夕陽より、あなたが綺麗です
「次、どこ行こうか?」
絢音の問いかけに、瞳の頭には昨日調べた大量のデートスポットが浮かんでいた。
水族館、ショッピングモール……定番はたくさんあるけど、なんだかピンとこなかった。
(うーん、どれもありで、なんか違うんだよな……)
「ゲーム漁りに行かない?」
最後にそう言って、瞳は笑った。
(そうだね、これが一番我々らしいものだ)
「やったー!ちょうどネタも欲しかったし、一緒に見に行こ!」
絢音は嬉しそうに拳をあげた。
「まずは中古ショップから?」
「賛成~」
自然と手を繋いだまま、二人はいつもの中古ゲームショップへ向かった。
「なんか、レトロゲームをやりたいなぁ」
「はは、おじさんの影響かな?」
「そうかも。それに昔の名作、やらないともったいないじゃない?」
「確かに」
瞳は軽く頷いた。
昔のゲームは技術的に制限が多くて、今みたいなグラフィックはなかったけど、
そのぶん創意工夫にあふれてて、アイデアで勝負していた。
それが瞳にはすごく刺激になったし、今でも通用する名作も多い。
店に入ると、中には大量のゲームが積まれていた。
二人は手を離し、それぞれ自由にゲーム棚を見て回り始めた。
絢音は目をキラキラさせながら、夢中でゲームを探していた。
「見て見て、これ! ゲームのロゴ、有名なジュースブランドじゃん!」
絢音が一本のソフトを手に取り、パッケージを見せてきた。
「それ、知ってる。あのジュースの会社が宣伝用に作った高難易度ゲームだよ」
瞳は思い出して、紹介する。
「高難易度?……燃えてきた!」
絢音は目を輝かせた。高難易度ゲームは彼女の得意分野だし、配信でも盛り上がるジャンル。
「初期のゲームって本数少ないから、難易度でプレイ時間稼いでたんだよね」
「買います!」
「判断がはやい!」
「だって、ゲームを買いに来たんだからね」
「……まあ、確かに」
「これなんてどう?ホラーアクションの初代版。後のシリーズはやってたよね?」
「うわっ、ありがとう! それずっと探してたやつ! 初代は移植されてないから、超レアなんだよね」
「ってことは……」
「もちろん買う!」
瞳も棚を見渡した。この店は品揃えがよく、古いゲームもちゃんと並んでいる。
彼はストーリー性のあるゲームが好きで、ホラーでも推理でも、じっくりと物語を読むのが性に合っていた。
アクションは好きだけど、得意とは言えない。シューティングは苦手で、3D酔いもするから、あきらめた。
だから、瞳が作るゲームは大体ストーリー重視で、操作の難易度はあまり高くない。
「おっ、これちょっと気になるな」
瞳は一つのゲームを取り出した。
「どれどれ〜?」
絢音が身を乗り出してきた、興味津々で見る。
「これ、昔の猿を捕まえるゲーム。結構有名だけど……俺、本体持ってないんだよね」
「え、あ、それ私持ってるよ。興味あるなら、今度うちで一緒にやろ?」
絢音はにっこり笑ってそう言った。
「……じゃあ、お願いしていい?」
「もちろん」
「じゃあ、約束ね」
「うん、やくそく~」
瞳はゲームを棚に戻し、次の約束を交わした。
いくつかソフトを選んだあと、瞳は時計を見ると、もう何時間も経っていた。
「え?もうこんな時間?」
絢音はびっくりした。
「あっという間だったね」
「ほんとそれ。こういう店来ると、時間がすぐ飛ぶよね」
「そろそろ、帰る?」
絢音は少し名残惜しそうに答えた。
「うん、帰りましょう」
店を出ると、夕焼けが街をやさしく染めていた。
ビルのすき間から射すオレンジの光が、二人の影を長く伸ばしている。
それぞれ買ったゲームを手に持ち、空いているほうの手は、ぎゅっと繋がれたままだった。
「今日はほんとに楽しかった、ありがとう」
「俺のほうこそ。すごく楽しかった」
別れ道に差しかかり、二人は手をゆっくりと離した。
「ねぇ……」
絢音が何か言いたげに口を開いたが、すぐに閉じてしまう。
両手を背中に回し、目線をそらしながら、少し迷っている様子だった。
「瞳!」
突然、絢音が声を張り上げた。
「ん?」
瞳が顔を向けようとした瞬間――
右頬に、ふわっと柔らかい感触が伝わってきた。
「えっ……?」
驚いて顔を上げると、絢音の頬は夕陽よりも真っ赤に染まっていた。
「これはお礼ってことで。……じゃあね、また明日!」
絢音は満面の笑みでそう言い残すと、くるりと背を向けて走り去っていった。
その場に立ち尽くした瞳は、そっと右頬に手を当てたまま、空を見上げた。
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