優もやってるの!?




「お!知ってる人がいますね。そう!実はね、今回『瞳中の景』さん新作ヒロインの声を担当させてもらったの。先に言っておきます……ヒロイン、めっちゃ可愛いよ」




声をひそめるようにして、秘密を打ち明ける少女のように囁く弥紗。

その口調は、画面の向こうにいるリスナーたちの胸をくすぐった。




:ほう


:楽しみ!


:体験版やったけど、本当に天使みたいだった……




「えへへ……でしょ?」


頬を少し染めながら、誇らしげに笑う弥紗は、画面に向かって小さく頷いた。






「それじゃあ、始めていこうか」




そう言って、弥紗はゲームスタートのボタンを押す。




ゲームの開始時には、三つの難易度から選択することができた。


「ストーリーモード」「ノーマル」そして地獄級の「ヘルモード」。





弥紗は慎重に説明文を読み込む。それぞれの違いは、資源の入手量と音楽パートの難易度にあるらしい。

ストーリーモードは一番簡単で、単純にストーリーを楽しみたい人用。

ノーマルはデフォルトでゲーム全体をバランスよく楽しめる難易度。最後のヘルモードは、物足りないプレイヤーに向けた、リアルでギリギリな旅だ。



「うん、最初は……ノーマルで様子を見ようかな」




そう呟いて、弥紗はマウスをクリックした。




弥紗はすでに開発段階でテスト版をプレイしており、さらに体験版が公開された際には改めて遊び直していた。だからこそ、このゲームの操作も展開も、彼女にとってはすでに手の内だった。




バイクを操り、ゲーム序盤の見せ場であるヒロインとの出会いのシーンへと辿り着く。




「……ここ、本当に綺麗よね」




瓦礫の山に腰かけ、目を閉じて静かに歌う金髪の少女。

その姿を見つめながら、ニナは思わず声を漏らす。

(さすが先生、)



開発初期のテスト版でも感動したこの場面。しかし、完成版のグラフィックはそれを遥かに超え、心を震わせるほど美しかった。




:綺麗……


:まるで天使だ……


:いい歌



「それとね、このシーンで流れてる曲は、天歌先輩のオリジナル曲『灰燼』なんだ。気になった人は、ぜひ天歌先輩のチャンネルも覗いてみてね」




:やっぱり歌姫の曲だったのか!


:すごく良い曲だね……




ヒロインのミューと黒猫が仲間に加わると、画面全体が一気に温かく、楽しげな雰囲気に包まれた。


バイクに乗って道なき道を進みながら、物資を集めたり、探索を重ねたりしていく。




やがて一行は、巨大な百貨店の廃墟へとたどり着いた。


かつては人々で賑わっていたであろうその建物も、今では瓦礫と埃に覆われた、静かな残骸に過ぎない。




「スーパーってことは、きっといっぱい物資があるはず!」




弥紗の声に、自然と興奮がにじんだ。


荒廃した世界の中で、廃墟を漁るという行為は、プレイヤーにとっての何よりな楽しみでもある。




鼻歌を口ずさみながら、彼女はまるで穀倉に飛び込んだリスのように、夢中で物資をあさり始めた。




:めっちゃ楽しそう!


:これってサバイバルゲーム?




「うんうん、サバイバルもあるし、音楽ゲーム的な要素もちゃんとあるよ!」




弥紗は手を止めることなく説明しながら、次のアイテムを探し続けていた。




探索を終えたあと、ミューとムウは廃墟となったスーパーの片隅を見つけ、今夜はそこで休むことに決めた。


瓦礫に囲まれた小さなスペースだったが、風をしのげて、安全も確保できそうだった。




「じゃあ、今日も音楽の授業を始めましょうか!ムウ、今日はどの曲を習いたい?」




ミューがにこにこと笑いながら、明るい声で宣言する。




その瞬間、画面にふたつの選択肢が現れた。




【猫の唄】 【寂しき夜の色】



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